TEAM ラプター!

神戸の大学生がひとつのチームとして、それぞれの作品を自由に共有していく場です。小説、戯…

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神戸の大学生がひとつのチームとして、それぞれの作品を自由に共有していく場です。小説、戯曲、詩、イラストなどなどなんでも掲載予定です!創作意欲あふれる、勢いでいっぱいの作品たちをお楽しみに。

マガジン

  • ベッドルーム・シンドローム

    作: 結友 イラスト: 橙怠惰 ラプターオリジナル「ベッドルーム・シンドローム」シリーズの台本、連載小説を集めました。

記事一覧

ガラスの花瓶

作:沫雪 寒い日だった。 透明な水に墨汁を一滴垂らしたような薄暗い雲に覆われた空は窮屈で、世界全体が色褪せて見えるようだった。張りつめた寒さがそれに拍車をかけるよ…

幸福論

作:沫雪 「人の幸せって、何で構成されてるんだろうね」 ぽつり、と唇からこぼれ落ちた疑問。真夏の入道雲とセミの合唱に混じったその言葉は、2人しか居ない狭いアパー…

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【連載小説⑧】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 10. 玄関 AJのネタが切れてしまい、コズモが完全に壁を作ってしまってから、ディナーは耐えられないくらいの沈黙に突入し…

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『雨どもよ』

作: みそ そういえば君が寒がりだってことを僕はすっかり忘れていた。剥き出しの太ももに触れた僕は、君に似つかわぬそのザラつきに思わず体をこわばらせた。 6月…

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日の出のロマンセ

作:みそ 毛布をくすぐる 冷たい空気が 肌に触れるたび 温もりを抱いた 乾く唇と 瞳が示した 昨晩「来るな」と 願ってた明日 カーテンに透ける 今日の始まりは …

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【連載小説⑦】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 9. ドーのドア ドーたちはその後、24時間営業のダイナーに行った。 AJとコズモは小さなワッフルを注文し、向かいに座っ…

【連載小説⑥】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 8. ベールの内側 タルーラは文字通り、輝いていた。 1曲目で客の心に挨拶をして、2曲目で誘惑。3曲目ですべてを弾き飛ば…

【連載小説⑤】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 7. ベールを剥がせ その日は熱帯夜になった。 スターウッドに到着したコズモとAJは、活気ある空気に熱く皮膚を焼かれるのを…

【連載小説④】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 6. ゴースト ドーは無表情のまま店の外へ出た。 口のなかで血の味がしてから、自分が力強く下唇を噛み続けていたことに気が…

【連載小説③】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 5. タルーラ・バルバ バー&ラウンジ「サテライト・オブ・モニカ」は、朝10:00からしっかりと酒を提供する数少ないバーのひ…

【連載小説②】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

作:結友 前作はコチラ。 4. フラッシュバックのお時間です 12時間前。コズモの(母の)家、地下室。 「…いいのか?」ドーが聞いた。 「ああ」 「別に、説明なんてな…

作:みそ 大きな大きな柱がある。柱は長くて、太くて硬い。柱は白くて、古くて冷たい。柱は静かで、きっと重い。そんな柱がここにある。 柱はよく外を見ている。見ていた…

【連載小説①】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

作: 結友 イラスト: 橙怠惰 1. 二日酔い 頭の右側が「ゴツン」とガラスに当たった。ドー・ディアーはダンベルのように重いまぶたを持ち上げ、目をぱちくりさせた。 さて…

【台本】ベッドルーム・シンドローム(Bedroom Syndrome)

日本語版 作・結友 絵・橙怠惰 あらすじ 78年、ロサンゼルス。奔放なメラニーとくっついたり離れたりを繰り返す恋人のコズモ。ある日メラニーは、浮気相手と赤信号を無視…

【SS小説】メルトダウン/アップ・アイス

作・絵:橙怠惰 食塩の融点は800℃。 カリウムの融点は64℃。 おれの身体の融点は何℃だ? おれを射殺しにかかる太陽は、かつての地球では人類の希望とされていた。豊作…

【小説】三面鏡

作:沫雪  「今までで一番印象的なお客さんっていますかぁ?」  薄暗い照明が照らすバーカウンター。会話の邪魔にならない程度にかかっている洋楽が耳に心地よい。そん…

ガラスの花瓶

作:沫雪 寒い日だった。 透明な水に墨汁を一滴垂らしたような薄暗い雲に覆われた空は窮屈で、世界全体が色褪せて見えるようだった。張りつめた寒さがそれに拍車をかけるように身体を巡って、感覚を麻痺させてゆく。 灰色の世界の中で、床に散らばったガラスの花瓶と指から流れ落ちる紅い液体だけが嫌に鮮やかで、この部屋で唯一温度を感じさせるものだった。 ダイニングテーブルに花が置かれるようになったのはいつからだったか、もう覚えていない。ずっとそこにあったようにも、さっき突然現れたようにも

