「 朝 焼 け 色 の 休 日 」

「今日も暗いニュースばっかりやなあ」

テレビから流れてくる情報に
頭がいっぱいになる時がある。

思わずテレビのスイッチを切った。

＊

毎日、
通勤の車内からぼんやり眺めていた
朝の空が
他にないほど綺麗で

明日は
あの朝焼けを捕まえに行こうと
ちいさく心をはずませて
眠りについた、金曜の夜。

＊

胡桃入りのベーグルとゆで卵、豆乳。
それから昨日の残りものポトフ。
簡単だけれど
好きなものだらけの朝ごはんを食べる。

熱あつのポトフから
こまやかな水蒸気が
とろとろのぼるのを目で追いながら

器を両手で包むと陶器ごしに
スープの温度がじんわり伝わってくる。

ポトフのじゃがいもの角が
ホロリとちょっと溶けているのも、
10分茹での卵の黄身が
ねっとり濃くとろけるのも

最高。

オーブントースターで温め直したベーグルは
外側がバリバリとして香ばしいのに対し
中身は綿のような生地がぎゅっと詰まっていて
ほんのり甘く、
そのツンデレ感にやみつきになる。
時折あたる胡桃の
カリコリいう食感が面白くて
胡桃だけちぎって食べてみたりする。

おっと、朝ごはんに気を取られていた

気がつけば
時計は6時15分を回っている。

はやく支度を整えなくては

黒のニットに
オフホワイトのボアコートを羽織り
緑色のタータンチェックのマフラーを
ぐるりと巻いて
足早に家を出る。

肩からひとつ
相棒のカメラをぶら下げて。

勢いよくドアを開けると
冷たい風が一気に押し寄せて来たので
思わず肩をきゅっと寄せる。


＊

ここの歩行者信号は全然青になってくれないこと
近くのラーメン屋さんが
こんなに早朝から開いていること
レースみたいに葉脈だけが残っているおもしろい落ち葉のこととか

見慣れた道の
知らなかった一面を発見しながら
進んでゆく。



次第に朝日が顔を出し始めるので
私は早歩きになる。

はやく、はやく
あの場所へ。



冷たい空気と吐息のせいで
いつの間にかまつ毛が湿気を帯びてくる。
それでも構わず、ずんずん歩く。

＊

大きな川の土手沿い、
他より少し高くなっている道から
まっすぐに
朝日の昇る方向を向く。

体ぜんぶで朝焼けを臨む。

朝日の、まぶしいオレンジ。
陽の光を受けた雲の、桜色。
空の高いところの、セレストブルー。

ラベンダー色、シェルピンク、ベビーブルー、
クリームイエロー、みかん色。
たくさんの色たちが繋がりあってできた
朝焼け。

一面に
自然だけが作り出すことのできる
美しい色であふれている。

こんなに美しい情景が
毎朝、静かに、
繰り返されているとは。

私は
夢中でカメラのシャッターを切った。

空をゆく鳥たちは群れをなして
朝日の方向に一斉に羽ばたいて行く。
気持ちいいやろうなあ
こんなに美しい空間を自由に飛び回れたら。

大きな朝日を背景に走る車が
チョロQみたいに見えてかわいい。

朝の空気を胸一杯に吸い込んで
そのまま土手沿いをゆっくり歩いた。

＊

こんなひとつの朝焼けのこと、
ニュースになんてならない。

でもそういう
なんてことないものが
私には必要。

頭の中が
すっきり洗われるような爽快感と
世界が
素敵なことで溢れている安心感。

『朝焼けさんぽ』
私の中でそう命名された今日のお散歩。

写真を現像して
今度のお手紙に添えてみようかな。
友達へ、綺麗な朝焼けのおすそわけ。