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書と生き方研究(これまで)※限定無料公開

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朱紅が主宰する「書道塾tane」、旅する書道「すみあそび」、いろいろな場所でいろいろな人と書くことで見えてきたたくさんの「生涯発達理論」を発信していきます。
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#書道塾たね

「生涯発達」と「書」の関係性を考える⑤

「生涯発達」と「書」の関係性を考える⑤

わたしが書道塾を始めるきっかけになったのは、浅野敬志くんが高等部を卒業したとき、母、浅野雅子さんの一言がきっかけだった。アドベンチャークラブで5歳から一緒にいる敬志くんは、浅野さん曰く「重度の知的障害と自閉症」であり、言葉を話さず、自己主張も少なめなタイプである。それゆえに、与えられた指示は淡々とこなすが、「敬がほんとうになにをしたいのか分からない」ということはよく呟いていた。生活介護の事業所に就

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「生涯発達」と「書」の関係性を考える④

「生涯発達」と「書」の関係性を考える④

「沈黙の中身は、すべて言葉」(谷川俊太郎)

 「詩を書き始めようとする時、一枚の白い紙を前にして私はいつも途方に暮れます。何をどうやって書けばいいのか、見当もつかないのです。白い紙がまるで荒野のように思えます。私にできることと言えば、ただじっと待つことだけです。いったい何を待つと言うのでしょうか。」谷川はこう語っています。(谷川俊太郎詩選集1あとがきより)

自分自身のなかにある「言葉」とは何か

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「生涯発達」と「書」の関係を考える③

「生涯発達」と「書」の関係を考える③

学習意欲とは本来高いものである。「知りたい」「やってみたい」という思いはもともと備わっている。「誤学習」として、「勉強はやりたくないもの」とインプットされてしまっているに過ぎない。

支援学校の高等部を卒業し、ある施設に通っている青年、29歳。卒業してからずっと同じ施設だから10年勤めている。しかしながら、その生活ぶりは10年前から変わっていない。野球と相撲が好きでニュースも知っている。17年前に

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「生涯発達」と「書」の関係を考える②

「生涯発達」と「書」の関係を考える②

独特の空間配置と、字のバランス。ひとつひとつの文字の向きや並び方のおもしろさ。この作品は、どうがんばっても彼にしか生み出せない。彼は、言葉を話さない。自分の名前は書ける。日常的なやりとりはある程度可能である。でも複雑で難しい指示は理解できない。小さい時は、もっと自分の世界があって、その中で泣き、喚き、葛藤し、固まり、動かなくなり、それでも発信する言葉が出てこないということに彼の母親は悩んでいた。

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