柔らかに「起業」する
column vol.796
昨夜、当社の法人向け勉強会「文化経済研究会」の会員様だった第一生命さんに青学駅伝部監督の原晋さんの講演にご招待いただきました。
クローズドイベントだったので、内容の詳細はご紹介できないのですが、原監督と言えば、中国電力という安定した職業を捨てて、まずは3年間の嘱託社員として青学で働きます。
つまり、「覚悟」を持ってやりたいことに挑戦したというわけです。
この覚悟の挑戦は、起業も同じですよね。
しかし、成功すれば良いですが、失敗したら…と思うと…、なかなか一歩が踏み出せないのではないでしょうか?
ということで、これまでもスタートアップの敷居を下げる事例をnoteで紹介してきましたので、今回もいくつかご紹介したいと思います。
注目の「アトツギベンチャー」
最初の1つは「アトツギベンチャー」です。
つまり、「後継」によって企業経営を始めるということです。
9割以上の企業が同族企業という“同族企業大国”日本は今、後継者の不在が問題となっています。
しかし、ゼロからの事業立ち上げをする起業家とは異なり、すでに積み上げてきた有形・無形の経営資源を活用してスタートすることができます。
一方で、親の営んだ事業をそのまま引き継ぐ後継者ではなく、社会に新たな価値を生み出す起業家的な存在であること。
この2つをうまく兼ね備えて市場で活躍しているハイブリッド型の起業を「アトツギベンチャー」とし、「継ぐ」にモヤモヤしている若手後継者がもっと生き生きと活躍していけるように応援する取り組みです。
〈ABEMA TIMES / 2022年9月28日〉
ちなみに、ワークショップや交流会など、アトツギベンチャーを志す若者を支援する活動を展開している「一般社団法人ベンチャー型事業承継」では、これまでに1000社近くと交流してきたそうです。
もちろん、アトツギベンチャーであろうと経営者になるということは覚悟が必要になりますし、後を継ぐからこその大変さもあります。
実際、福井県で70年以上続く「ホリタ文具」の3代目として跡を継いだ堀田敏史社長は、勤めていた証券会社を辞め、株式会社ホリタに移り、驚いたのは、当時、パソコンが会社で2台しか無かったそうです。
超アナログであったし、何より組織としての体をなしていなかったとのこと。
しかし、“文具店のテーマパーク化”を掲げ、「田舎の身近なディズニーランドをつくる」と努力したことで、今では年間約70万人がお店を訪れているのです。
また、イノベーションを起こすことで、地方の活性化に貢献することごできる。
これもアトツギベンチャーの大きな特徴です。
企業の歴史や実績という資産を活かし、新しい発想を持って継続させていく。
日本人らしいベンチャーの形なのかもしれませんね。
弱さをさらけ出す環境づくりが肝
話は変わりますが、最近、面白いと思ったスタートアップに関する本があります。
クラウド会計ソフト「freee」の出版部門から出た書籍『倒産した時の話をしようか』です。
〈キャリアハック / 2022年9月26日〉
同社の社員で、著者の関根諒介さんが、倒産社長8名へのインタビューをまとめた一冊なのですが、その斬新さが反響を呼んでいます。
確かに普通は「成功秘話」を本にしますが、失敗をテーマにした本は珍しいと思います。
でも、私は失敗から学ぶ方が成功から学ぶよりも大きいのではないかと捉えています。
例えば、共通して倒産してしまうパターンとして1つ挙げられるのが、コミュニケーションのトラブルです。
関根さんは
金融機関、取引先、社長仲間…こういった人に「うまくいっていない」などと話せば、変な噂が流れてしまうかもしれない。強いリーダーや父親のイメージを維持するために、社員や家族にも弱みは見せられない。常に虚勢を張り続け、気づいたら倒産するしかなかった、と。追い込まれれば追い込まれるほど、他人を拒絶し、自分の殻にこもってしまった方もいました。
ということを指摘しています。
特に日本人はコーチングやカウンセリングを避けがち。
他人に頼ることを弱さと捉えたり、精神的に滅入っていると思われたくないと考えるからか、そうしたサービスを使えない人は多くいるでしょう。
気楽に相談できる環境は必要ですね。
誰かしらが介在することで、自分自身の気持ちや感情を俯瞰的に認識できたり気づいたり、新しいアイデアが生まれ、道が開けることもあるからです。
だからこそ、失敗をオープンにして、繋がり合うことが重要というのはよく分かりますね。
失敗を活かせる社会を目指して
そして、仮に倒産したとしても、ポジティブに捉えて再チャレンジする人は多くいる。
中には、同じような倒産社長が再チャレンジしやすくなるよう、支援団体を立ち上げられたり、そこに加わったりする方も多くいるそうです。
こういった前向きに今をイキイキと生きる倒産社長の姿を伝えられれば、倒産の意味をポジティブに変えていける。
そんな思いもあって関根さんは本にまとめたそうです。
失敗は負債ではなく資産、それが自分の武器になる。経験や学びは次に生かせるのです。
最近では、起業に失敗しても、DeNAなどのメガベンチャーがそうした人材を積極的に雇用している他、大企業でも出戻り制度を設けるなど、状況は大きく変わってきています。
そういった再挑戦を支援する枠組みや、 新たな金融の仕組みを整えることも重要な社会的な課題ですね。
ちなみに東京都、兵庫県、経産省が、倒産や廃業を経験された方々の再起業を支援する、アクセラレーションプログラムの提供などを始めているそうです。
そして、関根さんはこのように語ります。
そうしたさまざまなトライをしていくことで、最終的には倒産を含めた挫折や失敗を誉め讃え、そうした挑戦を応援するような寛容的な文化が醸成されることを目指していきたいです。
非常に共感します。
少なくとも覚悟を持って起業した人は社会の宝です。
なぜなら、多く人が覚悟を持つことが難しいからです。
科学の発展は多く失敗のもとになりたっています。
ビジネスの現場でもそれがスタンダードになることが、本当の意味で日本経済の閉塞感を打ち破ることになるのでしょうね。
そんな時代が来ることを願っております。
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