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「死ねない死者は夜に生きる」全14話

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【小説】 《生ける屍の孤独と純愛の物語》 “生ける者”が棲むシガン。“死せる者”が棲むヒガン。二つの世界は重なって存在する。そのシガンとヒガンに別れ棲む一組の恋人と、幾星霜も孤独…
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記事一覧

「死ねない死者は夜に生きる」第1話(全14話)

♧  今夜は雲が多い。薄雲に覆われた満月が朧げに灯る。その淡い月光は、浜辺をそぞろ歩きす…

霜月透子
1年前
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「死ねない死者は夜に生きる」第2話(全14話)

♢  雑木林を抜けると、途端に視界が開けた。すかさず身を伏せる。膝を折っただけで十三歳の…

霜月透子
1年前
7

「死ねない死者は夜に生きる」第3話(全14話)

♤  三日経ち、颯は苛立っていた。  咲と連絡がつかない。  電話をかけても電源が入ってい…

霜月透子
1年前
6

「死ねない死者は夜に生きる」第4話(全14話)

       ♡       冷たい海は咲にある冬の日を思い起こさせた。  もう何年も思…

霜月透子
7日前
6

「死ねない死者は夜に生きる」第5話(全14話)

♡  浮上していく。全身が脱力したまま浮上していく。  どういうわけだか、どれほど「動け…

霜月透子
1年前
3

「死ねない死者は夜に生きる」第6話(全14話)

「明日は満月だな」  庭先に立つランコが、夜空を見上げて言った。  サキは窓枠に寄りかか…

霜月透子
1年前
4

「死ねない死者は夜に生きる」第7話(全14話)

♢ 「調子はどう?」  ランコはサキのベッド脇で腰を屈めた。  狩りの後からサキは躰が重いと訴えている。次第に動きも緩慢になり、数日前からはほとんど伏して過ごすようになっていた。  ヒガンに長く棲むランコだが、サキのような状態をどう扱えばいいのか見当もつかない。ランコも死せる者の中では特異体質だが、サキはさらに特異だといわざるをえない。このような個体が発生することがあるのは知識としてあるにはあるが、遭遇したのは初めてだ。  既に死んでいる躰だ。怪我も病気もない。これ

「死ねない死者は夜に生きる」第8話(全14話)

 あれは何年前だろう。先の戦争が終わり、世の中が貧しくも平穏な日々が訪れた頃だった。町中…

霜月透子
1年前
3

「死ねない死者は夜に生きる」第9話(全14話)

♧  黒いミニドレスの少女が外へ飛び出していったのを確認すると、要はすぐさま硝子格子戸を…

霜月透子
1年前
3

「死ねない死者は夜に生きる」第10話(全14話)

♡  サキは恐る恐るカーテンの端をめくった。闇の深い夜だった。  今夜が朔であることは確…

霜月透子
1年前
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「死ねない死者は夜に生きる」第11話(全14話)

♡  サキは走った。今しがた飛び出してきたあのマンションから、少しでも遠く離れたかった。…

霜月透子
1年前
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「死ねない死者は夜に生きる」第12話(全14話)

♢ 「なあ、サキ。いったい、なにがあったんだ?」  ランコは眠るサキに問いかける。返事が…

霜月透子
1年前
3

「死ねない死者は夜に生きる」第13話(全14話)

♧  要はコンビニの駐車場の車止めに腰かけて、買ったばかりの肉まんに齧りついた。  暖を…

霜月透子
1年前
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「死ねない死者は夜に生きる」第14話(全14話)

♤  颯は鼻をひくつかせた。  体が臭い。化膿した傷口のような、腐臭とも生臭さともつかない臭いが鼻につく。  手のひらで首回りを撫で回すと、ポロポロとかさぶたのようなものが剥がれ落ちた。  首筋の流血は止まっている。痛みもない。指先のすり傷や切り傷でさえ鬱陶しいほどに痛みを主張するのに、噛み切られても支障がないとはどういうことだ。咲に似たなにかに襲われたのは夢か錯覚だったのだろうか。それにしてはあまりにも鮮明な記憶だ。  室内を見回すと、赤茶色の染みがそこかしこに飛び散