霜月透子

【創作大賞2023 新潮文庫nex賞】『祈願成就』新潮文庫5/29 /第16・17・1…

霜月透子

【創作大賞2023 新潮文庫nex賞】『祈願成就』新潮文庫5/29 /第16・17・19回坊っちゃん文学賞 佳作/アンソロジー『夢三十夜』(学研プラス)、「5分後に意外な結末」シリーズ(学研プラス)他 詳細▶︎ https://toko-11.amebaownd.com/

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  • 「赤き月は巡りて」全9話

    想い合う二人の仲が引き裂かれたその時、夜空には真っ赤な月が浮かんでいた。 二人は、次こそ結ばれることを願って輪廻転生を繰り返す。

  • 『祈願成就』感想ありがとう!

    書籍版『祈願成就』にいただいた感想文。時々読み返してニマニマするための自分用コレクション。

  • 『祈願成就』書籍関連

    創作大賞2023新潮文庫nex賞受賞以降の『祈願成就』書籍化に関する記事をまとめました。

  • その他

    近況報告やお知らせ、または雑記など。

  • 「死ねない死者は夜に生きる」全14話

    【小説】 《生ける屍の孤独と純愛の物語》 “生ける者”が棲むシガン。“死せる者”が棲むヒガン。二つの世界は重なって存在する。そのシガンとヒガンに別れ棲む一組の恋人と、幾星霜も孤独に死んでいる少女の物語。現代日本が舞台のダークファンタジー。(2024.6.16加筆改稿)

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固定された記事

6/29 トークイベントでお話させていただきます

6月29日、創作大賞2024の締切を目前に控え、「締め切り直前、どこ粘る?」をテーマにお話させていただくことになりました。 創作大賞2023受賞者から、せやま南天さんと霜…

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 結局、玲奈には連絡をしなかった。向こうからも音沙汰がないのだから構わないだろう。もっとも、玲奈は意地でも自分からは電話もメッセージもしないと決めているのかもし…

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「涼ったらぁ、花火いやなの?」  不満そうに玲奈がにらむ。 「ああ、ごめん、ごめん。今日、担当しているばあちゃんが具合悪くなって。ちょっと心配でさ」 「涼のそう…

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「赤き月は巡りて」第6話(全9話)

 花火大会には甚平で行くと玲奈に約束したが、ボランティア後に着替えるのも面倒だから朝から甚平で行くことにした。 「あら、いいわね」  牧田さんが会うなり挨拶も抜…

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「赤き月は巡りて」第5話(全9話)

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 その年の夏、終戦を迎えても特に生活がすぐに変わるわけではなかった。  どうにか我が家があったらしき場所に焼け残ったトタンなどで小屋のようなものを建てて、ずっと…

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「赤き月は巡りて」第3話(全9話)

 そんなやりとりがあったこともやがて忘れ、私は貯金局に勤めるようになっていた。  市役所と近いので、いつも父と一緒に出かける。近頃は空襲警報が増えてきたので、少…

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小説を書く人が答える小説に関係なさそうでありそうな50の質問

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第2章 燃える空  今までにもう何通くらい書いたことだろう。女学校ではことあるごとに慰問文を書かされる。  先生は「真心を込めてかきなさい。送る相手が違うからとい…

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「死ねない死者は夜に生きる」第4話(全14話)

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「赤き月は巡りて」第1話(全9話)

第1章 赤き月が昇る夜  まだ明けきらぬ薄闇の中、乾いた葉擦れの音がひんやりとした空気を震わせる。虫たちの声が重なり合う。  シュッと風を切るかすかな音がして、す…

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童話「おばけにだって悩みはある」

1. おばけ屋敷のヒカル  日が暮れてきました。  今にも崩れそうな古いお屋敷に、ちょうちんの明かりだけがポワッと灯っています。お屋敷の周りには柳の木が並んでい…

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短編「ホシラン」

 空が茜色から群青色へと移りゆく。やがて地上の空気までも空の色に染まった。  アンナはいつものようにテラスに誰も残っていないことを確認すると、談話室のガラス戸を…

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「まがり角のウェンディ」第18話(全18話)

Ⅵ ー ⅰ 西から梅雨入りの知らせが広がり始めていた。日雇いの現場でもどの地方が梅雨入り宣言されたなどとの話題が多い。亜美の結婚式までもつといいが。  信也は色の薄…

霜月透子
3週間前
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ナニヨモさんの新刊インタビューにお答えしました。『祈願成就』についてのほか、小説を書くうえでのことなどをお話しています。
https://naniyomo.com/?p=13895

※ナニヨモは、ステキブンゲイでお馴染みステキコンテツの文芸・本のニュースサイトです。

霜月透子
3週間前
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「まがり角のウェンディ」第17話(全18話)

