「再生する」テレビの未来
column vol.642
本日も横浜は、雨…。
GW序盤は天気に足止めされています。
雨の過ごし方と言えば、テレビをのんびりと見続ける。そんな人も多いかと思います。
いや、それは我々中高年世代だけなのか…?
若者のテレビ離れが進んでいること周知の通りです。
一方、そこに割って入っていこうとするテレビ業界の方々の熱き動きも見られます。
今日はテレビの再生劇と、そこから見えてくるこれからの時代のコンテンツづくりに目を向けたいと思います。
スマホでの「リアルタイム視聴」スタート
皆さん、「ワンセグ」を覚えていますか?
若い方は知らないかもしれませんね。
ワンセグとは地上デジタル放送で行われる、携帯電話などに向けたテレビ放送サービス。
始まりは2006年4月でした。
ガラケー時代には欠かせない機能で、私もスポーツの重要な試合がある時は、外出先でよくワンセグ観戦をしておりました。
しかし、ワンセグでNHKも視聴できるため、この場合の受信料はどうなんだ?問題など、さまざまな要因があり、ワンセグ文化は衰退。
今ではその存在すら忘れていましたが、前月11日に民放10局が地上波で放送するテレビ番組をネットで同時配信する「地上波リアルタイム配信」を解禁しました。
〈ITmediaビジネスオンライン / 2022年4月29日〉
スマートフォン向けアプリ「TVer」を使うと、ゴールデン・プライムタイムを中心に放送されているテレビ番組を、地上波と同時にリアルタイム配信で見ることができます。
テレビ局としては「見る利便性」を高めることで、若者層を取り込みたいところ。
少し古いデータなのですが、総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」において、15年11月に公開された電通総研の資料では、通信回線を使ってテレビ番組をスマートフォンやタブレットで視聴できるようになったら利用するかという質問に対し、若年層ほど高い利用意向が見られました。
若者もネット配信されるテレビ番組ならスマホで積極的に見る可能性があるという期待も高まります。
もちろん、視聴を増やすためにはさまざまな壁が存在しています。
倍速視聴をどう克服するか?
今、YouTubeやNetflix、Amazonプライムなどなど、視聴コンテンツは星の数ほど存在しています。
視聴時間の奪い合いは何年激化しており、まず「観よう」と選択されるまでに熾烈な競争があり、さらには選ばれたとしても、時短で観ようと倍速視聴される可能性が高いのです。
〈現代ビジネス / 2022年4月25日〉
これは若い世代だけではありません。
Netflixの話題のドラマなどは、この倍速視聴率は高いはずです。
生活者(消費者)のニーズが細分化する中で、「全裸監督」や「イカゲーム」など、世の中的なヒットは押さえておきたい。
話が周りと合うように倍速(時には早送り)で流し見をし、何となく話の筋だけ把握しておく。
これはYouTubeでも同じです。
バズった動画を飛ばし飛ばしで見る人は多いでしょう。
つまり、人気のコンテンツと言えど、実はその作品の多くは「つまみ見」されている。
視聴数至上主義である今、作品のつくり方やプロモーションの仕掛け方など、テクニカルな努力が強まり、コンテンツの玉石混交が進んでしまう。
派手な見出しのネットニュースがトップページに表示されやすい状況と同じような課題が進んでしまっているわけです。
私たちマーケティング業界でも、例えばSNSの動画広告は最初の3秒が非常に大事なので、ストーリー性よりも、大事なことをいかに冒頭で印象づけるかが勝負になってしまっています。
視聴者に何かを残すというよりも、単に見てもらうための意識が業界問わず強まっていることは否めないところです…(汗)
今流行りのコンテンツとは?
