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一日の計はポスターにあり【ディズニーランドの入り口で①】

舞浜駅から東京ディズニーランドを目指して歩いていると、橋に飾られたポスターが目に付く。数々の人気アトラクションに加え、新たにオープンした「美女と野獣“魔法のものがたり”」「ベイマックスのハッピーライド」ももちろん構えている。
スロープを降りつつ右側に目をやると、東京ディズニーランド・ホテルの手前にあるコインロッカーにはまたもやポスターがあるし、モノレール駅の高架下にもやはりポスターが飾られている。

東京ディズニーリゾートではエントランスのポスターがアイデンティティの一つとなっており、我々の冒険心をかき立ててくれるのだ。

本noteでは、東京ディズニーランドのポスターのデザインを分類しながら、東京ディズニーリゾートがどのような性格を持って日本に現れてきたのかということに想いを馳せたい。
なお、この記事は二部構成になっていて、前半にあたる今回は、アトラクションポスターの役割や効果を確認する。後半にはポスターの現状と存在への疑念を挟むこととする。

特記のない限り、写真はすべて筆者が撮影したものです


「なぜポスターなのか?」

しかし、なぜポスターなのか? なぜなら、それは移動中の人たちに語りかけることができるからだ。ポスターは一瞬で人びとの注意を引きつけて、メッセージを伝えることができる。よくできたポスターを見れば、そこに描かれた物語を一瞬ではっきりと理解することができる。絵は何千語ものメッセージを一度に伝えることができるのだ。ディズニーランドのポスターがまさにそうだ。

『ディズニーテーマパーク ポスターコレクション』7ページ

ポスターが重要なのは、1983年の東京ディズニーランドオープン……いや、それどころか、アメリカ合衆国カリフォルニア州のディズニーランドで初めてポスターが飾られた1956年(これはオープン翌年)から変わらない。

ディズニーランドにおいて、ポスターはどのような役割を持っているのだろうか?
カリフォルニア式には、客はまず駐車場で車を捨て、エントランスを抜けた先で花壇と鉄道の駅舎に迎えられる。その下のトンネルを潜って抜けた先にはメインストリートUSA(≒ワールドバザール)が存在する。そこから眠れる森の美女の城(≒シンデレラ城)に到着してはじめて、客はアドベンチャーランド、ファンタジーランド、トゥモローランドの中から好きなエリアを選んで移動できる。
ここまでの道中で、数々のポスターを目にしてきている。時にはそれぞれのエリア内で見かけることもあり、客が次にどのアトラクションやエリアを目指すのか考えるのにちょうど良い指標となる。ポスターの持つ役割とは、施設の持つ物語や体験を一枚の絵によって語り、客を勧誘することである。

東京ディズニーランドでは、鉄道の駅舎が存在しない。その代わり、ディズニーリゾートラインの東京ディズニーランド・ステーション、あるいはワールドバザールの入り口の壁面にポスターが展示されている。また、カリフォルニア式には一本道であるはずのワールドバザールは途中で左右に分かれ、これがそれぞれアドベンチャーランドとトゥモローランドに注ぐ。両者には差異があるが、しかし、全ての客が必ず一つ以上のポスターを目にしてから最初のアトラクションにありつくという仕組みは変わらないのだ。

もちろん、多くの客に見てもらうためには目を引く構図や魅力的なデザインにする必要がある。客一人ひとりが、まるで絵画のようなポスターのデザインに魅入られてしまうのは言うまでもない。それに、多くのポスターを参照してディズニーのポスターは制作されるし、子供時代をディズニーのテーマパークで過ごした多くのクリエイターが、大人になって自分の作品を制作する際にも参考にしている。

いずれにせよ、東京ディズニーランドに至るまでの間に我々が目にする数々のポスターは、我々のディズニー体験に影響を与えているようだ。

「比較する」とは「存在を認める」ということ

これから、二つの方向から東京ディズニーリゾート(特に東京ディズニーランド)のポスターを比較したい。共時的比較と通時的比較だ。

アトラクションポスターを具体的に比較検討する前に、ここでは少し遠回りをして「比較する」という営みそのものを考えてみたい。

共時比較と通時比較を考えてみると、それが一見二項の双璧を成すように見えるけれども、実際は異なる。共時的に存在する複数のポスターが通時的に展開していくというのが本来の筋で、通時的な移り変わりは共時的なポスターのネットワークが前提となる。つまり、このnoteにおける通時比較と共時比較は、厳密には比較対象が異なるのだ。
ここでは先に共時的比較へと踏み込んでいき、ポスターがどのようなものであるのかその定義を確立した後で、実際に通時的な変化に目を通していくことにする。この点、共時的比較ではポスター単体同士を、通時的比較ではポスターの各年代の諸形態を見比べることとなる。このことをご理解いただきたい。

