部下との議論は「論破」ではなく「説得」
column vol.655
「論破してはいけない」
「論破王」のひろゆきさんは、そのような考え方を持っていらっしゃいます。
〈東洋経済オンライン / 2022年5月10日〉
『論破力』という本も出されていますが、実はこの本では「論破しろ」とは一言も書かれていないのです。
本のタイトルは、編集者さんがつけたそうで
出版社は1冊でも多くの本を売りたいわけで、そのノウハウは僕よりも出版社にある。だから、そういう人がタイトルをつけた方が良いのです。
とその方を尊重し、自分の意図とは異なっていたのですが、論破しなかったようです。
実は、ひろゆきさんが心がけているのは論破ではなく「説得」。
その違いが奥深いのです。
「論破」せず、「説得」する
私も副社長として、時に社員から方針や施策について意見を言われることもあります。
その時はよくよく「説得」します。
なぜなら会社の方針や意見は「最適解」で決めているからです。
恐らく、ここまでで不可解に思う方もいらっしゃると思いますので、まずは説得の意味を明らかにしたいと思います。
【説得】
よく話して得心させること。 納得するように説き諭すこと。
説得というと「言いくるめられる」という印象を持たれがちですが、実は相手が「納得する」まで丁寧に話すということです。
「納得」が重要ということになります。
一方、論破は「議論して相手の説を破ること。言い負かすこと。」という意味を持ちます。
そう、「勝つ」ことが重要ということですね。
ひろゆきさんの考えに非常に共感するのは、勝っても恨みしか買わないということです。
そして、その社員のモチベーションを下げてしまうことになります。
それは決して会社にとって得ではない。だからこそ納得という「得」が生まれる「説得」を重視するのです。
そもそも会社の方針や施策は、私一人で決めるわけではありません。日頃からさまざまな意見を聞き、立案し、合議して決めます。
つまり、「最適解」です。
まずは、その社員にはない視点を理解してもらうように話すことが先決です。
やはり、人それぞれ。人の数ほど「正義」がある。まずは多様な正義に触れてもらいます。
そして同時に、誰もが賛成する方針や施策はなかなか難しいということも知ってもらう必要があります。
もちろん、その上でその社員の意見も取り入れられる部分は取り入れていく。ただし、いろいろな人の意見を聞く度に、ころころ方針と施策が変わっていくと、船は前に進みません。
船を進めながら、航路を最適化する。状況に応じて、意見を反映するタイミングも見定めていく。
そういうことも含め納得するまで話し合うことが重要であるのです。
そこに「愛」はあるか
説得する上で一番大切なのが「愛」です。
いや…、それだと…ちょっと重いので「リスペクト」ですね。
やはり社員あっての経営ですし、一人ひとりが前向きに仕事できることが成果が生み出す最大の要因になります。
だからこそ、それぞれの社員の良いところを常に頭に巡らせておくことが肝要です。
当然、感情的に意見をぶつけられることもあります。
しかし、その感情に反応してこちらも感情的に言うと論破に繋がります。
それでは、遺恨しか残りません。
とはいえ、分かっちゃいるけど難しい…。私も当然カチンとくることは多々あります。
しかし、議論をしているうちに「この話し合いの行き着く先」を考えます。
自分は「ただ言い負かしたいだけになっていないか?」と頭の中で確認する。
同時にどのような状態でこの話し合いが終わるとがお互いにとって、会社にとって有益なのかを考えるとスッと冷静になります。
面白いもので、感情は反応し合います。
私が冷静になると相手もトーンダウンします。そこが人間の面白いところです。
そして、すかさずその人の良さ、日頃の感謝を頭に浮かべると、自分の言葉が変わってきます。すると、面白いもので相手の言葉も和らいでいく。
瀬戸内寂聴さんも
人を育てるのも、良い面をつとめて取り上げて褒めてやれば、子どもも、修業途上の未熟な職人や芸術家も、自分の才能に自信を持ち、その時、必ず自分でも気づかない才能の成長が見られるだろう。
と語っておられます。
〈東洋経済オンライン / 2022年5月13日〉
そして、誰もが生まれながらに持った「誇り」を傷つけない。
東洋経済オンラインの記事の中で、寂聴さんは肯定する大切さを書き綴っていらっしゃいました。
ということで、私が言うのはおこがましいのですが、上司は常に部下を褒める(肯定する)姿勢が大切で、それが普段の信頼関係を構築するだけではなく、いざ衝突した時も「説得」を続けられる心をつくるのだと思います。
「最適解」を間違えたら
一方、自分自身も最適解を上手に導き出せていないこともあります…(汗)
要するに私の思い込みで決めてしまっている場合もあるということです。
その時は、潔く非を認めることが大切ですね。
最近、MLB(メジャーリーグベースボール)の審判が、退場処分にした選手に異例の謝罪をしたことが話題になりました。
〈dmenuニュース / 2022年5月7日〉
日本のプロ野球でも審判が謝罪するということは異例のこと。
このことにさまざまな議論が巻き起こりましたが、私はダン・ベリーノ審判の次の言葉に非常に好感を持ちました。
「15年前にMLBでの審判キャリアを始めました。その時にさまざまな助言を受けて、『自分の子どもが最前列で観戦していると思って全試合をジャッジしなさい』と言われたこともありました。しかし、今週それを果たすことができなかった。起きてしまったことを変えることはできません。全責任を負います。この出来事から学び、心からの謝罪をしたい」
自分の仕事に対して、「自分の子どもが見ていたらどう思うか」という視点を持つということはなかなかできません。
組織のトップに向かえば向かうほど自分を律する思考術(客観力)が必要なる。
ベリーノさんの言葉は、非常に勉強になります。
今後も「最適解」を目指して成長していきたいと思います。
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