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#1375 第十五回は、試験に現れなかったしんじあについて説明するところから……

それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。

今日から「第十五回」に入ります!それでは早速読んでいきましょう!

第十五回 あら海や佐渡に横[ヨコタ]ふあまの川
と渡る舟の櫂[カイ]の雫[シズク]か、雨ふりかゝる袖のなみだは

力山[チカラヤマ]を抜く項羽も虞氏[グシ]の別れには血眼こすり、悟りて庵りを鎖[トギ]せし瀧口[タキグチ]の法師も横笛の最後には青い面[カオ]せられしよし、さもありけん、さもあるべきに、さりとてはしんじあといふ人、ばいぶるの蘇言機[ソゲンキ]にもあらざるべきによくも/\警醒三昧[ケイセイザンマイ]、明けても暮[クレ]ても祈禱説教とたヾ一筋[ヒトスジ]に働[ハタラ]かるゝ事よ。

秦の滅亡後、楚の項羽(前232-前202)と漢の劉邦(前256-前195)の戦いが始まりますが、紀元前202年、劣勢を強いられた項羽の軍は垓下[ガイカ]に立てこもります。漢軍の兵に取り囲まれ、夜になると楚の歌を歌う声が聞こえてきます。これが「四面楚歌」の由来です。悲憤慷慨した項羽は詩を作って詠みます。それが「垓下[ガイカ]の歌」です。

力拔山兮気蓋世
時不利兮騅不逝
騅不逝兮可奈何
虞兮虞兮奈若何

力は山を抜き、気は世を覆う
時利あらずして騅[スイ]ゆかず
騅のゆかざるを奈何[イカン]すべき
虞[グ]や虞や若[ナンジ]を奈何せん

私には山を引き抜く力と世を覆う気迫があった
今時運を失い、愛馬騅も歩もうとしない
前に進まぬ騅をどうしたものか
虞よ虞よお前をどうしたらよいものか

項羽の愛姫である虞美人も共に歌い、項羽をはじめ皆が涙を流し、誰も顔をあげることができなかったといいます。虞美人は自分も歌を作り、それを歌い終えると、短剣を出して自ら命を絶ちます。その血を吸った地面から咲いた花が「虞美人草」だといわれています。

瀧口と横笛は「平家物語」に伝わる悲恋の物語のことです。平重盛(1138-1179)に仕える斎藤時頼という武士は、花見の宴の際に建礼門院(1155-1214)の侍女であった横笛という名の女官を見かけて恋をします。時頼は恋文を送りますが、そのことが時頼の父に知れると厳しく叱られ、時頼は自責の念を強めて出家し、滝口入道と名乗ります。横笛は滝口入道が出家したことを伝え聞くと、あちこち探し回り、ついに出家した往生院へとたどり着きます。横笛は女子の身でやってきたことを告げようと僧坊へ声をかけます。滝口入道も襖の隙間から横笛を覗くと、横笛の裾は露で濡れ、袖は涙でぬれていました。しかし、滝口入道は使いの者に「全くここにはそのような人は居りません。」と言わせます。横笛は、それでも真の思いを伝えたいと、近くにあった石に指を切った血で歌を書きます。「山深み 思い入りぬる柴の戸の まことの道に 我れを導け」。横笛は間もなく出家した寺で亡くなり、滝口入道はこれを伝え聞くとますます仏道修行に励み、高野の聖と呼ばれる高僧になったといいます。

「蘇言機」とは、#1262で紹介した錫箔式の蓄音器のことです。

戀[コイ]をしらずば神を知らじ、神をしらずば戀をも知らざらん。そもや戀のはじめは、是を大[オオイ]にすれば神と人にと起り是を小さく説けば親と子とより起る。兄を戀ひ、弟を戀ひ、此[コノ]心[ココロ]長じて女を戀ひ、男を戀ひ、國を戀ひ、天下を戀ひ、後世を戀ふまでも伸ばさば伸ぶべき者ならん。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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