もちろんドラマやアニメなどでも、じっくりと観てもらうためのさまざまな工夫は見られます。
例えば「結末先行型」がそうです。
最初にショッキングな事件が起こる。その謎解きに迫るという流れです。
また「伏線回収型」もそうでしょう。
『進撃の巨人』がその代表例ですが、作品が進むたびに過去の話との紐付きがあり、その作品への深い見方を押し進めていく。
もう一つ挙げるならば「視聴者議論型」です。
私が若い頃の代表作は『エヴァンゲリオン』であり、今では『鬼滅の刃』でもそのエッセンスを感じますが、明確な答えがなく、観る側の解釈次第でいろいろな答えが浮上する。
韓国アイドルグループ「BTS」も作品を通して、さまざまな推測をファンが楽しみ、ファン同士で答え合わせを行っている。
こういう仕掛けによりコンテンツを「つまみ見」されにくくなるということはあるでしょう。
そしてもう一つ押さえておきたいキーワードが「リアリティ」です。
YouTubeを一躍大衆化した原動力となったのが「やってみたシリーズ」でしょう。
そこに視聴者はリアリティを感じる。
Netflixでもドキュメンタリー系コンテンツが人気で、同社は積極的に世界から作品を手にしようとしています。
〈東洋経済オンライン / 2022年4月23日〉
ちなみに、海外では日本の『はじめてのおつかい』が人気のようで、確かにそもそも海外では小さな子ども一人を買い物に行かせることが危険な国・地域がありますので、そういった人たちからすれば、非常に新鮮に映るというのは想像ができます。
少しテクニカルな話が続きましたが、本質的に考えると、有料コンテンツであれば、やり方次第で視聴率史上主義から脱することもできます。
先日書いた【常識の「隙間」を射抜く】でご紹介した長尺動画のプラットフォーム「シラス」の成功はまさにそれを象徴しています。
高級スーパー「成城石井」は、仕入れ価格を一旦置いておき、まずは「その商品が本当に生活者にオススメするものか?」という基準で商品の取り扱いを考えているそうです。
これだけモノが溢れる世の中なので、他のスーパーと同じようなものを置いておいても意味がない。
その割り切り(覚悟)が成城石井のアイデンティティと差別化をつくり上げており、同じように有料コンテンツであれば「優良」を突き詰めることが、消費されないコンテンツづくりを形成していくのだろうと思います。
テレビの価値とは何なのか?
冒頭の話に戻って、では一体今後のテレビって何か正解なのだろう?と考えてみます。
今、YouTube(ユーチューバー)が広告収入だけでは難しいと読み、IPビジネスなどビジネスを複合的に展開している中、思えばテレビは元祖広告ビジネスモデルです。
一方、YouTubeよりも歴史は長く、公共性が高いと見られています。
タダで見られる上に、公共性が高い。
当然、番組のアンチにも見られる可能性は高いので、少しでも粗相があれば、厳しく指摘されることは常でしょうし、スポンサーの厳しい目が光っています。
まさに、がんじがらめであり、保守的になる気持ちもよく分かります。
一方、かつて読んだ大手映像制作会社「株式会社NEXTEP」の代表取締役社長の堤康一さんの次のお言葉に何かヒントがあるような気がします。
このテレビの「タダの価値」って、もう一度見直されても良いのではないかと思います。
特に今回の新型コロナで、テレビの「ライフライン」としての情報発信機能が、生活に欠かせないものであることを、改めて感じてもらえたのではないでしょうか。
もちろん人間がつくる番組であるがゆえの不完全さはあるもの、報道のプロフェッショナリティのカギとなるニュートラルな視点での報道というのはテレビの存在意義を語れる特長であるかもしれません。
また、お笑いにしても、音楽にしても何にしても、そこには「世の標準」を存在させようとしています。
当然、人それぞれの物差しがあることは前提ですが、それでも社会で上手く生きていくための最大公約数的な「常識」、「普通」を提示しているのがテレビだと言えます。
テレビのコンプライアンスを体現する演者たちの言動を見て、「あっ、今はこういう言葉使いは時代にそぐわないのかな」など、何となくの世の基準を知ることができます。
個の時代で、細分化されればされるほど、「普通」が分からなくなる。
自分だけの物差しを皆が持ちながらも、もう片方の手では「共用の物差し」は持っておきたい。
それが、社会性動物である人間には必要だと思うからです。
…という風に考えると、テレビは「普通」と言われながらも「普通」を突き詰めていくことが一つの答えになるのかもしれません。
普通を突き詰めれば「王道」になる。
答えのない時代で「普通」をつく上げていくことは至難の技であるからこそ、その価値と必要性は高められると言えるでしょう。
未だ厳しい風が吹き付けるテレビ業界ですが、起死回生の「再生」を期待する。
テレビっ子、…いや、テレビおじさんの私は、これからもテレビが愛されるメディアであって欲しいと、そう思っています。
ということで、この後はテレビでも見ながらのんびり過ごします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?