カドルステイト物語 紹介文
はじめに
『カドルステイト物語』は、私が小学生の頃から考え始めて、高校生の頃に完結まで構想を練った物語です。それだけに非常に思い入れの強い作品ですが、大人になった今の私が『カドルステイト物語』を読み返してみると、子供が考えた物語らしく、稚拙な部分も多くあるように思います。しかし、子供が考えた物語だからこそ、独特の瑞々しさがある。思春期・反抗期に抱く大人や社会への不信感。正しさと綺麗事の狭間で、親や先生の言葉と現実との矛盾に折り合いをつけることが出来ない未熟さの中にこそ、心を震わせる人間の根源的な情動があるように思います。まだ自分を守る手段を知らない若い感性は、図らずもその歳頃にしか書けない独特の物語を生み出しました。このnote記事では、そんな『カドルステイト物語』の魅力を、作者視点で大いに語った上で、読者から寄せられた感想の一部を合わせて紹介いたします。
カドルステイト物語への思い入れ
『カドルステイト物語』は、もともとテーブルトークロールプレイングゲーム(以下TRPG)のシナリオとして書いた物語で、私は少年時代、これを気の置けない友人達と一緒に楽しんでいました。その当時、私はカルト的な思想を持った農場で365日休みなく厳しい重労働を課せられ、俗世から隔絶された環境に閉じ込められていましたが、それでも同年代の友人達とこの物語を楽しむことで、辛うじて心の平穏を保っていたのです。恵まれない少年時代を過ごした私が、それでも腐ることなく大人になれたのは、まさしくこの物語のお陰と言っても過言ではありません。『カドルステイト物語』は文字通り、私の心の支えでした。その頃の詳細は『根無し草』に書き綴っていますので、ご興味を持たれた方は恐縮ながら、そちらをお読み頂ければと思います。
ゲームはもちろん、テレビもラジオも漫画も無い。全ての娯楽を禁止された環境に閉じ込められていた少年達にとって、それは特別な遊びでした。当然ルールブックもありませんでしたが、それでもTRPGは、紙と鉛筆と想像力さえあれば、何時でも何処でも誰とでも、気軽に遊ぶことが出来ます。大人から人間性を否定され、身体的・精神的虐待を受けながらも、隠れてこっそりTRPGを楽しむ。そんな環境にあったせいか、『カドルステイト物語』は大人の綺麗事や現行体制に対する反発、自由への渇望に満ちた青臭い展開が目立ちます。しかし、だからこそこの物語は、私にとって特別な作品になりました。
30年以上が経った今でも、私は当時の苦痛を忘れることが出来ません。未だにあの頃の悪夢をみて、叫び声を上げながら目を覚ましてしまうことがよくあります。『カドルステイト物語』の執筆にあたっては、少年時代の気持ちに立ち還り、当時の心になって最後まで丁寧に書き綴りました。約30年の時を経て小説として蘇った『カドルステイト物語』。私の人生の一部でもあるこの作品を、ぜひ1人でも多くの人に読んで欲しいと希っています。
本作のターゲット層
TRPGの流れを汲んだ若者向けの古き良き長編ファンタジー
先にも述べた通り、『カドルステイト物語』は私が子供の頃、TRPGのシナリオとして書いた物語です。その当時は、まだTRPGもコンピュータゲームも分け隔てなく、一括りにロールプレイングゲーム(以下RPG)と呼ばれていました。『ドラゴンクエスト』などのヒットを受け、世間でもRPGという名が広まり始めたこの時代、一部の子供達の間で流行っていたTRPGはその後、『ソード・ワールド』や『アラベスク 運命の風』など様々な作品を世に送り出しました。私も子供の頃、そんなTRPGを楽しんだ団塊ジュニア世代の一人です。
それと同時に、『ドラゴンランス戦記』や『ロードス島戦記』といった、TRPG由来の小説も人気を博していました。当時はまだ「ライトノベル」という呼称はありませんでしたが、やがてそれが世に浸透していくと、ファンタジー小説は時代と共に大きく変化し、若い世代を中心に客層を増やしていきました。『カドルステイト物語』は、そんなTRPGの流れを汲んだ、若者向けのファンタジー小説です。私と同年代の人の中には、昔それらの作品を楽しんだ方も多いのではないでしょうか? すなわちこの小説は、古き良きファンタジーの世界観が好きな団塊ジュニア世代はもちろんのこと、それを知らない若い人達にもぜひ読んで欲しい作品です。
本作の見どころ①
ファンタジー本来の魅力に立ち還ることを目指した展開
作者の自分が言うのも変ですが、『カドルステイト物語』は今どきのファンタジー小説と比較すると、正直言ってかなり地味だと思います。主人公のデインは、世界の平和の為に戦っている訳でなく、ただ自分の為に生きているだけの若者です。弓の扱いに関しては突出した才能を持っていますが、1人では何も出来ないし、群がる敵を蹴散らすような必殺技も持ち合わせていません。
