見出し画像

頭の中の最上位にあるアイデア

ポール・グレアム(Paul Graham)が執筆したエッセー「The Top Idea in Your Mind」の日本語訳になります。

2010年7月

最近、朝のシャワー中に考えていることが思ったよりも大事であることに気がついた。朝のシャワー中がアイデアを持つにはいい時間だと分かったのだ。私はさらに踏み込んで「あなたがシャワー中に考えていないことを本当にうまくやり遂げるのは難しい」と言うだろう。

難しい問題に取り組んだことがある人は、答えを考え出すのに懸命に取り組んだが失敗し、別のことをしているときに少し遅れて突然答えが見えてくる、という現象におそらく精通している。自分が思考しようと試みることなくするような思考があるのだ。このタイプの思考は、単に難しい問題を解決するのに役立つのでなく、難しい問題を解決するのに必要不可欠である、と私はますます確信している。トリッキーな部分は、あなたはこのタイプの思考を間接的にコントロールするしかできないことである。[1]

ほとんどの人たちはいつでも頭の中に一つの最上位なアイデアを持っていると思う。それは、思考が自由に漂うことを許されているときに、思考がアイデアに向かって漂うアイデアである。そして、他のアイデアがこういうタイプの思考の恩恵を不足とする一方で、このアイデアは結果としてこういうタイプの思考のすべての恩恵を得る傾向があるだろう。すなわち、間違ったアイデアをあなたの頭の中の最上位にすることは最悪なことであるのだ。

このことを私に明らかにしたのは、自分が頭の中で最上位としたくないアイデアを2回も長い間持っていたことだった。

私はスタートアップが資金調達をし始めたときに、スタートアップがあまりはかどらないことに気づいていたが、私たち自身が資金調達をするまでその理由が分からなかった。問題は投資家と会うのにかかる実際の所要時間ではない。問題は、あなたが一度資金調達をし始めると、「資金調達」があなたの頭の中の最上位のアイデアとなることである。これが、朝シャワーを浴びるときにあなたが考えることとなるのだ。そして、このことは他の問題は朝シャワーを浴びるときにあなたが考えることではないことを意味する。

私は Viaweb を運営していたときに資金調達を嫌っていたが、なぜ自分がそんなにも嫌っていたのかを忘れていた。私たちがYコンビネーターのための資金調達をしたとき、私は思い出した。「お金の問題」は、特に頭の中で最上位なアイデアとなりやすい。その理由は、お金の問題はそうならざるを得ないからだ。資金を調達することは難しい。資金調達はデフォルトで起こるようなものではない。資金調達をあなたがシャワー中に考えることにしないかぎり、資金調達は起こらないだろう。そうなると、あなたが取り組んだ方がいい他のことがはかどらなくなるだろう。[2]

(私は教授である友人たちから同じような不満を聞く。最近の教授は、副業として少し研究をするプロの資金調達家になってしまったようだ。このことを直すときであるかもしれない。)

これがこんなにもいや応なく私を感動させた理由は、これまでのほとんど10年間、自分がしたいことについて考えることができたからである。なので、自分がしたいことについて考えることができなかったときのコントラストは著しかった。しかし、この問題は自分に限ったことではないと思う。なぜなら、私がこれまで見てきたほとんどすべてのスタートアップは、資金調達をしたり買収者と話したりし始めたときに急停止するからである。

あなたは自分の思考がどこに漂うかを直接コントロールすることはできない。あなたが思考をコントロールしている場合、思考は漂っていない。しかし、自分で自分自身をどんな状況に陥らせるかをコントロールすることで、あなたは思考を間接的にコントロールすることができる。「あなたがやらせることがあなたにとって重要になることに注意しなさい」は、私にとって教訓であった。最も差し迫った問題が自分が考えたい問題であるような状況に自分の身を置くようにしなさい。

当然、あなたは完全なコントロールをしない。緊急な事態は他の思考をあなたの頭から押し出すかもしれない。しかし、緊急な事態がなければ、あなたは自分の頭の中で最上位なアイデアとなるものにかなり間接的なコントロールをするのである。