Ⅴ ー ⅱ ぱらりとページをめくる。このノートも残り少なくなってきた。明日の仕事帰りにでも新しいのを買ってこなければ。  仕事を終えて日当を受け取ると、信也は誰より…

霜月透子
3週間前
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6/29 トークイベントでお話させていただきます

6/29 トークイベントでお話させていただきます

6月29日、創作大賞2024の締切を目前に控え、「締め切り直前、どこ粘る?」をテーマにお話させていただくことになりました。

創作大賞2023受賞者から、せやま南天さんと霜月透子、そしてそれぞれの担当編集さんを交えた4名でのトークイベントです。
編集者さんの生の声を聞ける貴重な機会です。
応募ジャンルや意識している出版社にかかわらず、参考になるお話が聞けるのではないかと、私自身も楽しみにしておりま

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「赤き月は巡りて」第8話(全9話)

「赤き月は巡りて」第8話(全9話)

 結局、玲奈には連絡をしなかった。向こうからも音沙汰がないのだから構わないだろう。もっとも、玲奈は意地でも自分からは電話もメッセージもしないと決めているのかもしれないが。これで終わっても構わない。なんだかどうでもよかった。

 「まほろば」でのボランティア最終日だ。

 いつものカヨさんに戻っているだろうか。牧田さんからは、俺がカヨさんの体調不良の原因を作ったかのように思われていて、顔を合わせづら

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「赤き月は巡りて」第7話(全9話)

「赤き月は巡りて」第7話(全9話)

「涼ったらぁ、花火いやなの?」

 不満そうに玲奈がにらむ。

「ああ、ごめん、ごめん。今日、担当しているばあちゃんが具合悪くなって。ちょっと心配でさ」
「涼のそういう優しいとこ、すごくいいとは思うけどぉ」

 そこまでで言葉を切って上目遣いにちらりと見る。玲奈お得意の表情だ。きっと自分が控えめでかわいく見えると思っているのだろう。俺もそう思っていた。昨日までは。でも、なぜだか今日はその計算が見え

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「赤き月は巡りて」第6話(全9話)

「赤き月は巡りて」第6話(全9話)

 花火大会には甚平で行くと玲奈に約束したが、ボランティア後に着替えるのも面倒だから朝から甚平で行くことにした。

「あら、いいわね」

 牧田さんが会うなり挨拶も抜きに目を輝かす。

「今日、花火大会に行くんでこんな恰好で来ちゃったんですけど、大丈夫ですかね?」

 どうせ今日も一日カヨさんの話を聞いているだけだろうから問題ないとは思うが、一応聞いてみる。

「大丈夫、大丈夫。夏らしくていいじゃな

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「赤き月は巡りて」第5話(全9話)

「赤き月は巡りて」第5話(全9話)

第3章 まほろば

「それでね、後になってわかったことなんだけどね、戦艦大和に乗っていたらしいのよ」

 今日もカヨさんは絶好調ならぬ舌好調だ。

「涼君だって知っているでしょ? 有名だもの、戦艦大和」
「宇宙戦艦?」

 なんで第二次世界大戦の話に古いアニメの船が出てくるんだ?

「そうそう、やっぱり知っているのね、戦艦大和。私たちは戦後五年くらいして初めて知ったのよ。戦争中は極秘事項だったのね

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「赤き月は巡りて」第4話(全9話)

「赤き月は巡りて」第4話(全9話)

 その年の夏、終戦を迎えても特に生活がすぐに変わるわけではなかった。
 どうにか我が家があったらしき場所に焼け残ったトタンなどで小屋のようなものを建てて、ずっと父の帰りを待っていたが今日まで音沙汰がない。あの空襲の中、市役所の職員として市民の誘導を行いそのまま帰らぬ人となったのであろう。もちろん悲しいのだが、傷病兵として帰国させられて肩身の狭い思いをしていた父だったから、本人としては満足のいく最期

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「赤き月は巡りて」第3話(全9話)

「赤き月は巡りて」第3話(全9話)

 そんなやりとりがあったこともやがて忘れ、私は貯金局に勤めるようになっていた。
 市役所と近いので、いつも父と一緒に出かける。近頃は空襲警報が増えてきたので、少しでも父といられるのは安心だった。

 けれども、五月二十九日の空襲警報は結局別々の場所で聞くことになる。
 その日はとてもよい天気だった。

 貯金局に着いた途端、空襲警報のサイレンが鳴り、空からバラバラと機銃掃射の弾が落ちてくるのが窓か

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小説を書く人が答える小説に関係なさそうでありそうな50の質問

