Tokonoe.

抉るほど、言葉が滲む

Tokonoe.

抉るほど、言葉が滲む

最近の記事

要らないものをひとつ捨てると、必ず素敵なものがひとつ入ってくる。というのは私の持論です。「失った」のではなく「捨てた」のだと思って前に進むと、不思議と本当にそうなる。良いことだけを思い出にして、悪いことを教訓にして…少しづつでも進むあなたに、幸ありますように。

    • やさしさのはかりかた

      ひとりぐらしの部屋の狭いキッチンでフライパンを振っているとき、おたまを落としそうになった。すんでのところで掴んだけれど、部屋には少し大きな「がしゃん」と言う音と「わ、」という私の焦る声が響いた。 はっとして身体を固めた私に、向こうでテーブルを拭いていた彼はすぐに「大丈夫?火傷してない?」と近くに来てくれた。「大丈夫、ごめんね」と言うと、なんで謝るの、と笑った。 音を立ててしまったその瞬間わたしの頭に浮かんだのは「怒られる」という言葉だった。 元彼と同棲していた時、帰宅早

      • 冬に溶けた彼

        今日、春物のコートを下ろした。 今まで私を寒さから守ってくれていた冬物のブラウンのコートに比べると、それはとても薄くて心許ない。ぐんと防御力の落ちそうな装備にちょっぴり不安になって、ストールの一枚もかばんに忍ばせようかと悩んだけれど、それも家に置いてきた。三月が、冬が、終わろうとしている。 二月の頭に、恋人ができた。 自分でも驚いているのだけど、“3年付き合った彼”でも、“あの人”でも“優しい人”でもない、まっさらな状態で始まった人。去年の秋くらいに出会い、ぽつりぽつり

        • におい

          今の家に引っ越してもうすぐ2ヶ月が経つ。このあたりの相場にしては少し高い家賃の、少し広めの部屋。大きめの窓から入る光は少し眩しいくらいで、とても住みやすい素敵な部屋だ。 そんな部屋で、ひとり 私は未だに彼の夢を見る。 今の家に自分が馴染んできてふと思ったのは、「においが違うなあ」ということだ。 今思えば、同棲していたとき「ただいま」とドアを開けた時に香っていたのは彼の匂いだった。同棲する前に遊びに行った時の、彼のおうちの匂い。 私たちは結局、混ざりあえていなかったの

        要らないものをひとつ捨てると、必ず素敵なものがひとつ入ってくる。というのは私の持論です。「失った」のではなく「捨てた」のだと思って前に進むと、不思議と本当にそうなる。良いことだけを思い出にして、悪いことを教訓にして…少しづつでも進むあなたに、幸ありますように。

          日焼けた畳

          何も無くなった「私の部屋」は、くどいくらいに、そこに確かに私が居たという痕を残していた。 ベッド、本棚、机。この部屋に初めて来た時には真新しく青々していた畳の、その色が、それらの家具のあった場所にだけ残っている。 私と彼は、12月の頭に別れた。 正確には、私が、家を出た。 「別れよう」と言う言葉は、わたしが言った。 好きだった。 好きで好きで好きで、こころの痛覚が麻痺するくらい、好きだった。愛していた。 でも、それは、愛は、私だけでは成り立たないのだ。 鍵を失

          日焼けた畳

          どうしようもない

          一昨日、家の鍵を失くしました。 彼とふたりで夜、コンビニに出ている時。 運悪く私しか鍵を持っていなかったためもちろん家に入れず、来た道を手分けして探しました。 5分くらいの道を一往復して、無事鍵は見つかりましたが 彼はそれからずっと不機嫌で 復縁してから本当に順調でした。「そばにいてくれてありがとう」と毎日抱きしめてくるような、そんな彼と、わたしに。私達に戻っていました。 でも、彼は、やっぱり、わたしが何か失敗をすると不機嫌になり、口をきかなくなるのです。 誤っ

          どうしようもない

          枯渇から湧き出るもの

          満たされているときには、言葉を紡げない というのは私の持論である。 このnoteのアカウントを作った時、私は泥と石ころが埋まりぐずぐずと膿んだ傷を抱えながら生活をしていた。消毒の仕方も絆創膏の貼り方もわからず、「痛い」と言うことさえ叶わずどうしようもない気持ちで叫ぶように文章を書いていた。文字を打っている時はただただ一心不乱に。怖いくらい集中できて、「公開」のボタンを押すと、なんだかひとつ心の石がぽろりと外れたような気さえした。 突発的に起きたどうしようもない思いや、自

          枯渇から湧き出るもの

          彼に全てを求めないということ

          彼と「寄り」が戻り3か月が経った。 別れているあいだも一緒に住んでいた私たちは、今はもうそれまで付き合っていたころのように、寧ろ今までよりも仲が良く、円満にやっている。 それは、私が、彼に対して不安になったり、彼を通して自分の価値を確かめようとすることや彼だけを求めることをやめたからであると思う。 私には、父親がいない。 正確には、いるのだけど、いないということにして、仕舞った。 彼との喧嘩、別れを経験して気付いたことは、私の愛情の求め方は恐らく普通ではないのだというこ