では、そもそも「比較」がどうして重要な意味を持つのか? 近年はむしろ、優劣をつけるような日本の教育の競技性が否定され続けて久しいではないか。

結論はこうだ。ウィトゲンシュタインが『論理哲学論考』で哲学から、ソシュールが言語学の知見から議論したように、物事を物事たらしめているのはある意味で差異である。
簡潔に、例として写真を挙げてみよう。誰でも構わないから一人、偉人の肖像画を想像して欲しい。白黒の肖像において、彼・彼女の髪の色や服の色というのは存在しない。白黒写真において、赤も青も黄もすべては同じように出力され、白から灰色を通って黒色へと至る、その中の一地点として確認される。他方、カラー写真においてはこれらの色は当然区別される。

ここから得るところは以下の二点だ。
第一に、物事は常に相対的な比較によって認識される。白色がどうして白色なのかと言われれば、黒色よりも白いからである。仮にここに黒色がなく白色一色だとしたら、そもそもその存在を認知することはないだろう。丁度、あなたが今読んでいる私のnoteの背景色をわざわざ気に留めないように。
第二に、その相対的な比較の方向が、物事を定義する。例えば、赤色にしろ、青色にしろ、黄色にしろ、他の色と比較して「比較的赤い」とか「比較的青い」ということによって認識されるわけだ。この場合、そこに「色」を通した物差しがあること自体は共通しているからして、写真は色によって定義されていると言える。言い換えれば、写真に「奥行き」という物差しが存在しないことを利用して、写真は奥行きによっては定義されないと言い得る。遠くのものは色が薄く見えるとか、影がかかった場所の色は暗く見えるとかいう、あくまで「色」の物差しによって測られるだけである。

また、こうも言える。そこには差異と差異を決定付ける物差しがあればよいだけである。よって、比較において必ず優劣をつける必要はない。

Mitchell Hammerは、異文化感受性発達モデル(Intercultural Development Continuum)を作成した。これは、人間が自国以外の文化と交わる際のスタンスを五段階に分けてステップ化したものである。

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The Intercultural Development Continuum (IDC™)

この五段階は、「単一文化マインドセット」「多文化マインドセット」へと二分される。前者は、「違いの否定」「二極化」「違いの最小化」から成り、いずれも「自分の属する文化」対「それ以外の文化」を見る。

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例えば以上のように、特定の対象に対してそれと比べてポスターが優れているか劣っているかを見るというようなのが「単一文化マインドセット」だ。

他方、多文化マインドセットではどうか。ここでは、自分の文化は数ある中のひとつにすぎないことを自覚し、世界ウェブの中に位置付けていく。

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ここでは中心というものは存在せず、価値は相対化され、上下関係が生じるものではなくなっていく。筆者が目指すのは、時に相対化し時に順位化しながらも、短絡的には価値判断に転化しないような、後者的な比較手法である。

アトラクションポスターの共時比較

話をディズニーのアトラクションポスターに戻そう。つまり、これから共時比較によって洗いたいのは、「アトラクションポスターをアトラクションポスターたらしめている要素」とは何か、である。

ここではトゥモローランドのアトラクションを引き合いに出してみよう。
2007年にリニューアルの「スペース・マウンテン」と2009年にオープンした「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」をご覧いただきたい。

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両者に共通しているのは最下部のデザインである。左からTokyo Disneylandのロゴ、TOMORROWLANDというエリア名称、そしてオフィシャルスポンサーのロゴが記載されている。

このことは「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」(2019年にポスター刷新)、「スティッチ・エンカウンター」(2017年に大和ハウス工業がスポンサー)、「ベイマックスのハッピーライド」(2020年オープン)、でも同様。エリア名称こそ欠いているが、「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」(2004年オープン)にかんしてもフォーマットは近しい。

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なるほど、確かにトゥモローランドのアトラクションポスターはいずれも"Tokyo Disneyland" "TOMORROWLAND" "PRESENTED BY"が含まれていそうだ。こうした様式が「色」などの物差しに対応し、この"TOMORROWLAND" "PRESENTED BY"のフォントとしてそれぞれ異なるものを使用していることこそ、「赤」「青」「黄」に相当すると言える。このフォントの差異が、アトラクションポスターのアイデンティティのひとつであるというわけだ。

