インフルエンサーは「濃さ」が肝に
column vol.425
小売業は3ヵ月前から企画が進むので、今、私たちはクリスマスモードになっています。
そんな中、年末商戦に関する1つの傾向が見られたので、共有させていただきます。
どうやら、日米の7割のマーケターが「インフルエンサー」を起用する予定とのことなのです。
〈MarkeZine / 2021年9月15日〉
日米で大きな差がある消費者マインド
このMarkeZineの記事では、日米の消費者マインドの現在地が読み解けるものなので、ちょっとだけ前置きとして書かせていただきます。
Sitecoreの「2021年の年末商戦・消費動向に関する調査」によると、「新型コロナウイルス流行前の生活に戻ったことを実感するか」という問いには、日米で大きな隔たりがあります。
日本…「ほとんど毎日確認する(41%)」
米国…「ほとんど毎日確認する(14%)」
また、ホリデーシーズンについても意識の差は顕著で、「今年のホリデーシーズンの支出は、昨年と比較するとどうか」と質問に対しても、「昨年よりも今年の方が多くの支出を予定している」と回答した割合は日米で以下の通りになります。
日本…24%
米国…36%
アメリカではワクチン接種が先行してきたことが影響していますね。
ただ、日本でも2回接種がついに過半数を超えたので(53.1%/9月16日時点)、それに連動するかのように感染者も減っています。
もちろん、この先感染が増えるという予測もチラホラ見られますが、感染が減少すれば、この秋の行動制限の緩和に向けて、経済回復への期待は高まります。
ちなみに、ホリデーシーズンの買い物をオンラインで行うかについては、日米であまり差がなく約4割がオンラインを選択したいと回答しています(日本…36%、米国…43%)。
インフルエンサー起用は効果的なのか?
そして、ここからがインフルエンサーの起用について。日米の約7割が「起用する」と答えています(日本…65%、米国…67%)。
しかし一方、消費者側は冷静です。
消費者にインフルエンサーに対する印象を尋ねたところ、日本の66%、米国の76%は「全く興味がない」と回答。
日米ともに、消費者の6割以上がインフルエンサーという存在に「共感できない」「信用できない」「関係がない」という印象を持っていることが分かりました。
これは非常に重要な着目点だと感じています。
我々の調査の中でも、インフルエンサーに対する捉え方が変わってきていると実感しています。
着目したい「スモールコミュニティ化現象」
まず昨今、より小さくて濃い関係のコミュニティが多数生まれています。
それを私たちは「スモールコミュニティ化現象」と読んでいるのですが、影響力について、「遠くのインフルエンサーよりも、近くの素敵な人」になっているのです。
もっと言うと、凄い人ではなく、関係が濃い人からの影響をより受けているということです。
例えば、noteをやっている方なら分かると思いますが、フォロワーの多さが以前ほど重要視されなくなっています。
もちろん、フォロワー数が多いことに越したことはないですが、フォロワー数がそこまで高くなくても、フォロワーから熱烈な支持を受けている方もいらっしゃいます。
そういった方のアカウントはコメントで溢れているのです。
フォロワーからの恩恵が「多さ」ではなく「濃さ」へ、徐々に移り変わっている象徴だと言えます。
「濃さ」重視はNFTでさらに加速
そして、この「濃さ」重視の傾向は、NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)によって、より加速していくでしょう。
ちなみに、NFTとはブロックチェーン技術を使ったデジタル資産の一種で、画像や音声など特定のデータを、唯一無二のものとして証明できるものです。
Beepleのデジタルアート作品「Everydays. The First 5000 Days」(エブリデイ:最初の5000日)が約75億円という高価格でクリスティーズのオークションで落札されたことは有名な話ですね。
そして、この夏、衝撃のニュースが舞い込んできました。
小学3年生の、通称「Zombie Zoo Keeper(ゾンビ飼育員)」くんが48点のピクセルアートを出品したところ、なんと約380万円もの売上を上げたそうです…!
〈BUSINESS INSIDER JAPAN / 2021年9月9日〉
きっかけは夏休みの自由研究。絵の雰囲気はこんな感じです。
撮影:西山里緒さん
ゾンビくんの作品をたまたま300万人フォロワーを誇るバーチャルインフルエンサー「リル・ミケーラ」のプロデューサーでもある「Trevor McFedries」さんが購入し、ツイッターが拡散したことで、一気に作品価値が高まりました。
NFTは投資的な観点が強い部分もありますが、唯一無二というのはファン心理を掴みます。
つまりは10万人、100万人単位でファンがいなくても、ものすごい濃いファンが10人、100人いたら、生活していける世の中になってきているということです。
ニュースへの対価、日本でも
ちょっと視点を変えて、最後にこちらのニュースを取り上げたいと思います。
米グーグルは16日、ニュース配信サービスの「ニュースショーケース」を日本国内で新たに始めたと発表。
朝日新聞を含めた40社以上の報道機関がライセンス契約を結んで記事を提供し、グーグルが対価を支払う仕組みとなりました。
〈朝日新聞デジタル / 2021年9月16日〉
ショーケースでは提供社が選んだ記事を集めた「パネル」が表示され、利用者がパネルの中の見出しをクリックすると各社のサイトに移動。
利用者が気に入ったパネルを「フォロー」することもでき、報道各社は自社サイトに利用者を誘導しやすくなります。
この背景には、経営環境が厳しくなっている新聞や雑誌などのメディアに対価を払い、質の高いコンテンツが減るのを防ぐことを狙っています。
これまでネットで簡単に情報がとれるようになったこと、そして、バズりやすい記事が優遇されたことにより、ネット情報のクオリティが玉石混合状態に。
情報価値の低下が見られました。
コロナ禍でフェイクニュースが問題にもなりましたが、情報の信用性を求める声が高まっています。
ここでも数ではなく質(濃さ)が重要になっている。
つまり、「信用」が重要で、それなくして「共感」は生まれないということです。
話をインフルエンサーに戻したいと思います。
最近では、社員を起用しながら、自前のインフルエンサーを育てていこうする企業が増えているように感じます。
有名だからといって、「多分、その企業に対して愛はないだろう」と思われているインフルエンサーがオススメするより
「この人、本当に自社とその商品を愛しているんだなぁ」と思える社員(ナノ・インフルエンサー/フォロワー数が500~5,000人程度)の方が信用できる。
そして、共感もできるのです。
少なくても、企業のSNSコミュニケーションはコミュニティの独自色と関係性をどれだけ濃くつくれるかが、とてもカギになっていくでしょう。
今後「インフルエンサー(影響を与える人)」という概念は大きく変わりそうですね。
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