また、この作品にはあまり女の子が登場しません。登場人物の比率はだいたい男性7:3女性くらいです。その分、可愛らしい女の子が次々に登場する今どきのファンタジー小説と比較すると華やかさに欠け、地味さに更なる拍車が掛かっている感は否めません。
更に言うと、この物語の世界は、特に滅亡の危機に瀕している訳でもなければ、世界征服を目論む魔王が復活しようとしている訳でもありません。ただ、剣と魔法の世界がそこにあって、人間や亜人種がその世界に住んでいて、ドラゴンが存在している。それだけです。そんな、現実世界では絶対に有り得ないファンタジーの世界が、ただそこに在るだけで、主人公が超人的に強くなくとも、若い女の子が次々登場しなくとも、世界が危機に陥らなくとも、壮大かつ繊細な美しい物語が生まれる。それが、『カドルステイト物語』です。
本作の見どころ②
不完全なメンバーが補い合って戦う連動的な戦闘シーン
『カドルステイト』での戦闘は、1人では何も出来ない不完全な人達がパーティを組んで、各々が得意とする役割をこなすことで成り立っています。実は本作の戦闘シーンはTRPGよろしく、その時その時の全員の動きをタイムテーブルにのせ、キッチリと計算した上で文章に書き起こしています。
互いに命を懸けた戦いで、しかも多数 対 多数の戦いにおいて、棒立ちなど絶対に有り得ません。『カドルステイト物語』での戦闘は、戦いに参加している全員が、一斉に連動して動きます。漫画のように戦いを解説する人など一人も居ないし、敵同士で悠長に会話しながら戦うこともありません。
更に付け加えるなら、魔法使いは呪文が使えなければただの人に過ぎず、近接戦闘能力は殆どありません。前線に出て戦う愚かな魔法使いは、例外なくあっという間にやられてしまうでしょう。『カドルステイト物語』では強力な呪文ほど長い詠唱を必要とし、魔法使いは詠唱中、自分の身を危険にさらすことになります。どんなに強力な呪文を使える魔法使いであったとしても、前衛が居なければそれを安全に行使することすらままなりません。
それは味方側だけでなく、敵側も同様。距離や位置、範囲等、TRPGの戦闘を忠実に再現し、全員が必ず何かのアクションを起こす連動的な戦闘シーンは、恐らく他のファンタジー小説ではあまり見られなかった、『カドルステイト物語』の見どころの1つです。
本作の見どころ③
結果だけでなく過程の中で繊細に描かれる心理描写
本作で深く掘り下げられる部分は、戦いや、それによって得られる「成功」や「失敗」などという結果よりも、登場人物がその過程で何を思い、考え、感じたか? という心理描写に重きが置かれています。それは決して、世の中の不条理さや人の暗い感情を悪戯に揺り動かそうとするものではありません。『カドルステイト物語』はダークファンタジーではなく、古き良き美しいファンタジーを目指した物語。本作では心理描写において、あくまで人の心の美しさを表現しようとしています。
もともとファンタジーと言えば、古来よりそういった美しい物語が紡がれてきました。それは、古いファンタジー作品で描かれることの多かった、非現実的が故に幻想的な、あるいは児童文学的な、まるでおとぎ話のような美しい物語です。
かつて、多くの子供達を魅了した古き良きファンタジー。今ではその子供達も大人になり、社会に出てそれぞれの立場でご活躍されていることと存じます。そんな古き良きファンタジー好きの団塊ジュニア世代を主なターゲットとしながらも、もともと若者向けに書かれている本作は、大人だけでなく、今の若い人達にもぜひ読んで欲しい作品です。近年ではほとんど見られなくなってしまった、普遍的な美しいファンタジーの一端を、本作から感じ取って貰えれば幸いです。
1冊15万文字前後の、全7巻+外伝(完結済み)の長編小説『カドルステイト物語』。TRPGのシナリオをベースにした、剣と魔法のファンタジー小説です。よろしければ是非、ご一読ください。
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読者の感想(1巻)
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カドルステイト物語 第三部『故郷の絆』
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読者の感想(シリーズ全体を通して)
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