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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑬

大学4年の冬

1月になって皆が就活が決まって旅行や遊びに出かけている頃
私は、居酒屋「灯楼」に頻繁にいくことになった。

しかも、お客さんとして酒を飲むわけでもない。

大学4年の1月から大学と掛け持ちで夜は居酒屋で働いていた。

「一緒に店やらない?」
その一言が人生を大きく変えていた。

初めてカウンターの内側でお酒を注いだり
料理を作ったりすることになった。

それまで、ドームやメッセなどで接客業を
してきたとはいえ、飲食店での仕事は初めてのことで
何をしていいかわからない。

そんな未知なる仕事へ向かう初日
今までと全く違う緊張感をもって
店へと向かっていた。

”ガチャッ”
いつも入るような
気持ちとは違う緊張した面持ちで店に入った。

「宜しく!」
笑顔でオーナーの酒井智矢が迎えてくれた。

店に入ると
いつもと違う料理人がいた。

「よろしく!!」
その方もオーナー同様、笑顔で迎えてくれた。

「宜しくお願いします、嘉松と申します、、」
初対面の男性に緊張した感じで挨拶をした。
この方がどのような方か一切わからず緊張していたのだろう。

「南部です!宜しく!!」
その明るい声の男性は妙に人に慣れていて
飲食経験も長そうな雰囲気にあふれていた。

続けてオーナーの酒井智矢がいう
「今日から南部さんがキッチンやるから」

「嘉松はホール宜しく!」

”ホール?”
聞き慣れないワードが早速飛び出してきた。

「…ホールってなんですか?」
まったく意味不明なワードに即座に聞き返した。

「ホールってのはお客様の接客をすることだよ!」

「あぁ!それをホールって言うんですね!わかりました!」

それからメニューや接客の基本だけを
教えてもらって接客がスタートした。


””ガチャっ”
まもなく、一組目のお客様がご来店した

「いらっしゃいませ!」
とりあえず、イベント業で慣らした
明るい声で声を発した。

とりあえず、お客様を誘導する
奥のカウンターに2名様をお通しする。
男女2名だった。

そこからが地獄のような空間だった
今までのイベント業なら
呼ばれたときや何かあったときの対応、
早め早めの危険察知等が主な仕事だった。

しかし、飲食店はそれに加えて
”トーク”もしなくてはいけない。


自分の中では
そんなイメージだった

しかし

”何を話していいのかわからない”
”どこに立っておけばよいかわからない”

基本的なことはなにも理解していなかった。
唯一わかったことは

”男女で来ているから話に入りすぎず黙っておこう”
それだけだった。

「すみません!」
カウンターから声がかかる

「お待たせ致しました、ご注文ですか?」

「はい、これとこれとこれ!お願いします」

「かしこまりました」

…それ以降、お客様とは帰られるまで
一切会話をしなかったのではないだろうか。

接客の少しもできなかった自分が情けなかった。
こんなことで飲食店の仕事をやっていけるのだろうか。

少し不安を抱えた飲食店の仕事デビューになってしまった。


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