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現地に寄り添った支援とベトナムの奇跡

隊員総会のとき、所長が「”技術移転”という言葉に囚われるな」と言った。

明治維新の折、外国から技術者を多数雇ったけれど、当時の人は言われたままのことを実行、実装しなかったのだそうだ。自分たちが使いやすいようにローカライズしたらしい。所長は、それがアジアで最初に近代化できた要因の1つだと考えているようだ。

日本はそういう海外からの援助を受けて発展してきた歴史があるから、国際協力や援助の分野で欧米と違う色が出せるとすれば、日本の強みというのは、そういうローカライズで成功した経験を伝えること、活かすことだ、と。

だから、日本のやり方や自分のやり方をそのまま現地に押し付けても上手くいかないから、現地の人に寄り添った支援を模索しないといけないという趣旨のことを語っていた。

明治維新から引っ張ってくるのか、おもしろいなぁと思って聞いていた(寝てはいない!)のだけど、そこである話を思い出した。

タイトルのもう片方、ベトナムの奇跡。

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話は今から約30年前のベトナムに遡る。

当時のベトナムは、全体のおよそ3分の2の子どもたちが低栄養に苦しんでいるという状況下にあった。

その状況を改善するためにセーブ・ザ・チルドレンから1人の男が派遣された。男の名をジェリー・スターニンという。

ベトナムに新たな事務所を開設すると言われてやってきたのに、わずかな予算に最低限のスタッフしか用意されなかった。おまけにベトナム政府から「6カ月で成果が出なかったら、帰国してね」というお達しまでいただいてしまう。

心がぽっきり折れそうなものだけど、彼の情熱は消えなかった。

まずは現状把握のため、スタッフとともに4つの村で基礎調査を行った。自転車で走り回って、わずか4日間で2,000人の子どもの体重測定をし、データを集めた。事前情報通り、約64%の子どもたちが低栄養状態であることがわかった。

低栄養の原因は間違いなく貧困だ。

しかし貧困解決には途方もない時間がかかる。到底6カ月では成果はでない。予算もないから満足なプロジェクトも立ち上げられない。時間もない。

さて、どうするか。

そこでスターニンはデータの外れ値、例外的な事例に注目した。

スタッフに「非常に貧しい家庭で育っているはずなのに、栄養状態の良い子どもはいましたか?」と問うた。

スタッフの返答は「Yes」。さっそくその例外的な事例を調べると大きく2つ共通点が浮かび上がってきた。

食事の前に手洗いをしていた
 手洗いをしている子どもたちは下痢になりにくかった。子どもは手づかみで食べるので、雑菌も口に入れてしまう。結果、下痢→低栄養を引き起こしているという仮説が得られた。
田んぼで捕れるエビやカニを食べていた
 
どうやらそれらが貴重なたんぱく源となっているらしかった。

こうして得られた知見をベースにして、スターニンは母親向けのプログラムを作成。参加者たちは、川で捕れる小さなエビやカニの調理法や、食事の前には手を洗うことなどを実践しながら学んだ。

その効果は劇的で、まさに奇跡と呼べるものだった。

我が子がみるみる元気になる!と評判を呼んだ彼のプログラムはベトナム全土へと広がり、わずか2年間でベトナムの子どもの低栄養は85%も減少した。

めでたしめでたし。

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というウソのようなホントの話。

これは外れ値に注目するという文脈でよく語られるエピソードだけれど、現地にあるものを活かして改善したって文脈で語られても良いと思う。

この話のポイントは良い例外を引き当てることができるか、どれだけその良い例外を集めることができるかだと思うんだけれど…いやぁ、すごい。

自分も活動する上で、広い視野を持ちたいなぁと常々思っているんだけど、まずはデータだよな。

データ集めないと…。

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