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大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話㉔

昼間の誰もいない家の中で、僕は一人ソワソワしていた。今日に届く予定はずだ。パソコンを開き、配送予定日を何度も確認する。やっぱり今日だ。まだ来ないかなと、好きな人との初めてのデートのように、不安と期待が入り混じった感情を感じていた。そんな気持ちとは裏腹に1時間経ち、2時間経ち、いつの間にかもうこんな時間だ。もうだめだ。行かなくちゃ。家で荷物を待っていたが、来ることはなく、アルバイトへ行く時間が来てしまったのだ。僕は家のチャイムを聞き逃さないように聞き耳を立てながら、青色のつなぎに着替えた。結局期待したチャイムはならず、僕はアルバイトに向かうため玄関を出た。

僕は原付のメットインからヘルメットを取り出して被った。バイクはSR400という400ccのバイクからホンダtodayという50cc原付に変わっていた。SR400は車検に通らなかったので車検日ギリギリまで乗り売り払った。雀の涙ほどの買取金額がついたので、そのお金で中古の安い原付を足として買ったのだった。原付のエンジンをかけると、小さなエンジン音が小気味よくなっている。原付に腰掛けサイドスタンドを払うと、僕はアルバイト先に向かった。

いつものようにアルバイトが始まった。相変わらず「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」を繰り返すが、気もそぞろだ。時計を見るとまだ10分しか経ってない。いつも以上に時間の進みが遅く感じた。

お客様が少ないにもかかわらず、スタッフが多いとたまに早く上がらせてくれることがある。会社にとっては単なる人件費の節約であり、時間給で働くアルバイトにとっては給料が下がるあまり望ましくないことだが、今日ほど早く返してほしいと思ったことはなかった。

期待していることはなかなかおこらない。暇な時間に耐えているともうそろそろ店を締める時間になってしまった。

「まこっちゃん、片付け始めていいよ。」

と社員の声がインカムからした。

「はい!」

と返事をすると、僕はいつも以上にテキパキと片付け始めた。ピット内に水をかけ、洗剤で床をゴシゴシと洗う。洗い終わると水切りで床の水を床から取る。ピット内の掃除が終わると、給油スペースに置かれているタオルなどのモノをピット内に入れていった。汗が帽子の隙間から流れる。いつも以上にテキパキ動いていることを不思議に思ったのか、

「尾崎さんなんか今日気合い入ってますね。」

と江藤君が声をかけてきた。

「そんなことないよ。早く片付けて早く帰ったほうがいいやろ。」

と本当の理由は言わず、真面目な先輩のようなことを言ってごまかしたのだった。



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