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『お國と五平』ノート

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黒ツナギの話、ついでにバットの話

黒ツナギの話、ついでにバットの話

黒いつなぎで衣装を統一する演出を、『Faust』、『蜘蛛の巣』、『お國と五平』、『京の園』、『わが友ヒットラー』と繰り返し採用してきた。はじめのころはとりわけ深い考えがあったわけではない。専門の衣装スタッフ自体が数多くないなかで、多くの団体が自前でいろいろと創意工夫を凝らしているけれども、専門でやっている人からすれば当然みずぼらしいものに映るに違いないだろう。まれに素人拵えが、常識を打ち破るという

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『お國と五平』から『文化なき国から』へ

『お國と五平』から『文化なき国から』へ

2014年の同志社大学の学生会館での旗揚げから8年。戦略的に立ち回って、ようやく東京で単独公演するところにまでたどり着いた。ただ、ここで息切れしている場合ではない。やりたいことはいくらでもあり、湯水のように沸いてくる。ほとんどのことは、金があれば解決する。そして金がないので、何らかの権威や権力に阿らざるを得ない。しかし、権威や権力に阿らないで、金がないのにやりたいことをやっていく方法が一つある。「

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ハリウッドから谷崎へ、そして稽古場へ!

ハリウッドから谷崎へ、そして稽古場へ!

当たり前のことであるが、いろいろなことを勉強せざるをえないので、脚本の書き方や感動させるストーリーの書き方みたいなものに触れてきたが、やはり有名なのはハリウッド系の三幕ものの脚本術だろうけれども、そのなかに「ログライン」というものがあって、それは物語を1文で短く説明するもののことであるが、例えば『タイタニック』であれば
身分違いの男女が、豪華客船で出会い恋に落ちたが、今まさに沈黙しそうな船から生き

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翻訳について

翻訳について

うれしいことが一つあったので報告しておく。劇団のメールアカウントにはるか遠くブラジルから問い合わせがあった。一瞬スパムメールかと思ったけれども、よく読むとまだ勉強中という感じの日本語と、英語でのメッセージがそれぞれ書いてある。

いま日本語を勉強中で、その勉強のために劇団なかゆびがYouTubeにアップロードしている戯曲研究会の動画(イプセン『人形の家』)を見てくれていたらしい。ただ、所有している

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わかりやすい、は純粋か

わかりやすい、は純粋か

某新興政党の演説動画(文字起こしのバイトをしてみたら、この政党の動画の文字起こしだった)。かなりわかりやすい。すでに知られていることではあるが、わかりやすいものは、受け手にとっては危険か、何の意味もないかどちらかに分かれていくものだ。

演説動画では「グローバル勢力」という言葉が頻繁に使われていた。この「グローバル勢力」というのが至福を肥やすために、純粋無垢な私たち日本人を騙して搾取している、とい

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通し映像、稽古映像を見ながら

通し映像、稽古映像を見ながら

ある瞬間を切り取って、別のやり方はないかを考える。「こうならざるをえない」と自分で納得できなければ、観客も納得してくれない。別のやり方が考えられてしまう時点で、その手法に強度があるとは言えない。そういう思想に基づいた演出があるとして、さらに問いかけてみよう。これとは別の思想に基づいた演出はありえるのか。これ以外ありえないというデカルト的確信を目指す。「そこはそうじゃないでしょう」と観客に思わせてし

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演劇人コンクール2022『鞄』演出ノート

演劇人コンクール2022『鞄』演出ノート

以下は、演劇人コンクール2022の一次上演審査に参加するにあたって、課題戯曲『安部公房』の演出プランおよびノートである。結果はすでにわかっている通り、敗北だったので、おいしいところだけいただきたいという人はブラバ推奨である。それでも、誰かの役に立つと信じて書いて残しておくことにする。自分の文章が、十年後、二十年後、誰かにとってたいへん重要なものになることがある。小生自身が逆に、そういう体験を経た。

