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短編小説x写真【ブラックホールにも春が来る】渋谷のものがたり 6/6(最終回)

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「児童相談所に来る親って高圧的な人が多くて、女性職員は怖い思いをしてるの。カナミちゃんみたいに強い人が居たら心強いから」
「……………」
「それに、今の仕事はやり甲斐が無いって言ってたでしょ?」
「え…、ああ……」
「キツイけど、児相はやり甲斐すっごくあるよ。社会に貢献できる素晴らしい仕事だし」

社会に貢献―、その言葉が胸に残る。

「実際に相談員になるためには、公務員試験を受けないといけないけど、まずはアルバイトか契約社員で始めて実務経験を積んで…、どうかな?」
「…………」
「ごめんね、突然こんな話。万年人手不足だから、つい誘っちゃった」

彼女が苦笑している。
確かに突然すぎて頭が付いて行かないが、なぜか胸がドキドキした。

手を上げたままDSCF2428

「私、そろそろ行くね。もしその気になったら、いつでも連絡して」
「は、はい」

考えたことも無かった。
私が、児童相談所の職員?

ドキドキが乗り移ったのか、体まで微かに震え出した。

救う方へ2DSCF2448

これは武者震いだろうか。
私は、その仕事をやりたいと思っているの?

‟助けてくれる大人なんていない。私は一人ぼっちだ”
あの頃の自分にもし寄り添ってくれる大人がいたら、どれだけ救われただろう。

苦しんでいる子供に、私が手を差し伸べられるの―?

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震えがおさまるのと同時に、ふわりとまた、カラスアゲハが宙を舞うのが見えた。

「はは…、見つかった、かも」

笑った瞬間、心の中に光が射していく。
視界がどんどんクリアになって、渋谷の街が可能性を秘めた景色に見えた。

救う方へup2DSCF2529

可愛い服やアクセサリーで誤魔化さなくても、素の自分で生きていける。
奪うんじゃなくて、救う人になれる。
―なりたい、なれるものなら。

心にようやく灯った火は、明るく未来を照らしている。
嬉しくて、私はゆっくりと空を見上げた。

夕暮れの帰り道に流れていた、あのクラシックを口ずさみながら。



writer.   新田まゆ. https://note.com/nittamayu331
photography  江部公美
  https://vimeo.com/user20809234
hair & makeup   Hinata Sakurai  https://www.instagram.com/h__ppppp/
   

featuring.      山田佳奈実
 https://www.instagram.com/yamada_kanami
instagram      https://www.instagram.com/tokyo_girls_story

第一話はこちら
https://note.com/tokyogirlsstory/n/n2c96f16a8e5e
文章を考えてくれた新田さんが、制作裏話をこちらで紹介してくれています。本編の方で使わなかった写真などもこちらに掲載しているので、是非こちらもよろしくお願いします!
東京ガールズストーリーさんが公開中の短編小説×写真のショートストーリー「ブラックホールにも春が来る」のシナリオを書いたのでその裏話を語る。
https://note.com/nittamayu331/n/ne43940d71c9e

  

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