また、このことは他のテーマランドも同様である。ファンタジーランドやアドベンチャーランドなどをとってもこの流れは変わらない。どれもが同様の様式を用い、しかし異なるフォントを使用していることを確認して欲しい。

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右列上:「イッツ・ア・スモールワールド」 上中:「美女と野獣“魔法のものがたり”」 中:「ホーンテッドマンション」 下中:「ミッキーのフィルハーマジック」 下:「キャッスルカルーセル」
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左上:「魅惑のチキルーム:スティッチ・プレゼンツ“アロハ・エ・コモ・マイ!”」 左下:「ウエスタンリバー鉄道」 右上:「ジャングルクルーズ:ワイルドライフ・エクスペディション」 右下「カリブの海賊」

何を公報するか、それが問題だ

さて、ここで非常に些末だが同時に重要でもあることを白状する。上の画像のうち、ファンタジーランドなら「ミッキーのフィルハーマジック」と「美女と野獣“魔法のものがたり”」、アドベンチャーランドなら「カリブの海賊」と「ジャングルクルーズ:ワイルドライフ・エクスペディション」をもう一度見て欲しい。ここでは、エリア名に同様のフォントが使用されているのである。

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このことは、アトラクションポスターの特に重要な観点のひとつである。

トゥモローランドで確認した通り、東京ディズニーランドのポスターの基本的な立場は次のようになる。つまり、「それぞれのポスターの公報内容は、ポスターの公報内容と同一である」。このことは一見当たり前のようだが、実はそうではない。
「スペース・マウンテン」と「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」は同じトゥモローランドというエリアに所属してこそいるが、それはあくまで便宜的な概念である。だから、アトラクションは各々に合わせて自由にフォントを選択し、広報することが許されている。ここで支配的な概念はそれぞれのアトラクションの雰囲気や世界観であり、決してトゥモローランドという括りではない。そういう意味で、「スペース・マウンテン」のポスターは「スペース・マウンテン」を宣伝しているし、「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」のポスターは同アトラクションを公報しているということだ。

ここで初めて、東京ディズニーシーの名を出すとしよう。2001年にオープンした第二の東京ディズニーテーマパークで、21世紀組と呼ぶことのできるこちらの考え方は根本的に異なる。というのも、彼らはアトラクションなどの施設単位ではなく、それぞれのエリア毎にポスターを組織して展開していると思われる。
以下では、東京ディズニーランドの「アトラクション名がエリア名を従える」構造と異なり、「エリア名がアトラクション名を従える」構造を見てほしい。

(前略)近年のロゴマークは特定の企業や経営者がその理念をもとにデザインするものとなっている。そして、それはさらに拡大解釈すれば標準書体や色調の指定を伴って総合的なデザインモデルとなっていく。そして最終的にはCI(Corporate Identity)=企業の統一的な理念へと収束していく。
これは言い換えれば、特定のCIに基づいてデザインされた物同士は遡って紐付けがされているということである。

ディズニーシーのロゴが教えてくれる「セカイとワタシ」|TamifuruD(たみふるD)|note

やはりミステリアスアイランドが最高の例だろう。「センター・オブ・ジ・アース」と「海底2万マイル」のアトラクションポスターは、使用書体から装丁、タッチに至るまですべて統一されている。

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あるいは、一見すると全く関わりがない「タートル・トーク」「タワー・オブ・テラー」と「トイ・ストーリー・マニア!」も、“AMERICAN WATERFRONT”の書体が共通する。

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この形式がロストリバーデルタやアラビアンコースト、マーメイドラグーンなどに通底していることは言うまでもない。だが、ここでは東京ディズニーランドとの差異を強調するために、特別な例を二つ出しておこう。

1 メディテレーニアンハーバー

「ソアリン:ファンタスティック・フライト」が2019年に登場するまで、メディテレーニアンハーバーのアトラクションは非常に地味だった。「センター・オブ・ジ・アース」のような人気アトラクションもなければ、「タワー・オブ・テラー」のような追加投資も永らく得られなかったのだ。奥まった位置に「ヴェネツィアン・ゴンドラ」、中央の湾に面して「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」の船着場があり、あとは「フォートレス・エクスプロレーション」という歩いてまわる形式のプレイグラウンドがあるだけだった。ちなみにいずれも、アトラクションポスターは制作されていない。

