「D2C」の奥深さを知る
column vol.621
コロナ禍で注目される「D2C(Direct to Consumer)」。
ついつい「実店舗を持てない企業がECを使って売っているんでしょ?」と思われがちですが、実はもっと奥深い話なのです。
そのことを非常に分かりやすく解説している記事があったので共有させていただきます。
プレジデントオンラインの【店頭での存在感はゼロなのに…アマゾン限定の「謎の新興メーカー」が急増しているワケ】です。
〈PRESIDENT Online / 2022年4月8日〉
GROOVE代表 EC・D2Cコンサルタント・Amazon研究家の田中謙伍さんはこの記事の冒頭でこのようにお話しされています。
Amazonで「シャンプー」と検索してみてほしい。1ページ目には、普段ドラッグストアの棚で見かけるラインナップとかなり異なる商品が並ぶはずだ。GROOVE独自の市場調査では、Amazonにおけるシャンプーの売上構成はナショナルブランドをおさえ、D2Cブランドの売り上げが上位を占める結果となっている。
では、なぜD2Cブランドが上位を占めることができているのか?今日はそこにフォーカスしたいと思います。
D2Cの真髄は「直販」にない
D2Cとは「Direct to Consumer」の略なので、“消費者と直接つながる”という意味となり、「直販」という概念が先行しがちです。
しかし、要所は「顧客主義のモノづくりやコミュニケーション活動をする」ことにあります。
従来メーカーの課題は営業部とマーケティング部が分かれ、消費者までに卸/商社や小売店、また広告代理店やメディア媒体などが間に入ることで、顧客との距離が遠いこと。
田中さんは、従来メーカーの課題の背景を4つ挙げています。
(1)営業部とマーケティング部が分かれていて消費者へのコミュニケーションが一貫していない。
(2)消費者からの商品へのフィードバックが届きにくい、購買データの入手や活用がしづらい。
(3)価格決定権がメーカーになく、適正利益の確保やブランドコントロールが困難。
(4)目を向ける先が消費者ではなく、業務上の取引先になりがちである。
つまり、従来メーカーの提供する商品は顧客ニーズを掴みにくく、多くの企業が介在することで、さまざまな関係者の思惑が入り混じりやすい。
一方、D2Cメーカーは顧客と直接繋がり、介在する関係者の数が少なくなるので、カスタマーオリエンテッドの新しい価値を生み出しやすい構造を持っています。
(1)消費者とダイレクトかつ双方向につながったコミュニケーションで、企業の理念やブランドの価値観・世界観、製品が消費者にもたらすベネフィットを丁寧に伝えられる。
(2)顧客の購買行動をデータで把握してすぐに施策に反映することができ、購入した顧客の意見を直接吸い上げて商品企画や開発、業務プロセスの改善に繋げられる。
つまり、D2Cとは単に直販ということではなく、顧客と直接繋がったメリットを活かして顧客に真摯に向き合い、よりマーケットインのプロダクト設計をしていくことにあります。
その姿勢を体現しているブランドと言えば、やはり「Allbirds」でしょう。
「世界一快適なシューズ」と評価されていますが、まさにD2Cの持つ特長を最大限に発揮し、創業から3年でユニコーン企業(企業評価額が1100億円以上)となりました。
〈ITmedia ビジネスオンライン / 2022年3月29日〉
そして、日本の従来メーカーの中でD2C戦略で成功している企業もあるのです。
「従来メーカー」のD2C戦略の好事例
その企業とはアウトドア総合メーカーの「スノーピーク」です。
スノーピークは直営店舗を中心とした販売や、リアルイベントを通じた顧客とコミュニケーションなど、オフラインから始まったメーカーですが、今やD2Cビジネスの理想形とも言われています。
スノーピークと言えば、徹底した顧客主義。
顧客と直接繋がり、顧客の声を拾い上げ、不満解消や隠れたニーズ応えるために業務改革に取り組み、商品開発へと反映しています。
その結果、強いファンに支持されて顧客と世界観の共有ができ、大量生産の安価な商品ではなく、こだわりのある良質な商品を支持してくれる顧客の心を掴んでいるのです。
