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翼をください

※ 著:原田マハさん「翼をください」のネタバレを含みますのでご注意ください。また、事実と異なる点が一部記載されているかもしれませんのでご注意ください。

1903年、ライト兄弟が人類で初めて有人での動力飛行に成功したとされている。世界初の操縦可能な飛行機を作って飛行に成功したのはこれからさらに2年後だ。

ライト兄弟の飛行機が公開されてからは、世界中で飛行機の改良が進められた。

飛行機の用途は様々だ。人類や物資を輸送することを可能にし、今では観光としても役立てられている。しかし、使い方によっては凶器にもなり得る。

第一次世界大戦(1914年~1918年)では、飛行機は最初偵察機として使用された。

第二次世界大戦(1939年~1945年)では、飛行機は戦闘の主役となった。陸でも海でもなく、空を制したものが戦に勝利したのであった。

日本にも飛行機の伝説は残されている。1939年、国産の飛行機ニッポン号が初めて世界一周の旅に出た。これは、平和親善のために企画されたものとされていて、乗組員は7名だった。羽田を離陸後、故障1つなく無事生還したのだ。

お気づきの方も多いだろうが、1939年はドイツのポーランド侵攻によって第二次世界大戦が開始されたのと同時期であった。これにより、予定されていたフランスからイギリス、ドイツへの飛行は不可能となっていた。詳しい飛行ルートが気になった方は調べてみてほしい。

ニッポンが世界一周に出る前(1937年)のこと。赤道上世界一周旅行に挑戦した1人の女性がいた。

彼女の名は「アメリア・イアハート」。女性として初めての大西洋単独横断飛行をしたアメリカの飛行士である。彼女は聡明で魅力的かつ、数少ない女性パイロットであったこともあり、絶大な人気があった。

しかし、彼女は世界一周旅行に挑戦中、南太平洋において行方不明になったとされている。2人を見つけるため大規模な捜索が行われてきたが、遺体や残骸は発見されていない。米国政府による隠蔽工作説、日本による謀略説、イアハートスパイ説など様々な憶測が飛び交った。


さて、突然飛行機の話をし始めたのにはもちろん理由がある。

原田マハさんの「翼をください」を読み終えたので、飛行機について自分でも調べてみようと思った次第である。

前置きしたように、登場人物はニッポン号の乗組員7名と、アメリア・イアハートがモデルとなっている。

物語の主人公は「エイミー・イーグルウィング」。アメリアと同じく、赤道上世界一周旅行に挑戦する。しかしこれは、アメリカ政府に仕組まれた飛行であった。戦争のスパイとして利用されおり、エイミーの飛行機が世界一周を成功させることは、アメリカが新しい爆撃機のテスト飛行に成功することを意味するのであった。

平和を愛するエイミーはこの事実を知り、自分の大好きだった空を飛ぶことを諦める。

墜落寸前のラストメッセージ「せかい・は・ひとつ」には鳥肌必須だ。

そして、この最後のやりとりを愛する通信士であった「トビアス」とすることが更に読者の涙を加速させる。

残骸も見つからず、エイミーは失踪の身となった。

舞台はアメリカから日本へと移り変わり、日本の伝説、ニッポン号の世界一周が始まろうとしていた。

歴史上では乗組員は7人とされていたが、なんとそこに超極秘事項としてエイミーが8人目の搭乗者となるのである。

最初は驚きを隠せない7人の乗組員であったが、飛行中ではトラブルや気象や地形を正確に把握し尽くすエイミーに何度も助けられる。

エイミーは再び世界一周に挑戦するのであった。

通信の中で一度だけ、失踪して以降初めてトビアスと会話をするシーンがある。死んだはずのエイミーは自分であることを隠しながら、愛する人の声をもう一度聞くことができたのだ。

「こちらロサンゼルス、トビアス・ブラウン。応答せよ」

「こちらニッポン、ラストメッセージを送ります」

……。

きっとトビアスはエイミーが無事であることを確認できたと私は信じる。

7人の日本人とアメリカ人女性がフライトを共にする中で、第二次世界大戦幕開けすぐの世界情勢に一矢報いているかのようであった。

国籍の壁を何一つ感じさせないエイミーのしぐさや振る舞いは、私自身の胸もアツくさせてれた。

せめて物語の中でだけでも、これから戦争に向かっていく歴史を塗り替えてほしいと願わずにはいられなかった。

私はこの物語を読んで本当にたくさんのことを考え、視野が広がった。元々歴史に疎い私は飛行機や戦争の話、アメリア・イアハートの名前を聞いたのも初めてだった。エイミーが政府に利用されたこと、国境の壁、国際問題、設計技術など、まだまだ知らない世界がたくさんあった。これからも学び続け、エイミーのような知的で心も体も力強い人になりたい。

このような素晴らしい作品の制作に関わった全ての人に感謝を申し上げます。私がこの小説の作者だったら、どれだけの量の涙を流しながら言葉を紡ぎ出していくのだろうと思いました(笑)

ぜひ気になった方は手に取ってみてください。


■参考資料

https://www.y-history.net/appendix/wh1204-087_0.html
https://www.nikkeiscience.com/page/magazine/0401/wright.html
https://tabi-labo.com/302174/wdt-wright-brothers
https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0009060046_00000
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC075M90X00C22A3000000/

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