音楽が「シームレス」に広がっていく
column vol.618
テレビ朝日系列の『関ジャム 完全燃SHOW』という番組はご存知でしょうか?
〈関ジャム 完全燃SHOW Webサイト〉
この番組は、アーティストだけではなく、音楽プロデューサーなど裏方の方々まで、音楽業界を牽引するゲストが毎週登場し、音楽の基本から、制作の裏側や専門テクニックなどを掘り下げる番組。
その内容は、音楽初心者からマニアックな方まで楽しめる内容になっており、大好きな番組の一つです。
先週のゲストがサカナクションの山口一郎さんだったのですが、コロナという逆風を活かし、新しい音楽制作のプロセスを生み出している姿を見ることができました。
ちょうど、その内容がan・an webでも紹介されていたので共有させていただきます。
〈an・an web / 2022年4月3日〉
顧客を巻き込む「楽曲づくり」
コロナにより定着し出したオンラインライブですが、山口さんはこの良さを上手く活かした楽曲づくりを開発されています。
今までは、楽曲の完成をしてからライブを行っていくという形でしたが、新たにこのようなプロセスを考案されたのです。
オンラインライブ → 生ライブ → 楽曲完成(CD・サブスクリリース)
つまり、オンライン&オフラインのライブでのファンの反応を取り入れて、楽曲を練り上げているのです。
その気持ちをこのように表現されています。
「コロナの影響がない時代にはもう戻れないと思いました。音楽カルチャーの中で新しいものを見つけるのが使命だと勝手に思って(笑)、まずは、普通にライブをシュートするのではない、リアルライブが舞台だとしたら映画のようなオンラインライブを実現したいと考えました。そこから、これまでのアルバムを出してツアーという流れではなく、オンラインライブを観た人にリアルライブに興味を持ってもらって、ライブで音源が欲しいと思ったらCDやサブスクで曲を聴いてもらう流れがコロナ禍における新しい流れかなと。無料で音楽を楽しむ層もいる中で、音楽の楽しみ方で様々な選択肢を提案していきたいと思いました」
実際、『アダプト』と来年リリースされる『アプライ』、この2枚のアルバムは新しいプロセスの中で生まれています。
音楽も「共創価値」時代
もともとアルバムづくりに時間がかかるというサカナクション。この新しいプロセスは、その短所を長所に変えようとしています。
「僕らはリリースにすごく時間がかかるバンドなので、コロナ禍を集約した作品を一枚出すとしたら何年もかかっちゃう。だから2つの期間に分けて曲を作り、それを適応=アダプトと応用=アプライという2つのアルバムにして、それプラスツアーやオンラインライブをやる。アルバムというものがマーチャンダイジング化していることも鑑みて、一枚で完結させるのではなく、プロジェクト全体の流れの中で表現していくことが重要だと思ったんです」
つまり、楽曲を完成させて展開するという従来の手法ではなく、完成までのストーリー(プロセス)自体をコンテンツ化する。
これはまさに、プロセスを公開し、そこに顧客を参加させる余白をつくり、反応を見ながら完成へと導くマーケティング4.0時代の「共創価値」を生み出す流れと同じです。
山口さんが「共創価値」を意識して新しいプロセスを作り上げたかは分かりませんが、やはり時代は「顧客とともにコンテンツを作る」という方向に向かっていると感じられます。
まさに、楽曲づくりおいて、ファンと関係者との線引きがよりシームレスになっている状態とも言えます。
今後、こういった形の音楽制作は増えていくように感じます。
ちなみに、マーケティング4.0(共創価値)について、より知りたい方はぜひこちらも併せてご覧くださいませ。
音楽の「時代性」がよりシームレスに
もう一つ、最近シームレスになっているなぁと感じるのが「時代性」です。
最近、日本の「シティポップ」が海外で人気のようです。
〈NewSphere / 2022年3月31日〉
シティポップと言えば、山下達郎さん、竹内まりやさん、大滝詠一さんなど、洋楽志向の都会的に洗練されたメロディや歌詞を持つポピュラーミュージック。
日本の70〜80年代を代表するジャンルで、1976年生まれの私にとって幼少期の感性を育んでくれた音楽と言っても過言ではありません。
母親がFMラジオを聴くのが好きだったので、家ではこの頃、多くのシティポップが流れていました。
そのシティポップが海外でブームとなっている。
人気再燃の背景として、米ヴァージ誌は2つの理由を挙げています。
一つは、日本国内のマニアたちによる再評価です。
数十年ほど前、70年代から80年代のシティポップを発掘するムーブメントが高まり、その波がようやくアメリカなど海外にも伝わったという理由。
そして、もう一つが配信プラットフォームのアルゴリズムです。
私はこの二つ目の理由が大きいと感じています。音楽プラットフォームのリコメンド機能や、YouTubeの関連動画など、偶然の出会いが多い昨今。
特に時代の垣根がシームレスになっていることが大きいのではないでしょうか?
最近、日本の若者の間でも80年代アイドルが人気であることも、このことが影響しているでしょう。
音楽が時代と国を超えて、自由気ままに広がっている。
何だか、改めてあの頃のシティポップを聴き直してみたいと思った夜でした。
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