「ステークホルダー」経営への追究
column vol.827
ここ最近、さまざまなメディアを見ていると「ステークホルダー経営(資本主義)」という言葉が一気に世の中で広がっているように感じます。
ちなみにステークホルダー経営とは、企業に影響する全てのステークホルダー(利害関係者)との関係を重視し、企業活動を通してこれらステークホルダーへの貢献を目指す長期的な企業経営のあり方。
もちろん、資本主義の原則は「利益の最大化」ですが、消費者や株主を始め、従業員、地域社会、地球環境などにも配慮しないと「サステナブルな経営はできないよね」という考えで、利益追求と社会貢献を両立を目指しています。
では、このステークホルダー経営においての好事例の1つが「味の素」でしょう。
フォーブスジャパンが行った東証プライム上場企業を対象にした「ステークホルダー経営ラインキング」で1位に選ばれています。
〈Forbes JAPAN / 2022年10月25日〉
同社では「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」というパーパスを軸に、社会課題を解決しながら経済的な価値もつくり出す「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営」に取り組んでいます。
この方針はさまざまな企業にとっても、非常に参考になると思うのです。
ビジョンを描き「非財務」項目を重視する
ASVでは2030年時点の味の素の「なりたい姿(ありたい姿)」が掲げられています。
その2本柱が
●2030年までに、10億人の健康寿命を延伸する
●2030年までに、事業を成長させながら、環境負荷を50%削減する
というビジョンです。
私はまず同社が「なりたい姿(ありたい姿)」と表現していることに素晴らしさを感じています。
なぜなら、多くの企業にとってこういったビジョンは「やるべきこと(やらなくては仕方がないこと)であるからです。
それに対して同社は「Want」で語っている。
義務で行っているのか、そうしたくて行っているのかで結果は大きく変わります。
「Want」がベースになり得ている理由は、売上高や利益率といった財務面でのKPI(重要業績評価指標)ではなく、人材や顧客などの無形資産、すなわち非財務のKPIを高める方針に転換しているからだと思います。
例えば、ランキングの中で味の素が「従業員」項目で高スコアだったのですが、同社が掲げる「開拓者精神」をもとに、従業員の「自分事化」を促し、志や熱意の高まりを育んでいます。
社内研修でリテラシーを高め、企業と個人の目標設定を関連づけながら、さらには秀逸な事例を「ASVアワード」で表彰し、社内で成功体験を共有する。
この非財務を重視する考えを、藤江太郎社長はこのように語ります。
非財務が充実してくると、後から財務もついてきます。従業員や地球環境、株主、サプライヤー、顧客・消費者はすべて無形資産であり、ASV推進の原動力です。味の素の志への熱意や共感が高まり、無形資産が増えるほど、社会価値と経済価値を共創するASVが実現します。
これこそ、まさにステークホルダー経営の本質。
こういった想いを全社的に共有できると強いですね。
企業は「強くて優しく」あること
この非財務項目の充実という点で非常に注目しているのが、サステナブル・ラボという会社です。
企業のESG/SDGs貢献度を数値化した非財務データバンク「TERRAST β」などを開発・提供しているのですが、同社の人事評価に「強さ優しさレビュー」というユニークな項目を取り入れています。
〈AERA.dot / 2022年11月5日〉
強さとは「財務」、優しさとは「非財務」。
項目はCO2排出量や水の消費量、廃棄物排出量など環境的な要素に関連するものから、女性管理職率、独立取締役の数、取締役の年齢幅などダイバーシティーに関するものまで多岐にわたり、その数は700を超えているそうです。
CSO(チーフ・サステナビリティーズ・オフィサー)のカルソ玲美さんは
これまでの資本主義では、企業の価値は売り上げや収益力といった経済的な強さだけで判断されてきました。ところが、持続可能な社会は強さだけでは目指すことができません。強さに加えて環境や社会へのやさしさも持っている企業が選ばれる時代になっています。
と語っております。
人は誰もが「強くて優しい人」でありたいように、企業もそうであるべきというのが、カルソさんの考えです。
確かに「共創時代」と言われている中で、消費者や投資家から「応援したくなる」企業であるというのは大きなアドバンテージであると感じます。
そして、ステークホルダー経営を実現するにあたり欠かすことができないのが、「時間軸を長く取ること(長期的視点に立つ)」と「ステークホルダーへの概念を広くもつこと」という2点。
特に後者については、ステークホルダーの「その先」まで視線を伸ばすことができているかがカギとなります。
例えば、会社にとって直接的に繋がるステークホルダーは従業員になるのですが、その先の家族のことまで考えるということが大切ということです。
家族が「そんな会社、辞めちゃいなよ!」という会社で働き続けていても、きっとその人のモチベーションは上がることはありません。
逆に家族が誇りに思うような会社であれば、きっと従業員の「働きがい」はきっと高まるはずです。
「ギビング」がもたらすベネフィット
ステークホルダー経営の根幹にあるマインドとは、やはり「ギブする」ことにあると思います。
その本質を確かな考えとして後押ししてくれそうなのが、マネックスグループ社長・松本大さんのインタビュー記事です。
〈NIKKEIリスキリング / 2022年9月29日〉
「ギブする」ことが成長への道開く
そのことを説いてくださっている記事なのですが、元ソニー社長の出井伸之さんも本当にGiving(ギビング)な人だったそうです。
松本さんのGivingな人の定義は、「与える」というよりも、自分の持っているものを惜しみなく提供する、差し出す人である。
そして、ギブする人のベネフィットをこのように表現されています。
よく「ギブアンドテイクだ」なんて言いますし、たまにテイク専門のテイカーもいますが、私はテイクばかりしていると、自分の中がパンパンになって、何か新しいことを取り込もうにも、そのスペースがなくなっちゃうと思うんです。ギブするからこそ自分の袋に余裕ができて、新しいものを入れることができる。呼吸と同じだと思います。ちゃんと息を吐かないと次の息って吸えないじゃないですか。ちゃんと吐いたほうが酸素は入ってくるんです。
「自分の袋に余裕をつくる」という表現に心惹かれます。
私は「他者貢献」という美しい心ではありませんでしたが、「自分のために」自分が得てきたノウハウや人脈は同僚や後輩に提供してきました。
それは、ノウハウや人脈を自分だけに留めてしまうと、それ以上自分が成長できないような気がするからです。
それに、組織で財を共有し合ったほうが会社全体の成長に繋がる。
周りが成長すれば、その分、また自分も成長したくなるという良い循環を生みたいと思っているのです。
結局のところ「ギブ」は突き詰めれば、人、会社、社会が豊かになることで、繋がっている自分も豊かになる。
それに、経営を司る人間としては、社員や家族が自社に誇り(愛情)を持ってくれるほど嬉しいものはないと感じています。
ということを、ブレずに持ち続けていくためにも、今後も好事例に触れ合いながら、ステークホルダー経営を追究していきたいと思います。
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