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女の子にはそういう夜がある

夢の中で数年ぶりにあの人に会って、目が覚めたら涙で枕が濡れていた。
別にあの頃に戻りたいとかじゃないけど、懐かしさと切なさに胸が苦しくなって朝食をスキップする。
女の子にはそういう朝がある。

それでも満員電車に乗って出社して、お昼に同僚の女の子とペペロンチーノを食べたりする。
食後にカフェラテをテイクアウトして午後の仕事もそれなりに頑張る。
会社帰りに最近いい感じの男と中華を食べに行く。
白いブラウスにはねないように静かに酸辣湯をすする。
朝泣いていたことなんてまるで夢だったかのように。
女の秘密は海よりも深い。

生理の朝はずーーーんとおなかが重い。
在宅勤務がいい日に限って出社日だったりする。
朝の情報番組を見ながらしばらくベッドでゴロゴロする。
ゴロゴロしていてもいっこうに痛みが治まらず、
もう薬を飲むしかないと観念して起き上がる。
こういうとき、専業主婦だったらいいのにと思う。

今時、飲み会でビールをつげとかサラダを取り分けろとか言ってくる人は前時代的だと批判される。
でも、なんとなく今夜の飲み会のメンツを確認して「私の役目かな?」と察して鍋奉行してみる。
みんな「すみません、ありがとうございます」とか言いながら私がよそった器を受け取る。
本当は私もよそってもらう方が好きだけどね。
奉仕してばかりの女は奉仕されるのに弱い。
これ、世の中の真理。

夜中に丁寧な暮らしのVlogを見ていると
「ラーメン、食べる?」と聞かれて思わず「食べる」と答える。
丁寧な暮らしとは程遠い生活を送っている。
でも、夜中に食べるラーメンは丁寧な暮らしに出てくる鮮やかな菜食よりずっと美味しくて禁断の味。

今この瞬間のことしか考えられない。
そんな状態にしてくれる男が世の中にはいる。
キスをしている最中に明日の予定を考えてしまうことがあるけれど、
その人としているときだけはなぜかその人のことしか考えられない。
私から思考と器用さを奪い取ってしまう人。
頭の中、もうあなたしかいない。
そんな状態にしてくれる人。

結婚はいつかはしたい。
でも今は結婚よりも恋愛がしたい。
女の子にはそういう時期がある。

ちょっとしんどいとき、連絡したくなる人がいる。
たとえもう連絡をとることができなくても、
その人がこの世界に存在するというだけで心が少し軽くなる。
あぁ、今すぐ電話したい。
ラインしたい。
私の話を聞いてほしい。
あの人ならなんて言うだろうか?
なんて考える。
考えるだけで行動には移さない。
でも、もし1分後に世界が滅びるとしたら迷わず電話をかける。
きっとあの人のことだから2コールで電話に出る。
電話に出たら、第一声なんと言おうか。
どうせ世界が滅びるのならいっそのこと本当のことを言ってしまおうか。
なんて考える。
考えるだけで行動には移さない。
世界はしばらく滅びなさそうだから、あの人には電話しない。
死ぬほど電話したいけど、電話しない。
女の子にはそういう夜がある。

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