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キーボードえらび

キーボードえらび

「弘法筆を選ばず」という。「文字を書くのが上手な人は筆のよしあしを問わない。本当の名人は道具のよしあしにかかわらず立派な仕事をする」(『広辞苑』)ということわざである。「転じて、自分の技量の不足を道具の所為にしてはならないという戒め」(“Wikipedia”)だという。後者のほうは、あまり信じるべきではないと思う。弘法大師は“つねに”筆を選ばないわけではない。むしろ、自分にあった筆を選べるようにな

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稽古場から消えてみる:お国と五平の稽古場での思案(2)

稽古場から消えてみる:お国と五平の稽古場での思案(2)

演出家は稽古場にもう行かない。ということをやりはじめた。生活的にすべての稽古に行くのが難しくなったというのもあるけれども、そうでなくても実践してみたかったことの一つである。もちろん、全日行かないわけではない。3日に1回くらい、稽古場に行かない日を作ってみる。演出家を仲間外れにする。これで多少なりとも権威的なものから自由になれるかもしれないし、今回は、演出家を介さない俳優同士のやり取りが増えることに

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演劇人コンクール2020『お國と五平』演出プラン

演劇人コンクール2020『お國と五平』演出プラン

劇団なかゆび代表・神田真直が演劇人コンクール2020応募時に提出した谷崎潤一郎『お國と五平』の演出プランを、原文そのまま掲載します。

1.コンセプトと構成

本戯曲の登場人物は、セリフやシチュエーションからも察せられるように「徳川時代」という古い時代の価値観や倫理的規範に基づいて行動しています。そのイメージから適切な距離を取り、作品を普遍化するべく、三人の出演俳優は、仮面をつけて舞台に立ちます。

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いろんな人生があった(神田真直の場合)

いろんな人生があった(神田真直の場合)

はじめまして、神田真直と申します。今回は経歴に収まらない、あるいは本来書くべきではない、自分の話をしてみたいと思います。長くなります。覚悟してください。そう言ってはみたものの、書く時間と読む時間はまったく比例しないので、人によっては、大した文字数でもないかもしれません。小生も皆さんと同じように、いろいろなことを考えながら生きてきました。誰にだって人生があって、その一番先頭に作品があるわけです。もう

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議論することの難しさ:お國と五平の稽古場での思案(1)後編

議論することの難しさ:お國と五平の稽古場での思案(1)後編

芸術学系の少人数の講義で、一人の学生が自身の関心に基づいてプレゼンし、更にそれについてみんなで議論するという時間があった。小生の性格的な部分もあったかもしれないが、議論というからにはある程度はファイティング・ポーズで臨むことにした。議論の対象となる芸術ジャンルの成立史、研究史を踏まえたうえで、発表者自身はどのような「次」に進もうとしているのか。そうではない可能性はないか。あまりに独断論的すぎないか

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チラシ/フライヤー/ビラって同じものってことであってますか?

チラシ/フライヤー/ビラって同じものってことであってますか?

インターネットの時代になって久しい。劇団が観客にリーチする方法も時代とともに変化してきた。小生が10代~20代になるにかけて、短期間でいろいろな手段が入れ替わり立ち替わった。00年代のころだろうか。まだ舞台芸術に興味すら抱いていなかったけれども、インターネットコミュニティなるものが流行し、名詞として覚えているのは、ぱどタウンやmixiだ。学校によっては、入学前からこうした場を通じて予め知り合う人も

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議論することの難しさ:お國と五平の稽古場での思案(1)前編

議論することの難しさ:お國と五平の稽古場での思案(1)前編

議論することは難しい。ところが、「難しい」という述語は、それ以上考えるのが面倒な場合にぶつけるものである。そこで、議論することそのものについてよく吟味したい。これは議論の場に向かう前に考えておかなければならないことであり、演出家として稽古場作りの課題だと強く感じていることに深く関わることでもある。

個人的に、いろいろな場で「議論」した経験がある。かつては大学の講義やゼミ、就職活動での「グループデ

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