コロナ禍で実店舗の経営が厳しくなりましたが、オンライン接客や動画で商品説明や使い方などを配信するなど、オンラインでもオフラインと変わらない顧客主義の姿勢を展開し、2020年のEC売上高を前年比3倍にまで伸ばしています。
さらに驚くことに、これらを緊急事態宣言が発令されてから、わずか2週間で構築したそうです…(驚)
このスピード感は徹底した顧客主義が社内に浸透していたからこそ実現できたと言えますね。
スノーピークの事例を見るとD2Cの本質はあくまでも顧客に向き合ってビジネスをすることであって、デジタルはそれを補完したり便利にしたり強化するためのツールであることが分かります。
「直販」にこだわらない米コスメブランド
「D2C=直販」ではないということを表している好事例がアメリカのD2Cコスメブランドの「e.l.f. BEAUTY」でしょう。
〈DIAMOND Chain Store online / 2022年3月17日〉
コロナの巣篭もり&マスクによって、カラーコスメは逆境に立たされていますが、e.l.f.は2022年度第2四半期決算説明会資料には、米国のカラーコスメブランド上位5社中4社が対19年比で売上を落とした中、同社が唯一売上を伸ばしていると記しています。
もちろん、最初から順調だったわけではありません。
D2CブランドとしてECから立ち上げ、その後直営店の出店も行いましたが、18年に売上が落ち込み、19年に22店舗あった直営店を全てクローズするなど苦戦した経緯もあります。
そんな中、19年にECでの直販と小売パートナーへの卸売の2つの軸に切り替え、しかしD2C企業としての経営戦略は維持し、顧客データの統合のためにCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)を導入したことで復活。
つまり顧客データ管理・活用のイニシアチブは自社で持つことを選び、カスタマージャーニーを研究することで顧客との最適な繋がり方を磨いてきた、というわけです。
「デジタル・エンゲージメント」(デジタルを介した顧客との深い関係性)を経営の軸にし、SNSはもちろんのこと、ビューティーブランドとして初めてホリデーアルバム(クリスマスシーズン向けのコンピレーションアルバム)を制作し、ソーシャルビデオプラットフォーム「Triller」で発売。
さらに、ゲームライブ配信プラットフォームの「Twitch」でもブランドのチャンネルを開設するなど、顧客とのタッチポイントを増やしているのです。
e.l.fのロイヤルティプログラムに注目
さらに、注目したいのが顧客一人ひとりと繋がるようなロイヤルティプログラム「Beauty Squad」。
ユーザーは各小売店でe.l.fの商品を購入した際に受け取ったレシートを、専用アプリでスキャンするだけでポイントを得ることができるのですが、さらに、自らのプロフィールを登録したり、商品のレビューを投稿したりしてもポイントを貯めることができます。
手軽にポイントを貯めることができることが特徴で、プログラム上では年間獲得ポイントに応じて「FAN」「PRO」「ICON」とランクアップしていき、上のランクになれば商品の先行販売や限定イベントへの参加、ボーナスポイントなどの特典を得られるのです。
一方、e.l.fは専用アプリやロイヤルティプログラムを介して、どのような顧客がどこの小売店でどの商品を購入したかを可視化しています。
販売先が多岐に渡ると、顧客データをかき集めることは難しい。
しかし、同社は顧客のレシート画像をアプリを介して収集し、ロイヤルティプログラムに登録された顧客プロフィールと掛け合わせて、データマーケティングに取り組むことができているのです。
数多くの小売店で購入しやすい環境を構築しつつ、デジタルを介したユニークなコミュニケーション手法で日々話題になり続けることで、顧客の生活に入り込み、エンゲージメントを高めるこの手法は、デジタル起点かリアル起点かという議論を超えたオムニチャネルの形と言えるでしょう。
直販にこだわらない姿勢が、逆にD2Cの本質を顕在化しているようにも思えますね。
と…、本日は思わず筆が進み、長くなってしまいました…(汗)
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
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