幸福論

作:沫雪 「人の幸せって、何で構成されてるんだろうね」 ぽつり、と唇からこぼれ落ちた疑問。真夏の入道雲とセミの合唱に混じったその言葉は、2人しか居ない狭いアパートのワンルームの空気を揺らして溶けていった。 「やけに哲学的な話題だね」 そうだなあ、と少し考える素振りを見せる彼を横目に私はテーブルに並ぶアイスコーヒーに手を伸ばす。 カラン 溶けかけの氷が音を立てて、結露によってグラスの周りに付着した水がじとりと指先を濡らした。 「脳内物質のセロトニンが、とかそんな話

【連載小説⑧】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 10. 玄関 AJのネタが切れてしまい、コズモが完全に壁を作ってしまってから、ディナーは耐えられないくらいの沈黙に突入していた。食器の音だけが聞こえる中、気まずい笑顔を全員で交換しあうだけだった。 沈黙に耐えられなくなったAJが、乾いた口を開く。 「それにしても、素敵な家ですね……」 母が気まずそうに頷き、微笑んだ。 「ありがとう。近所もいいお家ばかりでね」 ヴィヴが僅かに眉をつりあげたのにコズモが気づいた。 父は微笑みなが

『雨どもよ』

作: みそ そういえば君が寒がりだってことを僕はすっかり忘れていた。剥き出しの太ももに触れた僕は、君に似つかわぬそのザラつきに思わず体をこわばらせた。 6月の公園の、小さな東屋に取り残された僕たちはとっくに喋ることもやめてしまっていた。雨が東屋の屋根を叩き、ベンチから投げ出された僕たちの足の少し先を濡らす。地面に打ち付けられた雨垂れどもは苦痛かはたまた快楽の声を上げながら体を散らし、軒下の領土を着実に拡大していた。この光景を見ながらどれほどの時間が経過しただ

日の出のロマンセ

作:みそ 毛布をくすぐる 冷たい空気が 肌に触れるたび 温もりを抱いた 乾く唇と 瞳が示した 昨晩「来るな」と 願ってた明日 カーテンに透ける 今日の始まりは 昨日より深く 光は遠いが 僕の腕の中 赤らんだ耳が 僕の心臓と さえずりに起きた 寝返りを打つと 冷たい空気が 二人を包んで 「寒いね」の笑みが 温もりをくれる 重ねられた膝 柔らかな頬に あくび追う涙 秋雨の響く 静かな世界は 春に萌芽して 夏に開花した 眠れ

【連載小説⑦】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 9. ドーのドア ドーたちはその後、24時間営業のダイナーに行った。 AJとコズモは小さなワッフルを注文し、向かいに座ったドーはチーズバーガー、ポテト、チキンリブ、シナモンロール、コーラを詩の朗読のようにわざとらしい深い声で読み上げていった。 AJは腕時計を見る。もう夜中の12時半過ぎだ。こんな時間に……。 食べ物が届けられた瞬間、ドーは何も言わずに包みを乱暴にあけ、バーガーにがっついた。そして飲み込む前にポテトへと手を伸

【連載小説⑥】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 8. ベールの内側 タルーラは文字通り、輝いていた。 1曲目で客の心に挨拶をして、2曲目で誘惑。3曲目ですべてを弾き飛ばした。 コズモはパフォーマンスに釘付けになっていた。スパンコールがギラギラと反射して眩しかったが、関係ない。コズモは目を見開いていた。 タルーラは完全じゃない。それが好きだった。 歌には完全な強さとエネルギーで武装したような力がこもっているのに、伴奏の間にふっと力が抜ける。一節を歌い終わるごとに、強い目

【連載小説⑤】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 7. ベールを剥がせ その日は熱帯夜になった。 スターウッドに到着したコズモとAJは、活気ある空気に熱く皮膚を焼かれるのを感じていた。煙たさから息継ぎをしようと上を向くと、暗闇に1920年代風のネオンサインがギラギラと映えているのが見える。会場のドアが開き、人々と蒸気がさらに入り口へ流れ込んできた。前座がちょうど終わった後らしい。 二人は会場を見渡した。もしかしたらドーがいるかもしれないと思ったからだ。 すれ違う大勢の頭を見

【連載小説④】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 6. ゴースト ドーは無表情のまま店の外へ出た。 口のなかで血の味がしてから、自分が力強く下唇を噛み続けていたことに気がついた。ドーは立ち止まって、車が行き交う目の前の道路を突っ切ることに決めた。なんでも突き飛ばしたい気分だった。 しかしこの街では、外へ出るとやわらかいものなんて一つも見当たらない。どこもかしこもでっかい鉄の塊ばかりだ。 何を蹴ったって自分の体のほうが吹っ飛ぶんじゃないかとドーは考えた。自暴自棄なのは分かってい