小説を書く人が答える小説に関係なさそうでありそうな50の質問

小説に関する総合情報メディアWeb Novel Laboさん配布の「小説を書く人が答える小説に関係なさそうでありそうな50の質問」にお答えしてみたいと思います。

Q.1 一番好きな飲み物を教えてください。
緑茶。
上品な甘みのあるまろやかな緑茶よりもガツンと味の濃い苦めの緑茶が好きです。

Q.2 一番好きな食べ物を教えてください。
一番は難しい……
子どものころは鯨ベーコンが大好物でした。

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「赤き月は巡りて」第2話(全9話)

「赤き月は巡りて」第2話(全9話)

第2章 燃える空

 今までにもう何通くらい書いたことだろう。女学校ではことあるごとに慰問文を書かされる。
 先生は「真心を込めてかきなさい。送る相手が違うからといって毎回同じ文章をかかないように」と険しいお顔でおっしゃる。
 そうは言っても相手は見ず知らずの男性なので、毎回同じようなことを書くしかない。ところどころ違う文章を差し込むだけだ。

「根岸飛行場へ出勤する女性事務員は美しくモダンな人ば

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「死ねない死者は夜に生きる」第4話(全14話)

「死ねない死者は夜に生きる」第4話(全14話)

       ♡     

 冷たい海は咲にある冬の日を思い起こさせた。
 もう何年も思い出すことのなかった始まりの記憶。まだ互いの名を呼び捨てにしていなかったころの記憶。
 

 2月14日、夕方5時20分。スマホで時間を確かめて歩き出す。

 冷たい風にぶるりと震え、トートバッグに抱きつくように身を縮こませた。

 ネットの天気予報には夜から小雪がちらつくかもしれないと書かれていた。車窓から

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「赤き月は巡りて」第1話(全9話)

「赤き月は巡りて」第1話(全9話)

第1章 赤き月が昇る夜

 まだ明けきらぬ薄闇の中、乾いた葉擦れの音がひんやりとした空気を震わせる。虫たちの声が重なり合う。
 シュッと風を切るかすかな音がして、すぐにトンと何かに当たった。
 それを合図にしたかのように、東の空が白み始め、鳥たちが目を覚ます。黒一色だった村や山の風景が色を取り戻していく。

 しかし村が目覚めるのにはまだ早い。

   *

「矢がたったぞ!」

 誰かの叫び声で

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童話「おばけにだって悩みはある」

童話「おばけにだって悩みはある」


1. おばけ屋敷のヒカル

 日が暮れてきました。
 今にも崩れそうな古いお屋敷に、ちょうちんの明かりだけがポワッと灯っています。お屋敷の周りには柳の木が並んでいて、風もないのにしなやかな枝がゆらりゆらりと揺れています。

 ここは、おばけ屋敷。でも普通のおばけ屋敷とはちょっとちがいます。営業時間は、日暮れから真夜中まで。
 どうしてそんな時間なのかというと、働いているのが本物のおばけたちだから

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短編「ホシラン」

短編「ホシラン」

 空が茜色から群青色へと移りゆく。やがて地上の空気までも空の色に染まった。
 アンナはいつものようにテラスに誰も残っていないことを確認すると、談話室のガラス戸を施錠した。

「夜がやってくるわねぇ」
 背後からの声。振り向かなくても誰なのかすぐにわかった。
「そうですね。月子さん」
 背を向けたまま返事をする。ガラス戸の調光板を操作してブラインドをかけていると、月子が感情の失せた声で呟いた。
「偽

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「まがり角のウェンディ」第18話(全18話)

「まがり角のウェンディ」第18話(全18話)

Ⅵ ー ⅰ 西から梅雨入りの知らせが広がり始めていた。日雇いの現場でもどの地方が梅雨入り宣言されたなどとの話題が多い。亜美の結婚式までもつといいが。
 信也は色の薄い青空を見上げる。
 空の色さえ、亜美の姿を思い起こさせる。幼い頃にお気に入りだったワンピース。街角で出会った半透明の亜美も着ていたワンピース。信也の生きる世界のどこにでも亜美はいて、どこにもいなかった。

 小説を完結させると決めてか

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ナニヨモさんの新刊インタビューにお答えしました。『祈願成就』についてのほか、小説を書くうえでのことなどをお話しています。
https://naniyomo.com/?p=13895

※ナニヨモは、ステキブンゲイでお馴染みステキコンテツの文芸・本のニュースサイトです。

「まがり角のウェンディ」第17話(全18話)

「まがり角のウェンディ」第17話(全18話)

Ⅴ ー ⅱ ぱらりとページをめくる。このノートも残り少なくなってきた。明日の仕事帰りにでも新しいのを買ってこなければ。
 仕事を終えて日当を受け取ると、信也は誰よりも早く現場を去った。
 最寄り駅で降りる。足早に住宅街を進む。教会の角を曲がる。閉じられた門扉を見上げて、早く続きを書いてあげなくては、と思いを新たにした。
 公園の向かいにあるコンビニでノートを手にレジへ向かうと、いつもいる店員と目が

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