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日記;父母覚書

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脳内出血で倒れた父と認知症の母。もう亡くなりましたが、日記にしたためていたメモを後悔する事に意味を感じ公開します。
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#創作大賞2024

情動

情動

とある小説を読み、ある情景に我が身を重ねてしまった。

老いたヒロインが、それ以上に老いた認知症の母を見舞う日々。
母は動けず言葉も発せず、13年もベッドに横たわっている。それでもヒロインは
母を見舞い続けるのだ。

あるとき、老いた母が突然、虚空に白い腕を伸ばし、何やら掴もうとする。
”何か”ではなく、”誰か”の手を捜しているのだと、ヒロインは察知し母の手を自分の両の手で包み込む。

母の口から

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事の推移:2

事の推移:2

施設の対応があまりに不誠実であり面談も平行線にて、

安全性重視、利用者の安寧求め、市の

福祉介護課に相談、報告。

○過去に真夜中、ベッドから落ち、そのまま朝まで床で転倒していたこと。

○脱走の一回目、二度と起きぬよう、措置を介護主任さん他と話したこと。

○今回の脱走にては、運よく打ち身、擦過傷で済んだものの、施設側が

 不親切極まりない対応であったこと。

○父の過去から今日に至るまで

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事の推移

事の推移

(過去日記覚え書き)

早朝、ホームより電話あり。

父が二度目の脱走図ったとのこと。

四年前の脳出血により、高次脳機能障害を発症した父は、

本来の性格に加え、時に、本来の父ではない無謀な(思考欠落した)行動を

起こす。

四年間の経緯:救急搬送>命取りとめ>リハビリ病院にて三ヶ月>後、帰宅、デイケア、

訪問看護、ヘルパーさんの体制で二年間>母の認知症悪化したため、現在、両親ともに

介護

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七つのお祝い:母思ふ

七つのお祝い:母思ふ

着道楽だった我が母は

当事、裕福だったこともあり

馴染みの呉服屋から定期的に和服を購入

部屋中に広がった色彩の洪水に

子ども心に胸ときめかしたことを

覚えております

桐の箱に(多分)入った着物や帯を

美貌の母は目を細め乙女のような嬌声あげて

テーブルいっぱいに広げられたそれらを手に取り

見惚れておりました

幼稚園、年長の6歳ーわたしの数えで七つのお祝いに

母が選んだものは

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母の外出/日記覚書

母の外出/日記覚書

主治医と面談後、初の外出訓練。

痴呆は回復することは、現在は不可能。が、薬によって進行を遅らせることは可能。

薬及び家族の声かけ、刺激、そうした力が、大きな作用を果たすであろうと医師は言う。

外科的治療と内科的治療は、ほぼ終了。持病に対しての常備薬は必須だが、手術後の状態良し。

父は脳、母は心臓。

二人とも、いつ果てても可笑しくない大病を持っている。

今年のお盆は何とか共に迎えることが

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七夕の短冊に託す父の念:過去日記

七夕の短冊に託す父の念:過去日記

今日、父に問うた。

「お父さん、七夕の短冊、書きたい事ありますか?」

思いがけない答が戻って来た。

忘れぬよう、覚書。

「馬で荒野を駆け巡りたい」

涙がこぼれそうになる。

父は、裸馬に乗り、高校(当事、中学校か)に通学していたという、地域で

悪名高き暴れん坊。

馬を校舎近所の畑に繋ぎ、知らぬ顔で授業に出ていたそうな。

「こら、○○!ま~た、馬に乗って来たな!ご近所から苦情が来てお

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父の顔

父の顔

「何をどう言ってもつまらんのぅ。」

と、父がふっと笑う。

その顔があまりに寂しくて

帰宅後も脳裏から離れない。

豪胆でまさに九州男児そのものだった父、

やんちゃを重ねた十代

そして、企業を興した二十代

転身して、経済より誇りを望んだ三十代

父の人生は(父が手記をとうの昔、現役の頃、わたしに預けたのだ)

まさに波乱万丈、そして、輝かしい業績を残した人生であった。

8年前、突然倒れ

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祖父よ 祖母よ

大樹よ
空よ
草原よ
山々よ

かの地は時隔てて遠くなりにけり

それでも
わたしに かくあれと
幼き心に教えて下さった
温厚なる敬愛する祖父の魂が
風に乗って聴こえてくるようです

 

母:回想

母:回想

お母さん、お誕生日おめでとう!

ぇっと・・何歳になったんだっけ?”

「38歳よ。わたしは、38歳から年を取らないの。」

遠い昔の記憶、母の名言。

洋装も和装も似合った母の並外れた美貌。

小中学校の保護者会、校長先生筆頭に男性教師達が色めき立ち

母を観に来ていたと、後に知る。

そんな騒動を・・我が兄は恥じ入っていたのだった。

昨日ホームで見た母の明朗さ、思いがけず観た闊達さー

車椅

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メキシコ産オパール

メキシコ産オパール

わたしは、そもそも宝石に興味が無い。

唯一、冠婚葬祭用に真珠を持っている程度だ。

本日、母の口から唐突に出た言葉が

「オパール!!わたしのオパールは!?」であった。

父が事の詳細をのたまう。

「日本じゃオーストラリア産が人気あるが、メキシコ産のオパールは赤い。価値在るオパールはメキシコオパールだ。俺がこれに買って来てやったものだ。家にあるか?」

・・・シラナイ。 オパールを検索すれば、

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かっこいいではないか、お父さん

かっこいいではないか、お父さん

それでも母は父を覚えているのだ。
多くを忘れようと、母が口にする「一番大事な人を忘れるわけがなかろうもん」

母の大手術ののち、車椅子で近付いた父が
「おい、オレが誰かわかるか!?」の問いに
即答した母であった。既に三年前・・

認知症という病は、特効薬が無い。が、症状を遅らせることは出来るのだ。それを助ける薬もあるにはあるが、何といっても、周囲の言葉や働きかけ、母の表情を察知し
喜んでいるとわか

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