顧客の支持を高める「ナラティブ」力
column vol.461
以前、これからの企業経営で非常に重要なキーワードとして「ナラティブ」を紹介させていただきました。
大袈裟に言えば、ナラティブを理解するか否かで企業の成否が決まると言っても過言ではなくなっていると感じます。
「ナラティブ」とは物語的な共創構造を意味し、企業視点のストーリーとは似て非なるものだと言われています。
ちなみに「ナレーター」という言葉はナラティブという言葉から広がったものと言われています。
このキーワードについて、ニューズウィークの記事が非常によく分かりやすかったので共有させていただきます。
〈Newsweek / 2021年10月19日〉
求められる「共体験」の価値
ナラティブをもう少しだけ語ると、ストーリーには起承転結という言葉のように「終わり」があるのに対し、ナラティブは常に現在進行形で未来を含みます。
ストーリーはその企業が属する業界を舞台にすることが多いのに対し、ナラティブは社会全体を舞台とします。
これは、今までのような企業と顧客という線ではなく、社会という面の中で生活者を主人公とし、企業がストーリーテーラーとして共創関係として存在する。
つまり、社会を舞台のように見立てた物語型消費構造に生まれ変わっているのです。
例えば、ニューズウィークの記事の中にある“手間抜き”料理の事例がそうです。
冷凍食品は「手抜き料理」とイメージを持たれることに対して、そうではなく「手間抜き料理」だと位置付ける。
「手抜き」だと罪悪感がこみ上げてきますが、「手間を抜くこと」で時間が生まれ、子どもに向き合うなど有意義なことに使える。
この物語を企業が提示することで、時間のない親が家事を短縮し、子どもにとってより価値のある時間を過ごすという価値観が肯定され、その物語に参加したいと思う生活者の求心力となります。
案の定、この「手間抜き料理」は大いにバズりました。
生活者と企業でつくる共作の物語
「共感消費」に近いのですが、企業の商品、アクションということを超えて、「こういう社会だったら良いよね」と、二者で共創の物語をつくるイメージとなります。
このナラティブのもう1つのミソが多様なステークホルダーを巻き込むことです。
株主、地域、国、取引先、そして、自社で働く社員です。
当然、手間抜きを提案した味の素冷凍食品にも子育て中の社員がいるわけで、この生活者への提案に対して、共感する内部の人間は多く生まれています。
そこに共感の物語があることで仕事が私事になる。
物語をより豊かな話にするために自ら働きかける社員も出てくるのです。
「手間抜き」投稿はTwitterで約44万いいね!が付いたそうですが、この投稿を手掛けたのは企業やブランドの「存在意義」、つまりパーパスを理解している社員だったそうです。
ご自身も二児の母親で、「自分ごと」として本音を語る部分があったのでしょう。
社員を巻き込むナラティブをつくるためには、自社利益だけを考えたものではダメで、社会的意義のあるものまで昇華させることが重要となるでしょう。
マーケティング4.0時代の共創消費
こういった考え方は、マーケティング4.0時代にとって重要な考え方になります。
その前にマーケティング4.0までの流れを見ていきましょう。
マーケティング1.0 … 機能的価値(品質の良さ)
マーケティング2.0 … 差異的価値(他との差別化)
マーケティング3.0 … 参加価値(共感)
マーケティング4.0 … 共創価値
より良い社会を実現するために企業が物語を紡ぐ。それに共感し、その物語を共創しようと生活者がその物語の世界に入り込む。
パタゴニアは地球の未来を守るため、環境問題に真っ向から取り組んでいますが、持続可能な社会を実現するために企業と生活者が同志に変わる。
つまり、時代は共感消費から「共創消費」に移っているというわけです。
昨年、BLM運動から派生した「バイコット運動」もまさにそれです。
BLM運動を支持する企業に対して、「買い物は投票だ」とその企業の商品を購入することで支持を表明する。
このムーブメントはSNSでも「#blackowned」「#BuyBlack」というハッシュタグが拡散され、アメリカの消費者運動が世界に飛び火した事例として強烈なインパクトを与えました。
これからの時代は、どんな社会を創造するかという大局的な視点が必要になってきます。
経営者は宇宙規模で商業とそこから紡ぎ出される物語を考えていく。
マスマーケティングが終焉を迎えたと言われている昨今において、大きな支持を集めるためには、ナラティブが重要なのです。
少し大仰な話になってしまいましたが、社会を舞台にした共創の物語を創造するという考え方はますます求められる時代になっていくでしょう。
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