          彼に全てを求めないということ

          彼のハヤシライス

          10月が、来た。 何度も書いているけれど彼と私が別れ話をしたのは五月で、あれからもう五か月も経ったのだと思うと、とても不思議な気持ちになる。 彼と喧嘩をしたその日、夜ご飯はハヤシライスの予定だった。 彼の、唯一の得意料理だ。 それを作ってくれて、「寝かせたほうが美味しいからちょっと待とう」とお鍋のふたを慎重に閉じて彼は得意げな顔をしていた。その直後だ、ふとした話から喧嘩になったのは。 付き合って3か月くらい経った時。彼の家に行った時、私はふと思い立って「晩ごはん作ろ

          彼のハヤシライス

          錆びた涙腺と慣れた夜について

          ふと、泣くことが下手になったなあと思う。 しばらく、「泣かないことが上手になった」のだと思っていた。 でも、違った。 泣くべきではないとことで涙を見せないのは正しい大人のなり方だけれど、泣いていいところや泣くべきところでうまく涙が出ないのは、泣き方が下手になったからなのだ。涙腺が乾いている。涙の通り道が、しばらく水を流されないことで干からびているから、水を流そうとしてもうまく流れない。じわり染み出す悲しみで、涙の蛇口はどんどん錆びていく。 こんなひとは、とても多いので

          錆びた涙腺と慣れた夜について

          ノンタイトル

          わたしの、この清くも正しくもない夏のことを綴っているノートをまとめて、マガジンというのを作った。マガジンのアイコンのようになっている画像は、彼と吉祥寺デートをしたときにムーミンカフェに立ち寄りタピオカの飲み物を飲んだ時にストローにおまけとしてくっついていたものである。 タピオカは、そこでは「ニョロニョロのたね」と呼ばれていた。普段ファンタジーやかわいいものに目もくれない彼が何故か選んだムーミンカフェ。そのファンシーな店内で彼は「ニョロニョロのたね」をもぐもぐ咀嚼しながらすこ

          ノンタイトル

          乾かない、あの日の涙は彼のもの。

          8月30日と31日は、記念日だった。 という書き出しを、消して、書き直す。 8月30日と31日は、「記念日」である。 彼についてのことを全て過去形にする癖がついてから、 すこしばかりの時間が経った。 彼と喧嘩をして、別れたのは5月の終わりだった。 きっかけは、些細なことだ。でも、それまで不安とか悲しさとかをうまく押し込めてやってきてしまったわたしは、何を思ったかその「些細なこと」にその「それまでのすべて」を乗っけてしまった。それでも彼には伝わらなくて、なんでこんな

          乾かない、あの日の涙は彼のもの。

          「休憩」で息継ぎをする

          昨日、“あの人”と会った。 初めて我儘を言った日を入れて、四回目だった。 最初の日、私をはじめて組み敷いたとき、こちらをじっと見ながら「なにがあったの」とその人は聞いた。何も言えなくてただ目を見返すことしかできなかった私を見て、「今そういう話するのは違うか。ごめんな」と頬を撫でてくれた。そしてそのまま、ただただ熱をぶつけ合った。それ以来、私になにがあったかとか今付き合ってる人はいるのかとか仕事の詳しい内容とか一人暮らしなのかとか聞いてくることは一切なくて、ただ毎日だらりと

          「休憩」で息継ぎをする

          場所を変える、という話

          中学校の同窓会の知らせが届いたので、これを書こうと思う。 私は学生時代、一度だけ転校をした。中学三年生の一学期のはじまりに、しかも私立の中学校から公立の中学校へというとてつもなくアウェーな状況での転校だった。 原因は、所謂「いじめ」だ。 トイレの個室に閉じ込められて上からバケツの水をぶっかけられたりだとか、机の上に花瓶の花が置いてあったりだとか、靴の中に画びょうを入れられたりだとか、そういった「派手」な類のものではない。いじめに派手もクソもないのだけど、確かに差はあるの

          場所を変える、という話

          #平成最後の夏 は何も正しくない

          私は今、自分を振った恋人と一緒に住んでいる。 家は幸いにも3LDKだ。それぞれの部屋がきちんとある。 わたしは帰宅すればすぐにシャワーを浴びてそのまま自分の部屋に入りドアを閉めて夜を過ごすし、彼もそんな感じだ。 だけど、キッチンには彼の食の趣味に合わせて揃えたまま放置されている調味料が出番を待ちわびながら静かにこちらを見ているし、私の部屋にも彼の部屋にも変わらずいままでと同じ場所にペアリングが置いてある。 変わったことと言えば、いってらっしゃいとただいまのハグとキスが

          #平成最後の夏 は何も正しくない

          はじめて恋人ではない人とセックスをした話

          「ダメな彼」と別れて三か月が経った。 彼に抱かれるという死を選んだ朝のあと。あの日の夜。傷つくだけ傷ついて、ズタズタになって立っていられなくなった私は、とあるひとの手を掴もうとした。まだ彼とうまくいっていたころに出会った人。飲み仲間として、チャラくてとても楽しかった人。 今夜空いていませんか、なんて人生で初めて送った文章だった。 今までずっとふたりで飲みに行こうという誘いを断り続けていたくせに、急に手のひら返したように誘ってきた私にその人は驚きながら、「嬉しいけど今日は

          はじめて恋人ではない人とセックスをした話