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名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)01

※本記事は、下記の記事のコメンタリー(解説)となっております。

※100冊すべてを平等に紹介することはできません。ときには、全く触れない本も出てくると思いますが、ご了承ください。

001.豊饒の海/三島由紀夫
002.深い河/遠藤周作
003.邪宗門/高橋和己
004.同時代ゲーム/大江健三郎
005.死霊/埴谷雄高
006.楡家の人びと/北杜夫
007.楽天記/古井由吉
008.告白/町田康
009.ナイルパーチの女子会/柚木麻子
010.学問/山田詠美

 まずは日本人作家の純文学・現代小説から10選。自分は基本的に1925~1935年生まれの作家が描く戦後日本社会の虚無感や挫折感が好きでして、そういう雰囲気をまとった小説を選びました。

 三島由紀夫『豊饒の海』というのは、本来は4部作のシリーズ名であって、『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』から成ります。この作品については文学Youtuberムーさんの読書会(動画時間11:00から開始)にて余すことなく語りましたので、ぜひご覧ください。

 現代の作家からは町田康『告白』/柚木麻子『ナイルパーチの女子会』/山田詠美『学問』を採りました。

『告白』はあまりにも分厚く、高級店の角煮のような文庫本になっています。しかし中身はリズミカルな文章で構成されているので、思ったよりは読みやすいかもしれません。(たとえ読まないとしても)書店でぜひ手に取っていただきたい作品です。

『ナイルパーチの女子会』は、最後の方で登場人物が戯画的になりすぎてしまう点が悔やまれますが、色んな人と語り合いたくなる作品でした。女友達がいないことに悩んでいる栄利子の人物像は、現代的な空虚さを内包していて、その部分に好感を持ちました。これは別の機会に記事として書くかもしれません。

 山田詠美といえば『ぼくは勉強ができない』で有名ですが、自分としては『学問』の方が好きです。『学問』といっても座学でやるような学問のことではありません。描かれるのは性的な目覚め。幼児期から思春期、さらにはその後の性的な体験や成熟、そうしたことから得られる人生経験のことを作者は”学問”と呼びならわすことにしたのでした。本作を語るには紙面が足りませんので、これ以上はまたの機会に。

011.突囲表演/残雪
012.繁花/金宇澄
013.花のノートルダム/ジャン・ジュネ
014.重力の虹/ピンチョン
015.百年の孤独/ガルシア=マルケス
016.アブサロム、アブサロム!/フォークナー
017.失われた時を求めて/プルースト
018.カラマーゾフの兄弟/ドストエフスキー
019.白鯨/メルヴィル
020.飢えた潮/アミタヴ・ゴーシュ

 有名作の話は置いておきましょう。ここでは金宇澄『繁花』/ジャン・ジュネ『花のノートルダム』/アミタヴ・ゴーシュ『飢えた潮』について語りたいと思います。

『繁花』は上海を舞台にした大河小説でして、原文の会話はすべて上海語で書かれているそう。これを受けて、邦訳でも会話はすべて関西弁で訳されています。関西弁が聴こえてくる小説といえば、谷崎潤一郎『細雪』や宮本輝『流転の海』シリーズを思い出すわけですが、『繁花』もそういった趣をそなえた小説ということになります。作者の金宇澄は画家でもあるらしく、作中に時折、上海の風俗を詳細に再現したイラストが挿入されます。

『花のノートルダム』は世界文学の中でも唯一無二の作品であるように思います。汚穢にすらも聖性を付与してしまうような文体を持ち合わせているのは、ジャン・ジュネだけでしょう。(同性愛が禁忌だったこともあり)ブロマンスでお茶を濁してしまうゲイ文学はあまたあれど、ここまで掘り下げたものは数えるほどしかありません。

 アミタヴ・ゴーシュはインド人作家で、『飢えた潮』の舞台はバングラデシュに近いマングローブ地帯。ベンガル地方の歴史には疎く、その方面で詳細な読解はできていません。そのため自分はマングローブ地帯を描いた、一種のネイチャーライティングとして楽しみました。本作で描かれるカワイルカはとてもかわいらしいです。

【続】

▼ バックナンバー

名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)01
名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)02
名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)03

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