VUCA時代は「両利きの経営」がカギ
column vol.765
昨日、稲盛和夫さんの経営哲学について、その一端に触れさせていただきましたが、予測不能なVUCA時代において、どのような経営を心がけたら良いのでしょう?
この解決策の1つとして目されているのが「両利きの経営」です。
〈Meiji.net / 2022年6月15日〉
既存のビジネスモデルを掘り下げながら、新規事業を創出していく。
世界ではスタンダードになりつつあり、最近の事例で言えば、ファイザーのコロナワクチンはまさに両利き経営が生み出した賜物です。
「サクセス・トラップ」にご用心
ファイザーはドイツの企業「ビオンテック」が開発を進めていた「mRNA技術」を応用したことで、いち早くコロナワクチンを開発することに成功しました。
もともとファイザーが長きに渡ってワクチンを研究・開発してきた「知の深化」と、「知の検索」によって手に入れた他社の技術を組み合わせることで、新しいワクチンのスピード開発というイノベーションを実現したのです。
この「知の深化」と「知の検索」は、それぞれ「既存事業の深度化」と「新規事業の創造」と分けても考えられます。
今日の正解は明日の不正解になり得る変化の激しい今日において、常に新しいビジネスの種を蒔き、芽を育てなければなりません。
…一方、なかなかそうは思っても、新規に向かえないのも人間の真理…
「知の深化」は従来製品の延長線上の改善であるためリスクが低く、収益の確実性が高いのに対し、「知の探索」は未知領域で行われるため、多大な手間やコストがかかってしまう…。
しかも、成功するかどうか分かりません…。
そうなると、安パイの「知の深化」に安住してしまい、イノベーションは生まれにくい状態に。
これを「サクセス・トラップ」と呼びます。
〈幻冬舎GOLD ONLINE / 2022年8月29日〉
そこで、事業承継支援コンサルティング研究会の五藤宏史さんは、「知の探索」を両立した両利きの経営に導くためのリーダーシップを4つにまとめています。
両利きの経営に導くリーダーシップ
五藤さんのお考えを端的にご紹介いたします。
①戦略の策定
全体戦略との整合性、既存事業の資産を活かした競争優位性などに着目して戦略策定と提示を行い、理解を得ることが重要。
②両利きの組織設計
(1)連続的両利きの経営…既存事業が軌道に乗った段階で、「深化」のモードから「探索」のモードへ連続的に切り替える。/(2)構造的両利きの経営…サブ組織を設けて「知の探索」に専念させる。/(3)文脈的両利きの経営…個人に知の探索行動を取る権限を与え、個人の裁量権に任せる。
上記3つの方法のいずれかで実行する。
③経営者の支援・管理
探索チーム、深化チーム、それぞれにしっかり向き合い、目標に向かって両チームが前向きな解決を図っていけるよう導く。
④共通ビジョン
両チームのメンバーが頭で理解するだけでなく、熱意を持って行動できるように、両者の心に訴える共通のビジョンや目標を策定、浸透させる。
どれも非常に大切なことですが、私は②の組織設計が特に重要になると考えています。
後藤さんは(3)の例に、社員が「普段の業務とは異なる業務」20%の割合で行う「Googleの20%ルール」を挙げているのですが、一番理想な姿とはいえ、なかなかそうは上手くいかないというのが本音でしょう。
やはり、既存事業がメインだと、新規よりも全然取り組みやすいので、そちらに引っ張られてしまいます。
ある程度「知の探究」に専念できるチームをつくった方が良いと思うのが、現在の私の答えです。
それには、まず適正な人材を選抜すること。
スピード、柔軟性、自発性などといった特性を持った人が適任でしょう。
また、評価の仕方も重要になります。
「知の検索(新規事業)」チームは、なかなか成果が出にくいとはいえ、「知の深化(既存事業)」チームが納得できるような成果の基準が無いと、両チームは対立してしまいます。
人選と評価。これが組織づくりのカギを握ることになるでしょう。
新規事業のつくり方
両利きの経営の土壌ができたら、次はアイデア出し。
その時に参考になるのが「ギャップ活用」という思考法です。
〈幻冬舎GOLD ONLINE / 2022年8月2日〉
ZARA、H&M、ユニクロ、IKEAなどなど、世界の名だたる企業を成功に導いてきたメソッドとして知られています。
これは、市場間のギャップや、リソースなどの空白を活用するという考え方です。
例えば、市場間のギャップで説明すると、「世界で最も安い市場でモノを調達して、世界で最も高く売れる市場で売る」というのは、まさにギャップ活用となります。
すぐに頭に浮かぶのは、企画・デザインは本社で行い、生産はアジア圏や東欧諸国など人件費、物価の安い地域でつくる「SPA(製造小売業)」はまさにそうですね。
あと、「タイムラグ」を利用したギャップ活用は日本のお家芸です。
よくアメリカで流行したものは3~5年後には必ず日本でも流行すると言われていますが、先行する市場(アメリカ)の情報をいち早く日本に取り入れて活用する。
ソフトバンクの孫社長が得意とする「タイムマシン経営」です。
2つの市場の情報格差を利用して成功を収めているのです。
また、今っぽさで言えば「シェアエコノミー」が代表例でしょう。
空いているリソース(資産)、空いているキャパシティ(容量)、空いている時間、空いている能力などなど。
シェアハウス、ルームシェア、カーシェアリングといったシェアリングビジネスは、こうしたアイデアの発想から生まれてきたものです。
そして、顧客の混雑度によって価格を変更するダイナミックプライシングもアイドルビジネス(空いている時間の有効活用)の一種でしょう。
今後は、電車などでも時間変動型で運賃が設定されていくはずです。
この辺の考え方は、【「事業」をつくるためのAtoZ】の中でご紹介した「トレードオフ」という思考法にも通ずるところがあります。
まだ気づいていないギャップを見つけることが、新しい事業に繋がる1つの方策になるでしょう。
VUCA時代を乗り切るためにも「両利きの経営」をカタチにしていきたいものですね。
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