代わりに、中央の湾では水上ショーが行われていて、これが東京ディズニーシーの醍醐味の一つである。
2001年から06年には「ポルト・パラディーゾ・ウォーターカーニバル」を開催していた。1901年の南欧が舞台のメディテレーニアンハーバーは三つのエリアに分かれていて、そのうちのひとつがパラダイスの港「ポルト・パラディーゾ」である。この名前の由来となったとある伝説を祝して開催される年に一度(という設定)のお祭りこそ、「ポルト・パラディーゾ・ウォーターカーニバル」だ。単なるテーマパークのショー演目というだけでなく、文字通り「地元の祭り」を再現した「カーニバル」であったというわけだ。これが公演を終えた2006年以降、2015年まで行われていたのが「レジェンド・オブ・ミシカ」であった。
それ以降、新規の昼のショーは発表されていない。これを惜しむファンの声は日に日に大きくなるが、その最中に登場したアトラクション「ソアリン:ファンタスティック・フライト」が、現在は人気アトラクション入りしているという流れだ。

さて、実はこれらのショーのためのポスターが過去に製作されていた。東京ディズニーランドなら「ワールドバザール」や「トゥーンタウン」のものがあるように、ポスターは単にアトラクションの専売特許ではないというわけだ。

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写真提供:@maumaumauseさん、@d_cit_ronさん(「ソアリン〜」は筆者撮影)

「ポルト・パラディーゾ・ウォーターカーニバル」の公演は2001年から2006年の間。代わって登場した「レジェンド・オブ・ミシカ」は同年から2015年まで。2019年の夏に「ソアリン:ファンタスティック・フライト」がオープンしている。
それぞれのポスターの展示時期は完全にずれていて、同時に展示されることはあり得なかったと言えるが、いずれも「メディテレーニアンハーバー」という同一のエリアで公演されたショー(オープンしたアトラクション)であるからして、やはり同様のフォントが使用されている。

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写真提供:@maumaumauseさん、@d_cit_ronさん(「ソアリン〜」は筆者撮影)

ここで我々は、東京ディズニーシーのポスターが(過去の同エリアのポスターではなくあくまで)それぞれのテーマエリアに基づいているということを確認できる。そして、トゥモローランドの例を思い出してもらえれば、これこそ東京ディズニーシーのやり方なのだと言えるのではないだろうか。

2 ポートディスカバリー

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ポートディスカバリーの「ニモ&フレンズ・シーライダー」と「アクアトピア」という二つのアトラクション。上の二つのポスターは、東京ディズニーシーのエントランスの他に、ポートディスカバリーのエリア内にも展示されている(引用しているのは後者)。

このポートディスカバリーは東京ディズニーシーのエリア名であると同時に、ストーリー上の架空の組織名でもある。エントランスに飾られているのを見るとこれは確かに「テーマパークのアトラクション」であるのに、他方でエリア内に飾られていると、さながら「研究施設のパビリオン」のような雰囲気を持っている。このエリア専用にデザインされた額には、PDというロゴマークが入っている。
ここで、二つのポスターの公報対象はそれぞれのアトラクションであると同時にポートディスカバリーそのものであることを確認したい。ポスター下部のデザインは東京ディズニーランドと同様の並びでこそあるが、フォントは統一されている。東京ディズニーシーのポスターの在り方を踏まえると、テーマエリア内に設置されたポスターが生き生きとする例もあるというわけだ。

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ポスターが語る「テーマパーク体験」

さて、21世紀以降のトゥモローランドのポスターから「ポスターの定義」あるいは「物差し」を見つけ出すことに成功し、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーのポスターにはどのような立場の違いがあるのかを見てきた。その結果、東京ディズニーランドのポスターはアトラクション単位、東京ディズニーシーのポスターはテーマポート単位でポスターが公報対象と見ていることを確認した。

以上を敷衍して、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーのピントの差異を導き出すことができるだろう。

これまでも様々な記事で触れたように──あるいは読者諸氏もどこかしらで悟ったかもしれないが──、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーのテーマエリアには決定的な違いがあると言える。

