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大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話⑲

一台洗い、そして拭きあげ、また一台洗い、拭きあげを繰り返しているといつの間にか、洗車ラッシュが落ち着いてきた。時計を見れば、3時間が過ぎようとしていた。つなぎの中は、汗でびしょびしょになっているが、なんとも言えない充実感が溢れていた。

「まこっちゃん、俺先に休憩行ってくるね」と蒲田さん。

「はい!どうぞ!」

ピットの奥にあるスタッフルームへ向かった。ピットの方に目をやると、洗車ラッシュが終わり、散乱している洗車スペースの片付けをしている江藤くんが目に映った。江藤くんに近づき

「江藤くんも休憩行ってきたら?僕が代わりに片付けとくよ。」と声をかける。

「ありがとうございます!休憩いただきます。」

江藤はたたたとスタッフルームへ走っていった。洗車で使ったタオルを集め、洗濯機を入れ洗濯を開始する。洗濯機の上につけられた乾燥機を開けると、ダウニーの匂いが広がる。中には乾燥が終わったタオルがある。そのタオルをカゴに入れ、洗車スペースにある洗車用タオルが置いてある台にいき、その前で小気味よく畳んでは積む畳んでは積むを繰り返した。

タオルをたたみながら表を見ていた。すると遠くから聞き覚えのあるドドドドという音が聞こえる。
ガソリンスタンドの入り口に目をやるとバイクに乗って白田が入ってきた。僕の白田に手を振る。白田も気付き、近くまで寄ってきた。

「どうだった?」

「車検通せなかった。」

「えっ。なんで?」

「ヘッドライトの光量が足りないらしい。」

「それってどうにかならんの?」

「知り合いに聞いてみたら、古くなって配線のどこかに問題があるっぽい。どこの配線か突き止めるには結構金がかかるっぽい。」

「あー。マジか。ありがとう。どうするか考えてみるわ。」

「なんかごめんね。」

というと白田はバイクの鍵と茶色の封筒を返してきた。白田は自分のバイクに跨り、ガソリンスタンドを出ていった。ありがとうと言いながら僕は白田に手を振った。

夕暮れが差し、ガソリンスタンド全体がオレンジ色に輝き始めていた。やがて暗く静かな夜が来ることを察知したのか、スタッフの誰かが水銀灯の明かりをつけた。

なんとなく考えてみると白田には行ったが、僕の中では答えは出ていた。思い出深くて手放したくないが、売ることに決めた。いつの間にか僕にとっての優先事項が変わっていた。映像制作・動画制作を事業としてできるかやりたいという思いが、バイクの愛着を超えていたのだ。過去より未来に向かっていた。




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