君子危うきに近寄らず~大人のことわざ辞典~
平気で人を傷つける人には、人生で何度かお目にかかるものだ。
それはある意味、人生における「災害」のようなもので、避けられない。
こういう人がやっかいなのは、人に対して攻撃的であることではない。
たとえば、「良かれと思ってやってるのに、恩知らずが!」などと、実の親にそうやって言われることもあるかもしれないが、「そもそも頼んでねーし」と思っていれば、腹は立つと思うが、心が病むことはないだろう。
人間、心の平穏を保つには、他人の言うことをうまく「いなす」必要があるが、それができれば、人を傷つける言動をされたとしても、自身の心の根幹の部分を守ることができるからだ。
しかし、平気で人を傷つける人がやっかいなのは、平気で人を傷つけてくるわりに、自分は傷つけられるのはイヤ(しかも死ぬほど)、という人が多いことだ。
わかりやすく言うと、人の悪口をしょっちゅう言うクセに、自分の悪口を言われるとキレる人なんてのが最たる例だ。
皆さんの身近にもいないだろうか?
平気で人を傷つける人には、実は、悪意がない。
なぜなら、「高齢者は金を持ってるから、うまくだまして金をむしり取ってやる」みたいに、あえて、文字通り「悪い」「意図」が「悪意」だからだ。
しかし、平気で人を傷つける人間にはその、悪意がない。
これは、タチが悪い。
なにせ、自分はむしろ、「良いこと」をしてる、してやってる、くらいの感覚で、だから、自分が悪いなんて、1っミリも思っていない。
1ミリも思ってないから、だからこそ反論された日には、「誰のためにしてあげてると思ってんの?」などと言う言葉が出てくる。
この言葉は地味に傷つく。
いわゆるパワハラとかモラハラの根底にあるのもこの発想だ。
SNSでの誹謗中傷もそうだろう。
自分は悪くない。
むしろ、そっちが悪い。
実にシンプルな論理、ロジックである。
だからこそ、タチが悪い、というわけだ。
人間の思考は、シンプルなように見えるものであっても、実に複雑なことを考えて、処理している。
だから、同じことが起きたとしても、人によって少しずつ反応が異なるわけだ。
その人の持っているものが、思考に影響を及ぼし、それぞれ別のアウトプットになる。
だから本来、相手のことを考えているのであれば、「短慮」にはならない。
どうしたら、相手のためになるか、そのために自分は何ができるか、そしてそれをどうやって相手に失礼のないように伝えられるか、それは本当に相手のためになることなのか、などなど、そう言うことを考えたら、本当はキリがないハズだ。
色々考えるから迷い、迷うからこそ、選択の幅を広げた言い方にもなる。
相手を尊重すればこそだ。
だから自然と「遠慮」が出てくる。
だけど、平気で人を傷つける人は、自分の考えが間違っているとは思ってないから、ズバッと言いたいことだけを遠慮なく言う。
それはそれで説得力がある感じがしてしまうが、それはその人がそう言いたいだけで、必ずしも正当性があるわけではない。
たしかに、人生には、ズバッと言ってもらった方がいいこともある。
だけどそれは、本人が必要とした時しか本来はいらないものだ。
なぜなら、人生の責任を取れるのは自分しかいないからだ。
責任を取れない人間が、あたかもその人の将来をわかったふうに考えてものを言ったところで、それが起こる可能性はないかもしれないし、むしろそのことで言われた側が心を傷つけられてしまっては本末転倒だ。
しかしこれが実に、そのへんによく転がっている。
いやもう本当に、イヤになるくらい。
実際これで友だち関係が破綻することも珍しくない。
でもそれも仕方ないことだ。
平気で人を傷つける人は、自分が傷つけられるのを嫌う。
つまりそこには、一方通行的なコミニュケーションしかない。
あっちからは来るけど、こっちからは行けないのだ。
人生は「道」に例えられるが、道を進んでいて、こちら向きの一方通行で侵入禁止になっている道があっても、何も気にはならないだろう。
でもそれが、
普段よく使う道がそうなったらどうだろうか?
進めど進めどそんな道ばかりだったらどうだろうか?
自分の進む道が、自分側に向かってくる一方通行だらけになった場合、自分の行く先がどこにもなくなる、いわば八方塞がりになる。
そして、そういう状況に置かれた人が、自ら命を絶つことも起こりうる。
悲しいことに。
他に進む「道」がないからだ。
平気で人を傷つける人は、「人は弱い」ということがわからない人が多い。
なぜなら、自分は強いからだ。
自分は正しいと信じ切っているので、強気でいられるからだ。
なのに、自身は傷つけられたくない。
それではこちらは強く出られない。
「賢い人は、危ないものと距離を置く」という意味のことわざに、
「君子危うきに近寄らず」
というのがある。
そんな一方通行ばかりの道は、近寄らないのが一番、ということだ。
だから、勇気を持って違う道を選んでほしい。
自分だけの道を。
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