地方創生に導く「サークル志向」
column vol.678
本日、横浜は大雨。
特に出勤(外出)の必要がない時は、こういう日はリモートワークにする。
今では当たり前の選択ですが、つい2年半前なら考えられない光景です。
コロナの影響によって「どこでも働ける世の中」が急進しましたが、その始まりの2020年、ある企業の驚くべき決断が話題になりました。
それが、パソナが行った兵庫県・淡路島への「本社機能の一部移転」です。
当時、誠に勝手ながら、自分が移転する社員だったらと、頭の中で何度もシミュレーションしたものです。
あれから2年。
現状を伝える記事があったので共有いたします。
〈現代ビジネス / 2022年6月1日〉
淡路島への移転は何を生み出したか?
この計画の発表があったのは2020年9月。
その1ヵ月後から淡路島への移転が始まり、2021年12月時点で、東京の本社で働く約1800人のうち約350人が移住。
転勤については、社員本人の意向を尊重し、基本的には希望した人だけが移り住んでいます。
現在、淡路島には6ヵ所のオフィスがあり、そのほとんどが島の北部に位置する淡路市に点在。
社員が異口同音に語るのが、「家族時間の増加」。
東京の住居は値段が高く、通勤に1〜2時間かかることはザラですが、淡路島の暮らしは職住近接が叶いやすい。
その上、同社ではマンションを複数借り上げ社宅として利用。
中には1階に託児施設のあるマンションもあり、2歳から小学4年生までの約40人の社員の子供たちを預かっているそうです。
ちなみに、子供を受け入れる時間は朝9時から夜7時まで。
希望者には食事も出すうえ、施設内では塾、空手、バレエ、ブレイクダンス、アート、レゴ、英語といった習い事まで用意されているとのこと。
しかも、働く社員だけではなく地元の方々へのケアも欠かしておりません。
淡路島の北部を中心に、アトラクション施設やレストランなど、観光客誘致や地元の活性化を目指した15の施設をつくり、島内に住む地元の人たちにも雇用の場を提供しているのです。
移住は諸刃の剣であり、地域が活性する反面、地元の方々との調和に心を配らないといけません。
移住者と地元民をシームレスにし、一つの「輪」をつくっていく。
その努力が感じられますね。
「越境体験」で都市部と地方の相互理解を促進
そして、人材採用についても移転することによる大きなメリットがあったとのこと。
同社代表の南部靖之さんはこのように語ります。
実は東京で得られない人材が淡路島で得られるんですよ。東京ではAIだとかITの人材はなかなか得られない。本当に難しい。ここだとびっくりするような人材が集まるんです。神戸、大阪のパナソニック、シャープ、サンヨーとかに居たトップレベルのエンジニアが戻って来たいと。凄い数ですよ。
「地元愛」を持った人が大企業の移転を聞きつけ、Uターンする。
地元を知り、都市部での生活も知る。
こういった社員は、地元民と移転組の間を取り持つだけではなく、まだ都市部にいて今後採用できる可能性のある「潜在人材」を惹きつけるためのアイデアを持っているはずです。
別の記事になるのですが、日経ビジネスの【ワーケーション先として選ばれる地方自治体になる処方箋】という記事の中に「越境体験」という言葉と出会いました。
〈日経ビジネス / 2022年5月30日〉
ワーケーションの経済効果は25年に3622億円規模にまで拡大すると予測。
関係人口を増やすことに注力する地域もあるかと思いますが、この記事では地方の方が都市部での暮らし、働き方を知るための「越境体験」が大切だと指摘しています。
確かに、地方、都市部では違う部分もあり、ワーケーションをする上で何を期待し、何が障壁になるかを把握すると大きく前進できるはずです。
そして、今後は地方と都市部を「I(ターン)」、「U(ターン)」ではなく、「サークル(循環型)」で考えることが良いと総括しています。
それを受けて思うのは、もしかしたらパソナのUターン人材に対しても、都市部との行き来はあっても良いのかもしれません。
私の知り合いでもUターン人材はいますが、やはり「都市部が恋しくなることはある」とよく耳にします。
ワーケーションがスタンダードになりつつある今、確かに「サークル型」がこれからの時代の形になっていくかもしれませんね。
「地元愛」をどう高められるか?
こういった循環ができれば、当然、関係人口も自ずと増えるわけで、東京と淡路島という2つの側面を持つパソナは新しい「サークル型ワークスタイル」を築いていくかもしれませんね。
最後に、今は都市部で生活しているものの、いつかは地元に戻りたい、関係を持ちたいと思ってもらえるようなヒントを感じた記事があったので、そちらを共有させていただきます。
〈Forbes JAPAN / 2022年6月1日〉
若者の多くが都会へと移住し、戻ってこない地域では、街を栄えさせるのに必要な人材が不足してしまいます。
そこで、米アイオワ州立大学の研究チームは、この傾向を逆転させ、人材を地元に呼び戻す方法を模索するべく、調査を実施。
調査では、自分が通った地方の学校に強い愛着がある人は、地元に戻る可能性が高いという結果に。
愛着に繋がるのが、学校のコミュニティーとの関わりや教師との絆とのこと。
学校の規模も重要で、児童・生徒数が350人を超える学校では、125人以下の学校よりも卒業生が地元に戻る確率がかなり低かったそうです。
また、参加者を7~12学年(中学~高校に相当)在籍時から34~43歳になるまで5回にわたり調査したのですが、大卒者のうち、最終調査までに地元に戻っていた人は23%余りで、学校への愛着の強さが1単位上がるごとに地元に戻る確率が約66%も増えたそうです。
この調査結果により、都市に流出した人を呼び戻したり、若者の帰属意識を強めたりするために地元の学校に投資することの重要性が浮き彫りになりました。
キーワードは「学校投資」。
ちなみに今、私がコンサルしている京都の新ホテルは、廃校になった小学校跡地に建設されているのですが、その面影をいくつか残すことで、地元の人々のウェルカム感や協力体制が全然違っています。
「地方の学校」というと現在厳しい状況だとは思いますが、実はここに地域創生の鉱脈が眠っている。
その原石を地元愛で研磨してお宝に変えられるかということも、重要な視点になりそうですね。
パソナが移転し、町が変わる中、そこで育っていく子供たちがどんな大人に育っていくのか?
そんなことも見守っていきたいパソナ移転の現在地でした。
====================================
★会社でもメンバーと一緒に「仕事紹介note」をやっております!
〈最新記事〉毎週金曜日に配信します!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?