(前略)ウォルトは、それぞれの施設には物語をつけようということを言い始めます。それぞれの施設にはそれぞれの「テーマ」があるということです。これが「テーマパーク」です。
そこでは、それぞれの施設の物語同士がごちゃごちゃ混ざってしまう可能性があるので、近しい物語の施設は近くに置こうねということになります。確かに、ラブロマンスをみていたら突然拳銃を持ったおじさんが出てきてドンパチするというのは嫌ですし、スペインが舞台の作品で窓を開けたら突然中国につながっていたりしたら困ります。これがいわゆる「テーマエリア」という概念に繋がっています。似たような舞台やテーマの物語を集めて、建物を融通させることで、それぞれの施設が調和するようにしているわけです。

はじめての痛快ディズニーランド入門─四つの誤解とその答え|TamifuruD(たみふるD)|note

ディズニーのテーマパークにおいて、すべてのアトラクションやショップ、レストランにはテーマが付与されている。そして、それに基づいてストーリーが語られ、客は施設を体験する間にその物語を目の当たりにしていく。

パークは7つのテーマランドからなり、それぞれのテーマに沿ったアトラクションやエンターテイメントをラインナップ。(中略)
ディズニーの仲間たちと一緒に、東京ディズニーランドで素敵な思い出をつくりましょう。

【公式】7つのテーマランド | 東京ディズニーリゾート

東京ディズニーランドの場合は、アドベンチャーランドだのファンタジーランドだの、多くの場合は特定のジャンルや思想へアプローチしたいわゆる「思想の立体化」に直接的に基づいている(もちろん、ワールドバザールやウエスタンランドのような具体的地名と年代を得ているエリアもある)。正に「それぞれのテーマに沿った」ものを「ラインナップ」して取り揃えているわけだ。
以上に引用したページでも、アドベンチャーランドは「冒険とロマンの世界」、ファンタジーランドは「夢がかなうおとぎの国」とのお触れである。トゥモローランドも「ひとあし先に人類の夢を実現したこの都市」とされているが、最後には「この世界」と呼ばれている。施設各位が個別的な舞台・広がりのある地理を持っており、テーマエリアはそれらを繋ぎ止めるメタ世界であると考えるのが自然だろう。

海にまつわる物語、伝説からインスピレーションを得たこのパークには、冒険とイマジネーションにあふれる個性豊かな7つのテーマポートがあります。

【公式】7つのテーマポート | 東京ディズニーリゾート

他方、東京ディズニーシーは、それぞれのエリアに具体的年代と場所を設定し、「ポルト・パラディーゾ・ウォーターカーニバル」が語るような統一的な建国神話を信奉して生活共同体の体裁を取る。メディテレーニアンハーバーなら、ザンビーニ家という大地主がそれぞれのアトラクションやレストランに登場したり、ダニエラ姫というお姫様の伝説がたびたび引用されたりする。

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FRATELLI ZAMBINI「ザンビーニ兄弟」

アトラクション、レストラン、ショップは、共通の人物や事象を融通して把握しているというわけである。テーマエリア自体が共通した地理的共通性を持っていて、東京ディズニーランドのテーマランドのようなメタ世界ではなく、あくまで「世界」として存在している。
右上は「イル・ポスティーノ・ステーショナリー」という郵便局で、テーマパーク風に言えば文具やポストカードなどのお土産を扱っているショップだ。右下は「カフェ・ポルトフィーノ」というレストランの近くで撮影されたもの。左下は「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」の船着場で、ザンビーニ家が船舶を使用して世界中に商品展開している様子が想像できる。そして中央が「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」というお膝元である。
この繋がりは時にエリア間すらも超えてしまう。例えば、紹介した画像はすべてメディテレーニアンハーバーで撮影したが、左上のみアメリカンウォーターフロントのレストラン「ニューヨーク・デリ」だ。

他の例を見ても、ロストリバーデルタは1930年代の中央アメリカが舞台であり、この名称は現地のスペイン語でエル・リオ・ペルディードという。半世紀前に竜巻が晴れたことで発見された「失われた川」がそのままエリア名になっているのである。独自のロゴマークを持つポートディスカバリーやミステリアスアイランドは言うまでもないだろう。

第一回▶︎『一日の計はポスターにあり【ディズニーランドの入り口で①】』
第二回▶︎『現代にポスターは必要か?【ディズニーランドの入り口で②】』

参考文献

特記のないもののみ記載。

Intercultural Development Inventory"The Intercultural Development Continuum (IDC™) | Intercultural Development Inventory | IDI, LLC"
石井晴子『平成 28 年度「世界青年の船」事業 参加青年異文化感受性発達調査』──IDC各ステージの訳語として

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