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カガミノナカノダレカ

子供の頃から鏡が怖かった
自分が写る、目の前の私
同じ動きをする、真似をされる

鏡の中は異世界があるとか別次元に繋がってるとか
そんな話をよく聞くけれど

中から自分の分身が、いきなり、勝手に微笑んで
身を乗り出して、手を伸ばして
私を引きずり込んしまったら

ありえないとはわかりつつも
そんなことを想像してしまうんだ

だから極力鏡は見たくない
頑張っても人の体では通り抜け出来ないであろう
そんな大きさの手鏡しか使わない

おそらく小学生の低学年くらいに
眠れなくてリビングで親と並んで
なんとなく見てしまった映画
それがトラウマになってるんだと思う

主人公は同い年くらいの金髪の少女
だから子供向けのファンタジーだと思っていたら
それがガツガツのホラーで

鏡の世界に迷い込んで閉じ込められて
もう一人の自分と入れ替わってしまう
よくは覚えてないけどそんな話だった

鏡が並ぶホテルの廊下を歩いている少女
そのシーンは今でも鮮明に覚えている

誰でもメンタルがやられる時期はあるだろう
嫌なことや理不尽なことが続いて
誰も信じられなくなり頼る人もいず
ひとしきり泣いて涙も枯れ果てた時

私は洗面所の鏡の前にいた

いつもは見えないように見られないようにと
覆っている布を勢いよく取るとそこに見えたもの

目を真っ赤にした、はれぼったい
髪の毛がボサボサの私の分身

今なら入れ替わってもいいと思った
閉じ込められて出られなくなっても構わないと
そう思って

「好きにしていいよ」と呟いた

すると私の分身、鏡の中の、ガラスの向こうの
別の世界の似て非なる私が
真似するのをやめ自我を持ち
あきれた表情をして話し出した

「ねぇ何か勘違いしてない?」と
不思議と冷静で驚きはない
「勘違い?何が?」
私に答える私

「鏡の中の私はあなたの方でしょ?」と

そっか、目の前の私の分身にとっては
私の方が鏡の中の私で
私にとってはその逆で

左右反転の違いはあれど
お互いにそれぞれガラス一枚を挟んで
同じような世界に生きているのか

「入れ替わったって文字が読みづらくなるだけよ」
あっちの私はそう言った
確かにそうだ、それ以外は何も変わらないんだ

辛いことも楽しいことも何も変わらない
少し違和感のある同じ世界が待ってるだけ

「まぁ話しくらいは聞いてあげるよ
 だいぶ心がまいってるみたいだし」

仕方ない聞いてやるか、な言い方ながらも
優しい表情を見せる私

自分のことを一番わかってくれる自分に
悩みや不満を隠すことなく話したら
やはり心が通じるんだろう
共感してくれて一緒に泣いてくれた

心が落ち着くと目の前の私は話さなくなり
鏡としての機能しか、同じ動きしかしなくなった

その夜は久しぶりにぐっすりと眠れて
目覚めると抱えていたモヤモヤが
全部消えてまっさらな気持ちになっていた

洗面所へ行く
もう布は必要なかった
少しすっきりとした顔
それは私であって分身の顔でもある

「おはよう」と声をかけた
きっとあっちの私もおはようと言ったはず
同時に言ったから聞こえなかっただけ


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