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踊るインド人ヨギ、現る。

南インド・オーロヴィル編-3

オーロヴィルは広大な敷地内を宿から宿へ移動するための無料タクシーがある。荷物を載せ、最初の宿Sharnga guest houseから新たなお気に入りの宿Véritéへと無事に引越したのだった。

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ようやくお気に入りの宿を見つけたわい…ほっと安堵しながら部屋に入ると、今度はカバンに小さな蟻んこ達が湧き出しひたすら巡回し続け、ベッドでもうろちょろし始めた。食べかすなどないつもりでも、何度倒しても延々と湧いてくる。

だからどーしたと言いたい。そんなことは些細なことで、だったらインド来るなと言いたい。それでも、いちいちげんなりしていた。細かいことが気になる自分自身と蒸し暑さで疲れが増していく。トイレとシャワーが外なことにも、ゆとり旅に慣れていたこともあって最初はそれなりに気合いが必要だった。

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Véritéの部屋の前と野外共同シャワー。夕方以降の蚊の出現率はファンタスティック。基本は水シャワーで傍にある温水用蛇口からのお湯をバケツに溜めて混ぜて使うタイプ 

暑さと虫にげんなりしながら、なんとかめげ切らずにVérité敷地内で行われているダンスやヨガの予定をチェックし、気になったDance Offeringというクラスに参加してみることにしたのだった。

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Dance Offeringは音楽に合わせて自由に踊るというクラスで、5リズムなどコンシャスダンスや、コンタクトインプロヴィゼーションに近い内容。(コンタクトインプロ=重力を意識しつつ相手と身体の接触を続けながら踊る、複数の人間による即興系のコンテンポラリー・ダンス。)

以前から即興性を重視している踊りが好きで、またダンス系のクラスは込み入った英語力も要らないことが多いため参加しやすい。うきうきしながらクラスに参加してみた。(1クラス250-300rp=当時約400円前後)

最初は車座になりながら自己紹介として、ひとりずつ名前とクラスに対して何を捧げるかをコメントしていくことになり、参加メンバー達は名前と共に「名前は〜です。peace.」「〜です。gratitude.」など、想いを表明していった。

すると、わたしの左側には誰もいなかったはずが途中から来たようで気がつくと「----です。」と、ひとりの男性が座っていたのだった。

こ、この人は……わたしは驚いていた。

彼のことは、Véritéのワークショップ表を見てヨガや呼吸法のクラスを開いているヨガ教師であると知って興味を持ち、どことなく気になっていた。

実際に現れた本人はクリアな空気感を纏った印象的な人物で、こりゃ相当熟練のヨギなんだろうなと感じつつ、気になっていた人が隣に現れてくれたとはラッキー♪ と突然、左側に現れた登場人物に注目し始めた。

ダンスの時間が始まると、音楽がなかなかの好みで当たりのクラスだということがすぐに分かった。

そして彼はというと、これまたダンスが上手く慣れていて、それでいてめちゃくちゃセンスが良かったのだった…!!(コンタクトインプロ的にという意味で、インド舞踊や映画の踊るマハラジャみたいなやつではない。笑)

う、上手いーー!!! 即興やコンタクトインプロで、こんなにも親和性のあるセンスの人がいる…この人の音や動きに対する感覚は自分とどことなく似ている…こういう人がいるんだ。一体この人何者??と衝撃だった。

注目しつつ、こんな風に驚くほど感性の合う人と出会い一緒に踊れたりするなんて面白いなあ…珍しくも楽しい体験を味わった。

それは彼も同じだったのか、クラスが終わると
「君はダンサーなの?君の踊りから、すごく良い空気を感じたよ。せっかくだから、よかったらこのあと夜ごはんでも食べに行かない?」

と話しかけられたのだった。
散々ダンスを通して盛り上がったのでどうしようかと考えるも、汗だくで疲れていて食欲もなかったので『もう疲れてるし、眠いから。』と断った。

すると彼は、
「そう?僕はこの近くのゲストハウスにいるから
僕の部屋で一緒に過ごすこともできるよ。」
と言ってきたのだった。

でたーー、僕の部屋コール…(?)

