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【読書】noteで書くあなたに『イッツ・ダ・ボム』は共鳴する【無ネタバレ】

noteの書き手には、主に二つの傾向が見られる。一つは、特定の目的を持ってその達成に向けて書く書き手であり、もう一つは、書く行為そのものに価値や喜びを見出し、書くこと自体が目的化する書き手である。(これらの傾向は排他的ではなく、どちらの性質も併せ持つ書き手も多い。)

2024年9月29日17時10分現在、noteで「イッツ・ダ・ボム」と検索すると、「約8件」がヒットするが、2024年9月10日に発売された小説とはいえ、この数は少ないと私は思った。なぜなら『イッツ・ダ・ボム』は、noteで誰に読まれるかもわからない文章を日々投稿している人たちこそ面白く読める作品で、もっと反応があるべき作品だと思ったからだ。

小説の分かりやすさにとって重要なものの一つに、登場人物に共感できるかどうかということが挙げられる。共感できれば、物語にさらに入り込みやすくなり、テキストを追った先に待ち受ける予想外の展開に期待が募る。(分かりやすいと、想像力がかき立てられて、面白いし、分かりやすい!)

ここで、この小説がどんな小説だというのか、例えば文藝春秋のWebページを閲覧してもらいたい。

第31回(2024年)松本清張賞受賞
イッツ・ダ・ボム
井上先斗

STORY
「日本のバンクシー」と耳目を集めるグラフィティライター界の新鋭・ブラックロータス。公共物を破壊しないスマートな手法で鮮やかにメッセージを伝えるこの人物の正体、そして真の思惑とは。うだつの上がらぬウェブライターは衝撃の事実に辿り着く。(第一部 オン・ザ・ストリート)

20年近くストリートに立っているグラフィティライター・TEEL(テエル)。ある晩、HEDと名乗る青年と出会う。彼はイカしたステッカーを街中にボムっていた。馬が合った二人はともに夜の街に出るようになる。しかし、HEDは驚愕の〝宣戦布告〟をTEELに突き付ける。(第二部 イッツ・ダ・ボム)

“日本のバンクシー”は誰だ⁉松本清張賞受賞作『イッツ・ダ・ボム』井上先斗 | 単行本 - 文藝春秋 (bunshun.jp)

日本に住む善良な人間で、「グラフィティ」に自らの定義を与えられている人間は、めったにいないだろう。初めて接するつもりで、改めて本の外観や紹介に注意を向けてみると、どんな話なのか想像がつかない。小説の内容を未読者に伝えることはやはり難しいと思う。それでも大衆に届けるため、帯に有名作家のコメントを載せたり、何とかという賞の受賞作であることを強調したりして、まずは本屋を訪れた客に存在を認知させている。マスメディアによっても情報を伝達し、作品の名前を知る人の数を増やそうとする。そして何事かを発信したくなる層によって、一定の規模の話題になれば、さらに認知度は向上する。

このプロセスの末端側に関してだが、『イッツ・ダ・ボム』の場合、「読了者向け」の「完璧」な書評が27日に公開されている。それが「『イッツ・ダ・ボム』(井上先斗・著)書評「立体交差する文字列——かくことの必然性」大山エンリコイサム」だ。

どれほどすごいかといえば、作者ご本人が「僕自身さえも呑み込まれてしまいかねない」というほどの素晴らしい文章だ。

私はこれに圧倒されこそすれ、決して文句が言いたいわけではない。しかしながら、このまま何もしなければ、本来広がるはずだった影響の範囲が狭まり、閉じてしまうのではないかなどということを思った。繰り返すが私は本作のことを、noteで誰に読まれるかもわからない文章を日々投稿している人たちこそ面白く読める作品だと感じている。

試し読みが公開されているのは第二部の冒頭だということも、心の動きに関係している。

 なぜ“第一部”じゃなくて“第二部”なのか!? 本作全体をお読みいただけたらお分かりいただけるかもしれません。

 いま一番、クールでアツい物語を、どうぞお楽しみください。

話題沸騰! 松本清張賞受賞作・井上先斗『イッツ・ダ・ボム』ためし読み 『イッツ・ダ・

私は全体を読み終わったが、なぜ第二部なのか、分からない。推測することはできても確信が持てない。「どうか読んでください」でしっかり読まれたら、毎日誰かに読まれたくて苦しんでnoteを書いている人たちは浮かばれないだろう。私は第一部が本当に面白くて、まさに冒頭を試し読みしただけで買うことにした。

※私の場合は偶然、9月の初め頃、以前から興味を持っていたそれらが、グラフィティと呼称されることを意識し、旅行先でも気がそそられていたところを、旅行後、『イッツ・ダ・ボム』の表紙が待ち構えていたので手に取った。数多の商品が並ぶ書店内でそれは、目に飛び込むと形容するのが一番な出会いだった。よって、本筋に関わることは一切知らないまま、第一部から読み始めることができた。

第一部は「ルポルタージュ形式のミステリ」だ。

まだ何も知らない読者は、同じく何も知らなかったウェブライターの目線を借りて、グラフィティやストリートアートの本質に迫っていく。

なぜウェブライターはそのような取材をしているのか? その答えは一応、出だしから語られている。頼りなげな思いつきを実現するためだ。具体的には、本を書くという思いつきだ。

素性不明の人物が近頃世間を騒がせている。なぜ世間は騒いでいるのか、世間そのものもまだ言語化できていない。

もしも言語化できたなら、間違いなく大受けする。記事を書いたら相当拡散され、著書を出版すれば箔がついてライター業だけで生きていける・・・。

これが、特に一部の、noteユーザーに響かないで誰に響くというのか。

第一部の冒頭の試し読みが公開されない理由はこのあたりにあると仮に考えている。少なくないnoteユーザーが、有名ライターに感化されて「日記」や「やってみた記事」などを書いている。それらに該当しなくても、日々の発見や体験、感想、考察、モヤモヤを言葉にする喜びを享受しているユーザーばかりだ。あまりに鋭く「刺さる」ため自主規制したのではないか。

第一部冒頭にその要素が濃い、というだけで、第一部でも第二部でも、登場人物たちの生き様は、noteの書き手たちに「刺さる」と思う。(大山エンリコイサム先生の言葉を借りて申し訳ないが、)「成り上がることへの希求を肯定」する価値観と、「かきたいから、かくだけ」の価値観の、分類してしまえば主な二つになってしまうそれらがぶつかり合う。

ここまで敢えて配慮から(?)、グラフィティやストリートアートとは実際何かということに立ち入ってないが、ぜひ読んでみてほしい。

私が感じたことは一言でまとめると、「共鳴」だった。




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井上先斗(@SakitoInoue)さん / X


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