「個客」主義の小売戦略
column vol.479
昨日は小売業協会の「生活者の新ライフスタイルを考えるフォーラム」に行って参りました。
〈小売業協会Webサイト〉
もともと小売業協会では、いくつかの分科会に分かれていて、その内の1つに生活者動向を研究する「生活者委員会」というものがあります。
そちらのコーディネーターを当社代表の谷口が務めている関係もあり、今回の生活者フォーラムの企画に私も参画していました。
今、小売業は本当に過渡期です。
リアル店舗はDXが急務と言われておりますが、私はそれ以上に「リアルの良さ」を追求することが重要だと考えております。
リアルの良さということでキーワードの1つとなるのが「個客化」でしょう。要は「あなただけ」といかにお客さまに感じてもらえるかが肝となります。
百貨店の雄が進める「個客」戦略
「個客」に力を注いでいる代表格の一社が三越伊勢丹ホールディングスではないでしょうか。
今月10日のオンライン会見で細谷敏幸社長が「百貨店を科学する」とともに繰り返した中計のキーワードが「顧客を貯める」でした。
〈WWD JAPAN / 2021年11月10日〉
ちなみに「百貨店を科学する」とは主に収支構造改革を指します。
百貨店事業の売り場の収益を細かく分析した上で、従業員を配置。マーケティング投資ついても顧客分類の収益に基づき予算を最適化します。
それにより、強化分野とする不動産や金融など他の事業に人員を振り分けようとしているのです。
そして、「顧客を貯める」とはMIカードをはじめとした認識顧客を増やすこと。デジタルツールを活用して、店舗を離れても親密なコミュニケーションがとれるようにします。
つまりは、DXを推進するのは、より深く的確なコミニュケーションを実現するためです。
DXを小売の本質とも言える接客に活かす。三越伊勢丹らしい新たな取り組みです。
“脱百貨店”を目指すナビゲーターサービス
イノベーションを図る百貨店は三越伊勢丹だけではなく、他のお店も新しい一手を打っています。
〈ITmediaビジネス / 2021年11月14日〉
今回注目したのが阪神梅田本店です。
2期棟をオープンしたのですが、10フロアのうち4フロアを食品売り場や飲食店などが占め、同店OMO販売推進部ディビジョンマネージャーの鈴木健三さんは
「ニッチなスモールマス市場に対して熱量の高い人たちにとっての聖地になりたい」
と狙いを語ります。
そのために導入したのが、100人の「ナビゲーター」の存在。売り場の最前線に立ち、最終的にファンコミュニティーをつくる旗振り役として顧客と友達のような関係性を築く役割を担います。
例えば、おやつナビゲーターの腰前和宣さんは、SNSで顧客と接点を持ち、食べる楽しみだけでなく、作る楽しみも分かち合うことを意識して発信。
工場見学でおやつ作りの裏側を学んでインスタグラムに投稿し、洋菓子店とのコラボ商品まで開発しているのです。
他にも、パンナビゲーターやみそ汁ナビゲーター、エシカルナビゲーター、コスメナビゲーターなどもいらっしゃるようで、社員が一人一人のお客さまに商品の価値と想いを伝え、長期的な関係性を築いていくことを目指しています。
やはり「接客力」がモノを言う
スペシャルなナビゲーターだけではなく、一人一人の店舗スタッフの接客力がますます重要になってきます。
三越伊勢丹のビジネスソリューション事業部の滝沢勝則さんは、ホスピタリティの高い店員さんの接客は8合目ぐらいからスタートしていると語ります。
〈logmiBiz / 2021年10月8日〉
つまり、接客する前から対象のお客さまをよく観察しているというわけです。
「あそこで何か手に取った」「ここでもまたバックに触った」「ここで小さいバックに触ったぞ」と情報を集めているうちに、「旅行に行くのでは」と仮説をたて、そしてすかさず「お客さま、ご旅行ですか?」と話しかける。
つまり、しっかりと観察し、分析し、お客さまのニーズを想像することで、情報量としては8合目ぐらいまで積み上がった状態で対話ができるのです。
さらには、京都の伊勢丹の店員さんがエスカレーターを降りてくるお客さまの様子を見て、その方がお土産を買った際、晴れているのに雨用のビニールを袋をかけたそうです。
驚くお客さまに仰った一言。
「東京は雨ですよ」
エスカレーターで左に立つお客さまを東京の方と予測し、そのような気遣いをされたそうです。
こういった人と人の小さな感動を生み出すことが接客業の本質なのではないでしょうか。もちろん、革新も大切ですが、小売の原点に立ち返ることも大切ですね。
非常に刺激を受けた、今回の事例記事でした。
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