より多くの興味深いアイデアを押し出すという点で、大型魚ナイルパーチのような思考を避けるのに特に価値がある2つのタイプの思考がある、ということを私は発見した。1つは私が既に述べたもので、お金についての思考である。お金を得ることはほとんど本質的には注意が衰えることである。もう1つは論争である。論争も間違ったやり方で関与している。論争は、実体はないが純粋に興味深いアイデアと同じマジックテープのような形をしている。なので、あなたが本当にやるべきことをやってしまいたい場合、論争を避けなさい。[3]

ニュートンでさえこのトラップにハマってしまった。1672年に色についての理論を発表した後、彼は自分が何年間も論争に気を取られていたことに気づき、最終的に唯一の解決策は発表をやめることだと結論づけた。

私は自分を哲学の奴隷にしてしまったが、ライナス氏の干渉から解放されたら、自分の個人的な満足のためにすることや自分の後を追って現れる許しを除いて、私は永遠に哲学に断固とした別れを告げるだろう。私が見たところ、人は新しいものを何も生み出さないと決意するか、哲学を守るために奴隷になるかのどちらかにならなければらない。[4]

ライナス(Linus)とリエージュ(Liege)にいる学生たちは、しつこい批評家の一員だった。ニュートンの伝記作家であるウェストフォール(Westfall)は、ニュートンが過剰反応していたと感じたようである。

ニュートンが書いた当時、ニュートンの「奴隷状態」がリエージュへの5つの返信から成っていて、1年の間に合計14の印刷されたページとなっていたことを思い出す。

私はニュートンにもっと同情する。問題は14ページではなく、このくだらない論争を絶えず他のことについて非常に熱心に考えたい頭の中の最上位のアイデアとして再び導入させることの苦悩である。

相手にしないことは自己中心的の利点であることが分かる。あなたにケガをさせる人は、あなたを2回傷つける。1回目はケガそのものによるもので、2回目はケガについて考えた後にあなたの時間を奪うことによるものである。ケガを無視することを学ぶと、あなたは少なくとも2回目を避けることができる。私は人々が自分に言ってきた悪口について考えることをある程度避けることができると分かった。これは私の頭の中のスペースに値しない。私は自分が論争の詳細を忘れていたことに気づくことをいつも嬉しく思う。なぜなら、これは自分が論争のことについて考えていなかったことを意味するからである。妻は私が彼女よりも寛容であると思っているが、私の動機は純粋に自己中心的である。

多くの人たちはどんなときでも頭の中にある最上位なアイデアが何であるかを確信していないだろうと思う。私はよくそのことについて誤解される。しかし、これを解明するのは簡単である。ただシャワーを浴びればいいのだ。あなたの思考はどんなトピックに戻り続けるのか? もしそれがあなたの考えていたいことでないのなら、あなたは何かを変えたほうがいいかもしれない。

注釈

[1]このタイプの思考に対して名前が既にあるのは確かだが、私はこれを「アンビエント思考」と呼ぶ。

[2]これは私たちの場合において特に明らかにした。なぜなら、自分たちが調達した資金はどちらも難しくなかったが、それでもどちらのプロセスの場合も何ヶ月も延々と続いた。多額のお金をあちこちに動かすことは、決して人びとがカジュアルに取り扱うものではない。必要とされる注意は、金額が大きくなるにつれて、直線的ではないかもしれないが間違いなく単調に増えていく。

[3]推論:管理者になるのを避けてください。さもないとあなたの仕事はお金や論争に対処することから成るだろう。

[4]Richard Westfall『The Life of Isaac Newton 』p.107 のオルデンバーグ(Oldenbur)への手紙。

このエッセーの下書きを読んでくれた Sam Altman、パトリック・コリソン、ジェシカ・リビングストン、ロバート・モリスに感謝する。


読んでくれて、ありがとう🙋🏻‍♂️ もしこのnoteが気に入ったら、「❤️」ボタンを押したりTwitterでシェアしたりしていただくと喜びます👍🏻 🆕 Jackを応援するパトロンになりませんか?👀 https://note.com/tokyojack/circle