【連載小説③】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

前作はコチラ。↑ 作:結友 イラスト:橙怠惰 5. タルーラ・バルバ バー&ラウンジ「サテライト・オブ・モニカ」は、朝10:00からしっかりと酒を提供する数少ないバーのひとつだった。ヴィクトリア調と今風の飾りを混ぜたようなテーマの店で、マスターは短気で、気さくなおじさんである。 ドーはべっこう色のドアを開けると、見慣れた顔のあるカウンターの方へ歩いて行った。 開店後すぐだったため客は一人もいなかった。マスターはしかめっ面をしながらビールサーバーを磨いていたが、ドーの顔を見

【連載小説②】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

作:結友 前作はコチラ。 4. フラッシュバックのお時間です 12時間前。コズモの(母の)家、地下室。 「…いいのか?」ドーが聞いた。 「ああ」 「別に、説明なんてなくてもいいんだぜ。言われなくても試す気満々だからな」 ドーは片方の眉毛をつりあげて、コズモの手のひらで転がっている2つの錠剤をじっと観察した。 2人は地下室のソファーに並んで座っていた。正面のテーブルにはピザの食べかすと段ボール箱、ビールの瓶、ボードゲームと文字のたくさん書いてある紙切れが散らばっている

作:みそ 大きな大きな柱がある。柱は長くて、太くて硬い。柱は白くて、古くて冷たい。柱は静かで、きっと重い。そんな柱がここにある。 柱はよく外を見ている。見ていたって何もないけど、ただ夕日が沈むのを見ている。そして月が昇ってくると、柱はすぐ眠たくなる。しばらくウトウトとしたのち、柱はついに眠ってしまう。眠る時はもちろん横になる。周りの柱がこの大きな柱の寝姿を覗き込むたび、天井がグワグワとたわむ。 柱が目を覚ました頃には、もう太陽は昇っている。柱はゆっくりと起き上がり、背筋

【連載小説①】1979年初夏、ドーの話。/ DOE DEER, WHAT’S THE MATTER??

作: 結友 イラスト: 橙怠惰 1. 二日酔い 頭の右側が「ゴツン」とガラスに当たった。ドー・ディアーはダンベルのように重いまぶたを持ち上げ、目をぱちくりさせた。 さてさて、自分の体がちゃんとあることを確認しよう・・・髪の毛、首すじ、汗をかいた手のひら、シャツ、ジャケット。 感覚ってのは遅れてくるもんだろ。右手に目を落とし、グーで固まった指をゆっくりと開いていくと、ようやく体がうまく動かせるようになってきた。ドーはホッとした。鼻先がガラスに触れ、冷たさがくすぐったく身体

【台本】ベッドルーム・シンドローム(Bedroom Syndrome)

日本語版 作・結友 絵・橙怠惰 あらすじ 78年、ロサンゼルス。奔放なメラニーとくっついたり離れたりを繰り返す恋人のコズモ。ある日メラニーは、浮気相手と赤信号を無視して事故を起こし、自分だけ生き残る。コズモはその現場を見ていた。友人のA.Jとドーとともにメラニーの裁判の証言をリハーサルすることになるが、事故を境にコズモはメラニーの美化された幻覚を見るようになる。上書きされていくメラニーの記憶に誘惑されるコズモ。裁判当日、コズモはメラニーを救う決断をするのか、それとも自分の

【SS小説】メルトダウン/アップ・アイス

作・絵:橙怠惰 食塩の融点は800℃。 カリウムの融点は64℃。 おれの身体の融点は何℃だ? おれを射殺しにかかる太陽は、かつての地球では人類の希望とされていた。豊作を願い、太陽を崇めていた頃と今はあまりにも違いすぎる。「神は死んだ」というニーチェの格言よりも「神は忘れられた」と言うに相応しい今の地球は、人間は、引き返せないほどに大きな過ちを何回もこの数十年で繰り返している。 愚かな人類を嘆いているのか、太陽は自らの力を使っておれたちを淘汰しにかかっている。嘆くのは無理も

【小説】三面鏡

作:沫雪  「今までで一番印象的なお客さんっていますかぁ?」  薄暗い照明が照らすバーカウンター。会話の邪魔にならない程度にかかっている洋楽が耳に心地よい。そんな満ち足りた空間は、目の前に座っている女性の問いかけによって終わりを告げた。どうやら隣にいる常連さんとこの店の客について会話していたようだ。  「印象的、ですか…」  正直毎日のように来る常連を除けば、それなりに繁盛しているこの店に来た客のことなんてよっぽど強烈な印象がある人以外いちいち覚えちゃいない。いつものよう