まあ、ダンスのセッションってそういうのに似ていますからねー(棒読み)あれだけ踊りの相性よく盛り上がったし、彼は相当な独自センスを持っている…という、何かタントリックでカーマスートラ的な(?)えへへーな空想が起こらないでもなかったが、蒸し暑く慣れない場所で踊りまくり、終わったあとの体は疲れていたことは事実だった。

何より最も気になったのは、僕の部屋がどーのこーのの前にごはんにでも行かない?と聞かれた瞬間、『なんか、行かないほうがいいみたいだな。』とクリアに感じたことだった。 

この手の、相手の姿を見たときや言葉を聞いたときに瞬間的に感じた印象や感覚・インスピレーションはとても大切にしていて、細かく意識を向け耳を澄ませるようにしている。それらは今迄の旅で徐々に磨いていった感覚だった。

最初に感じたことはやはり重要な要素を含んでいることが多く、特にひとりでいるときにそういったインスピレーションや違和感をスルーするのは普通に命取りなので、見逃すわけにはいかないのであーる…。

(これはアウトだな…。)興味はあったものの、結局彼と食事に行ったりすることはせず、少し雑談しただけで終わった。

「ボーイフレンドは?結婚してないの?
僕は独身でfree bardだよ。」
という彼。

…フリーバードってなんじゃい。心の中で突っ込みつつ、オーロヴィルを拠点に住みながら世界中でヨガを教えている彼は女性のファンも多く慣れているようで、一度断るとそれ以上しつこいこともなかった。

ふたりで出かけたりすることはなかったけれど、彼はその後オーロヴィルの滞在中に広い敷地内でよくもまあというほど、何度も偶然遭遇する人物だった。

あるときは、オーロヴィル内でインドの古武術クリヤパヤットゥを取り入れたBHUという演劇とダンスが混ざった舞台が上演されたため面白そうなので観に行き、その近くで音楽ライブもあったため訪ねると、彼もちょうど来ていて一緒にしばらく観賞することになった。

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ダンス等の稽古場兼舞台がある、
Cripaというエリアと音楽ライブ

音楽を聴きながら「やー、いい席見つかったなー!うん、僕のためのような席だな。」といったことを嬉しそうに話す彼を『自分大好きっていうか、肯定感の高いやつだな。』…と、謎の縁起によって出会う人がいるものだと眺めながら、なんだかこうして彼とふたりで一緒に何かを見たことが、まるで以前にもあったかのように感じていた。

ハンサムで(当社比) 感性あるヨギとのデートにも興味ないわけではなかったし、あまりにも親和性のある感覚の持ち主で縁があるのは感じていた。

でも、だからこそというのだろうか。
仮にその人ともっと関わりたいですか?と問われるのなら、今そこは良いですよね…という独自の感想が生まれる人物だった。

まるで元彼に久しぶりに偶然再会したものの、あ、今はもういいっす…みたいな感覚に近い。(勝手に言いたい放題)   しかし、インドで初めてプライベートにあれこれ話した人間が彼だったこともあって、妙に印象に残っている存在だった。

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BHUが終演したあとの花弁が散る舞台

そうやって時にたった数時間でも、鮮やかに印象に残る人物に良縁奇縁あいまって出会うことがある。

当時、誰も知り合いがいなかったオーロヴィルで顔見知り程度でも会話する相手がいてくれたことは、ほっとできてありがたいことだった。ハローってちょっと声をかけ合ったり、ささやかな話ができる相手がいることに思った以上に元気をもらっていたりする。

わたしは子どもの頃から輪廻というシステムはあって、幾つもの生は同時に存在していると思っている。編み込まれた壮大な生のタペストリーのような仕組みの中で、一度会っただけなはずなのによく知っているように感じる人というのがいるのだと。そうした生のタペストリーの中の、随分懐かしい意外なご縁の人にひょっこり再会したかのような気持ちもあったのだけど、その縁ゆえに。

彼とはダンスを楽しみ、オーロヴィルの街中で数回偶然出会って雑談したり笑いあう。それくらいがこの生では、一番ちょうど良い距離感だったように思うのだ。

オーロヴィル編-4『インドの洗礼と、マトリマンディル』へ続く。

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宿Véritéでの部屋の鍵

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