角野桃花

1996年生。東京大学教養学部卒。2021すばるクリティーク賞最終候補(「サブカルチャ…

角野桃花

1996年生。東京大学教養学部卒。2021すばるクリティーク賞最終候補(「サブカルチャーの〈娘〉とその〈母〉と〈父〉――『キルラキル』を通じて)。第65回群像新人評論賞最終候補(「「ママ」をもう一度人間にするために――『約束のネバーランド』と『かか』において」)。

記事一覧

「ポスト・セカイ系」としての『輪るピングドラム』―「透明な存在」のために―【1/3】

序章:「セカイ系」の欠落点 「セカイ系」なんて議論されつくされている、そう思っていないだろうか。たしかに「セカイ系」と呼ばれる物語が流行したのは1990年代後半で…

角野桃花
19時間前
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「ポスト・セカイ系」としての『輪るピングドラム』―「透明な存在」のために―【2/3】

3章:看過されてきた二つの不承認の問題 「セカイ系」と終末思想が救おうとしていたものは、不承認の問題である。ここまで、「こどもブロイラー」での余剰Xを認めてもら…

角野桃花
19時間前
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「ポスト・セカイ系」としての『輪るピングドラム』―「透明な存在」のために―【3/3】

4章:「セカイ系」を過去のものにするために だが、このように二つの虚構が退場してしまった後、同じようにその背景である不承認の問題も消えたわけではない。そして「…

角野桃花
19時間前
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そうはいっても『鬼滅の刃』が好きです

※『鬼滅の刃』の最終話までのネタバレがあります。  一番好きな漫画は何かと聞かれたら、今の私はきっと『鬼滅の刃』と答える。もちろん、作品として批判されるべき点が…

角野桃花
3週間前
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実家と記憶の話

 私は実家に帰るのが嫌いだ。  それは、もちろん家族との仲があまりよろしくないというのも大きな理由だけど、なにより過去というものは不確かなくせに私を孤独に追い込…

角野桃花
1か月前
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「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より(2/2)

第65回群像新人評論賞最終候補に残った「「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より」の後半です。 前半はこちらから▶https://note.com/

角野桃花
3か月前
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「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より(1/2)

第65回群像新人評論賞最終候補に残った「「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より」の前半です。 ===================== 「ママ」をも…

角野桃花
3か月前
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「ポスト・セカイ系」としての『輪るピングドラム』―「透明な存在」のために―【1/3】



序章:「セカイ系」の欠落点 「セカイ系」なんて議論されつくされている、そう思っていないだろうか。たしかに「セカイ系」と呼ばれる物語が流行したのは1990年代後半であり、それについての議論は2010年を境に終息しているように見える。
 しかし、今まで触れてきた「セカイ系」についての議論において致命的に欠けている部分がある。それは男女の非対称性である。
 本題に踏み込む前に、「セカイ系」の定義とこ

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「ポスト・セカイ系」としての『輪るピングドラム』―「透明な存在」のために―【2/3】

3章:看過されてきた二つの不承認の問題 「セカイ系」と終末思想が救おうとしていたものは、不承認の問題である。ここまで、「こどもブロイラー」での余剰Xを認めてもらえない子ども達や、自己規定を外部に認めてもらえない人々の議論をしてきたので薄々気づいているかもしれない。しかし、ここからの議論では、その不承認の問題による絶望がいかに世界に広まっているのかを感じ取り、どれほど今までの議論が見て見ぬふりをした

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「ポスト・セカイ系」としての『輪るピングドラム』―「透明な存在」のために―【3/3】


4章:「セカイ系」を過去のものにするために だが、このように二つの虚構が退場してしまった後、同じようにその背景である不承認の問題も消えたわけではない。そして「セカイ系」も終末思想もただ効力を失っただけで、真の意味で過去のものにすることができていない。

 「セカイ系」は一対一の関係において他者に依存するという骨組みだけが残った亡霊として彷徨っている。桃果という「セカイ系」で救われた子ども達だった

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そうはいっても『鬼滅の刃』が好きです

※『鬼滅の刃』の最終話までのネタバレがあります。

 一番好きな漫画は何かと聞かれたら、今の私はきっと『鬼滅の刃』と答える。もちろん、作品として批判されるべき点があるのもわかっている。これだけ売れたのは作品の力だけによらないのも、私は知っている。

 ただ、私は『鬼滅の刃』と社会の関わり方に興味があるというより、自分の個人的な事情があって強くこの作品にこだわっている。

1:怒りを忘れないこと こ

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実家と記憶の話

 私は実家に帰るのが嫌いだ。

 それは、もちろん家族との仲があまりよろしくないというのも大きな理由だけど、なにより過去というものは不確かなくせに私を孤独に追い込んでくると痛烈に感じるから。

 うちは、精神疾患を持つ母を抱えていた。そして、母いわくモラハラの父から逃れて母の実家でくらしていた。母はしばしば鬼になった。
 私はいまさら過去の傷を並べることはしたくない。語るのは本当に疲れるから。繰り

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「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より(2/2)

第65回群像新人評論賞最終候補に残った「「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より」の後半です。
前半はこちらから▶https://note.com/taohuasumino/n/n3add51580498?sub_rt=share_pw
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◯子どもは「ママ」の神様

 次に、「ママ」が鬼の世界で育てる食用児は一体何を象徴す

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「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より(1/2)

第65回群像新人評論賞最終候補に残った「「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より」の前半です。
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「ママ」をもう一度人間にするために―『約束のネバーランド』と『かか』より (1/2)
角野桃花 文学はいつも「ママ」をいないことにしている。
 頓狂なことを言い出したと思うだろうか。たしかに、母というひとりの人間の身体に縫い付

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