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日の出のロマンセ

作:みそ



毛布をくすぐる

冷たい空気が

肌に触れるたび

温もりを抱いた

乾く唇と

瞳が示した

昨晩「来るな」と

願ってた明日


カーテンに透ける

今日の始まりは

昨日より深く

光は遠いが

僕の腕の中

赤らんだ耳が

僕の心臓と

さえずりに起きた


寝返りを打つと

冷たい空気が

二人を包んで

「寒いね」の笑みが

温もりをくれる

重ねられた膝

柔らかな頬に

あくび追う涙


秋雨の響く

静かな世界は

春に萌芽して

夏に開花した

眠れる大地に

捧げた祈りだ

枯れたレクイエム

淡いララバイだ


アスファルトを這う

濡らされた落葉

風が揺らす窓

やや膨らむヒダ

早く帰らなきゃ

土砂降る前には

駅に着いてなよ

帰りたくないな


布団に潜って

駄々をこねてみた

君に目を向けず

空に呟いた

引き止めて欲しい

昨夜の君には

笑われるかもね

不出来な引き際


君はゆっくりと

両の目を閉じた

唇を重ね

僕も目を閉じた

カーテンの下を

這いずる冷気が

四季の移ろいを

触れ回っていた


僕たちの長い

冬眠の間

文明は滅び

この世界に今

僕と君だけで

暁光の真下

目覚め見つめ合う

そうがいいのにな


鳥が唄う中

アダムとイブには

謝らないとね

僕たち二人は

世界を終わらせ

振り撒く無邪気な

笑顔で草木を

枯らし尽くす気さ


そうはならないと

僕は知っていた

秋雨の響く

静かな部屋には

僕ら二人だけ

日の出の下には

雲と傘を抜け

忙しい箱庭


虚空に消えゆく

「帰りたくないな」

君は目を開けて

体を起こした

湯気が立つ君の

スープと猫舌

寒がりな僕と

昨日の靴下


玄関扉は

簡単に開いた

折り畳み傘と

階段を降りた

雨は僕を撫で

包み込む涙

寂しさ虚しさ

涙が溶かした

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