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映画 Gran Torino の仕掛け

昨年の10月にClint Eastwood監督・主演のGran Torinoを観た。
名作と言われる作品であるが、長らく観る気がしなかった。アジア人に差別的感情を持つアメリカの年配の白人男性と彼の車を盗みに入ったベトナム人の少年とが、時間をかけて友情を育むというシナリオが、しっくりこなかったからだ。

若い頃、僕は年配のアメリカの人種差別主義者(そう確信している)に、逃げ場のないところで怒鳴りつけられ、脅されたことがある。本当に恐ろしかった。状況からして、殺される心配はなかった。しかしその殺意のこもった目を、今も忘れる事が出来ない。脅されたり怒鳴られたりする事はその後もあったが、そのような殺意を、それ以降誰からも感じた事はない。
だから朝鮮戦争従軍じゅうぐんした経験を持ち、アジア人に差別感情を持つ年配ねんぱいの男とアジア系の少年との友情という物語が、テーマとしては分かるが、受け入れがたかったのだ。しかし観てよかった。

僕にとっては、あり得そうに思えない友情が育まれていくきっかけは、ほんの偶然なのである。
車を盗みに入った少年は老人に見つかり、銃を向けられる。初犯しょはんだったろう少年は狼狽ろうばいして転んでしまう。銃を向けた差別心のある人の前で動くなどは論外ろんがいで、普通だったら確実に殺されている。そうなれば老人の中で差別心はますます強まり、少年を殺した事で地域のアジア系住民との軋轢あつれきは増し、その事が更に差別心を強くするという悪循環あくじゅんかんに入っていたはずだ。しかし少年が転んだ時に足に当たったものが老人の足にも当たり、老人も転んでしまう。その間に少年は逃げ出す。そして別の循環が意図いとせず回り出す。このちょっとした設定が僕のわだかまりを解いてくれ、映画を最後まで見る事が出来た。

その後の映画の内容は、悪循環から好循環こうじゅんかんへと向かったとは簡単には言えない。残酷ざんこくです。
残酷な現実と、ちょっとした偶然とじょう。こういった描き方に、僕は弱い。僕を引き込んだこの映画の仕掛けに、強いリアリティを与えているのは、Clint Eastwoodをはじめとする役者の素晴すばらしい演技だろう。名作と云えるかと思います。

(昨年10月にinstagram(philosophysflattail)に上げた記事でした。)

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