転職市場の新常識
column vol.540
ジョブ型雇用や、カンパニー制度など、ここ最近、雇用の在り方に大きな変化が生まれていますが、リクルートでも新しい傾向が次々と見られます。
本日は時代を表す新しい採用の形をご紹介したいと思います。
求む!「失敗人材」
まずは新卒採用からです。
ソニーグループが2021年秋に初めて起業家向けのインターンシップ(就業体験)を実施。
技術系人材では機械・電気系以外の専攻の学生にも積極的にアプローチをかけました。
〈NIKKEI STYLE / 2022年1月13日〉
ソニーの経営層の間では最近よく「深化と探索」という言葉が使われるそうです。
つまり「新しいことをやって失敗しましょう」ということが会社全体のメッセージとして提示されているのです。
「アントレプレナーシップ(起業家精神)」。
そういったマインドを持った人材を求めながらも、実際はそういう人を採用できていない。
そこで、起業したことがあったり、起業を試みたりした学生に絞り、14名を受け入れて実施したそうです。
確かに起業に挑戦して失敗した経験はこの予測不能な世において大きな意味を持ちます。
それは、アルバイトに専念していた学生だけではなく、私のような会社勤めしかしてこなかった社会人にもない貴重な経験値と言えます。
そんな起業家精神を持った学生にソニーの新規事業支援プログラム「ソニー・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(SSAP)」の方法論を5日間のプログラムの中で落とし込んでいく。
そして、学生は自分の想いを新規事業の立案に込めながら、最終日に発表するのです。
もちろん、起業家精神を持った学生たちですから、自分の会社を起こしたい人もいるでしょう。
そいった場合は業務委託など、両者が納得できる落とし所を柔軟に検討するそうです。
ステレオタイプの新卒採用とは一線を画す取り組みに同グループのチャレンジ精神を感じます。
この背景には、技術人材の激しいグローバル競争があります。
ひとたび世界に目を向ければ、給与水準が圧倒的に違うわけです。
特にAIの領域では初任給で年収2千万~3千万円というのは、普通にあります。
日本の企業側にも柔軟性が求められつつ、会社の魅力を築き、どう伝えていくのか?
その辺を今後クリアしていくことが重要となるでしょう。
「転職35歳限界説」は今は昔?
30代後半から50代のいわゆる「ミドル世代」の転職市場が活気づいています。
2021年上期時点での36歳以上の転職決定数は、13年と比較しておよそ2.8倍にまでなっているのです。
〈NIKKEI STYLE / 2022年1月16日〉
ミドル世代が求められる理由の一つが、就職氷河期世代であることが影響しています。
マネジメントを任せたい年代であるにもかかわらず、企業内の人材層が薄く、適材がいないことから、外部登用が進んでいるわけです。
また、企業の置かれる競争環境の激化も理由の1つです。
若手人材の育成はどうしても時間と教育コストがかかり、企業にとっては大きな負担となります…。
特にコロナ禍のリモートワークが拍車をかけているもあります…。
新規事業の立ち上げ、既存事業の転換、非IT(情報技術)系企業のデジタル推進など、急激な変化への対応は人材育成だけでは不可能と言えます…。
ちなみに、21年の求人数について職種別で言えば、「IT・インターネット・ゲーム」が前年比で127%、「コンサルティング」が125%、「物流・運輸」が122%、「建設・不動産」が118%と、それぞれ大きく伸ばしています。
もちろん、転職できる人材と苦戦する人材はありまして…、前者になるためには2つのポイントがあります。
一つ目は「リーダー力」です。
マネジメントによってメンバーのパフォーマンスを最大化できる人材です。
もう一つは「高い専門性」です。
つまり、スペシャリスト。専門的スキルに加え、特定の業種や顧客層に精通していることも強みになります。
やはり、他の方とは違う「売りポイント」は当然必須になります。
私は転職するしないに限らず、ミドル世代は今一度自分のキャリアを棚卸しした方が良いと感じます。
自分がもっている「特別」は何なのか?それをどう活かしていくことが良いのか?
しかし、我々世代は仕事に育児に時間がない人が多い。
だから、多くの人が宝の持ち腐れ状態になってしまっていると感じます。
ミドル世代のカギは「時創」ことにあるでしょう。
後は、もちろんデジタルリテラシーの向上はあるにしても、大切なのは革新を楽しめるマインドにあると言えます。
社会全体でイノベーションが叫ばれる中、自分自身を革新していけるパーソナリティーは必須となります。
他責傾向が強い人材は好まれず、柔軟で成長意欲の高い人にスポットライトが当たっていくことになるでしょう。
目指すは「終身信頼」
最後は、ちょくちょく紹介している「アルムナイ」の事例です。
ちなみにアルムナイは「卒業生」という意味で、労働市場においては「退職者」を指します。
パーソル総合研究所の一昨年の発表によると、何らかの形で退職者の出戻り制度を設ける企業は約9%。従業員規模5千人以上の大企業では約20%にものぼるそうです。
〈AERA.dot / 2022年1月12日〉
アルムナイ特化型クラウドサービス「オフィシャル・アルムナイ」を運営するハッカズーク代表取締役の鈴木仁志さんによると、同サービスを利用する会社は20年以降の1年で約3倍となったそうです。
同社では優れたアルムナイ施策を行う企業を表彰する「ジャパン・アルムナイ・アワード」を昨年初めて開催したのですが、準グランプリに輝いたのが大手製薬会社の中外製薬のお話に大変共感しました。
中外製薬では契約社員での再雇用は以前からあったようですが、20年からは正社員での再雇用に変更。
積極的にアルムナイを取り込もうとネットワークを構築し、記事やSNS上で情報を発信したり、人事部長と退職者との交流イベントを開いたりと取り組みを重ね、昨年12月時点で登録者は約140人になったそうです。
当ネットワークでは再雇用だけを目的とせず、自社を知るからこそ客観的な意見をもらったりと、仲間としてお互いを刺激し合う関係づくりを行っているのです。
この意味合いを同アワードの審査員賞を獲得したベネッセコーポレーションの佐藤徳紀さんが秀逸に表しています。
「目指すのは、会社と退職者の『終身信頼』関係。ベネッセの事業は、OB・OGとの協業の上に成り立つものも少なくない。退職者をパートナーや協力者ととらえる視点を大切にしたい」
これからは終身雇用ではなく『終身信頼』。
退職した社員をネガティブに見るのは時代遅れということですね。
さまざまな想いで退職する人たちを尊重し、その後も大切な仲間としての関係を続けていく。
いつか戻ってくるかもしれませんし、別のカタチで助けてもらう可能性もあります。
副業が浸透する世の中にあって、正社員ではなくても副業人材としてまた一緒に歩む日々がやってくるかもしれません。
企業にとって最大の財産は人にあります。
大切な仲間を内外問わずどれだけ組織として内包できるのか。
ミッション・パーパスが改めて大事だとリクルートの観点からも気づかされますし、冒頭のソニーの事例でも触れた「企業の魅力をどれだけ築き、伝えられるか」が重要であると感じますね。
私も経営を司る者として、「退職者がまた入りたい」「繋がりたい」、そう思える企業と自分を築いていきたいと思います。
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