Prisonからのイノベーション
column vol.1110
固形洗濯石鹸「ブルースティック」をご存知でしょうか?
某フリマサイトでは3本入りで定価400円ながら、1200円の高値で転売されているそうです。
実はこちらの商品は、神奈川県の横須賀刑務所で製造されているもの。
〈ABEMA TIMES / 2023年9月7日〉
実は、最近「刑務所」発の新しい風が吹いているのです。
ということで、本日はブルースティックを皮切りに、「Prisonからのイノベーション」と題して事例をご紹介したいと思います。
プロではないからの柔軟な発想
改めてブルースティックのインパクトをお話ししますと、刑務所の受刑者たちがつくった製品の専門店「キャピックショップ中野」では、同商品が売上全国ナンバーワン。
昨年は年間約4万9000本も販売したそうです。
あまりの人気で、公式オンラインショップでは全て品切れ。
店頭では1家族6組までと制限されています。
この固形洗濯石鹸の特長は「とにかく汚れが落ちること」。
加えて、握りやすい形状であり、ほどよい柔らかさ・硬さで「サッサッって塗れる」ところもポイントとのこと。
石けん・洗剤を40年研究する、横浜国立大学の大矢勝名誉教授も
と太鼓判を押しています。
その驚きの洗浄力の秘訣は、石鹸に入っている成分と合成洗剤の成分が組み合わされていること。
石鹸の会社と、合成洗剤の会社はライバル関係にあり、この2つの成分を組み合わせるという発想がないのです。
一方、どちらにも与しない横須賀刑務所だからこそ、この柔軟なコラボが実現したというわけです。
まさに、今回のお題を体現している商品なのではないでしょうか。
受刑者がつくった逸品が揃う「矯正展」
受刑者が生み出した逸品はブルースティックだけではありません。
こうした商品が集まるお披露目の場に「矯正展」というものがあります。
富山ではコロナでしばらく実施されていませんでしたが、ついに4年ぶりに復活。
会場では全国の刑務所の受刑者が社会復帰に必要な職業技術や知識を身につけるためにつくったタンスやかばんなど約400種類3600点が展示、販売されました。
〈NHK NEWS WEB / 2023年9月9日〉
注目されたのが、地元富山刑務所の受刑者約10人で製作した高さが1m30cm、重さ65kgの「みこし」。
丁寧に色が施されており、出来栄えは素晴らしいと評価を受けているとのこと。
また、木製のティッシュボックスはなめらかな手触りに仕上げられていて訪れた人たちの人気を集めていたそうです。
矯正展は長崎でも今年初めて開催されました。
〈テレビ長崎 / 2023年9月16日〉
こちらには、全国の刑務所や少年鑑別所など40施設でつくられた900点の製品が並びました。
ちなみに施設職員によるコーナーもあるそうで、個人的には少年鑑別所で入所者の心のケアにあたる職員による性格診断というのが気になりました。
…と、私の話は置いておいて、受刑者によるこだわりの逸品が社会復帰の架け橋となる。
価値の見える化は大切なことですね。
日本初「元監獄」の高級ホテル
最後は人ではなく「建物」にスポットライトを当てたいと思います。
星野リゾートが、奈良市にある国の重要文化財「旧奈良監獄」をホテルとして再活用することが発表されました。
〈毎日新聞 / 2023年9月14日〉
イギリスのマルメゾン・オックスフォード・キャッスルや、スウェーデンのラングホルメン・ホテルなど、世界には刑務所を再活用したホテルはありますが、日本では初めてのこと。
2026年春に「星のや」を冠して高級ホテルとしてオープンするのです。
同ホテルでは、所有権を国に残したまま運営権を民間に売却する「コンセッション方式」を採用。
客室数は48室で、複数の独居房をまとめて一つの部屋に改修するそうです。
そして、敷地内ではレストランや旧奈良監獄の歴史を伝えるミュージアムの整備も検討されているとのこと。
どんなホテルになるのが注目が集まっています。
ちなみに、「建物」ということでいえば、2年前の【「転じる」明日】という記事で、デンマークの刑務所を住宅街へ転用し、活かす都市計画についてご紹介させていただきました。
アメリカのアルカトラズ島は観光資源になっていますし、使われなくなった刑務所が「新しい価値」の創造に寄与する事例は多彩になっています。
〜ということで、本日はさまざまなPrisonからのイノベーションを見ていただきました。
受刑者の逸品については、社会復帰の受け皿の広がりについて、今度はリサーチしていきたいと思います。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
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