大寺花子

ロック・バランシングをやりたい。日記を兼ねて、その日のできごとを文章に起こしています

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最近の記事

20240409 桜の鱗

 仕方なく暴風雨の中、透明のビニール傘をさして外に出た。アパートの階段を降りたところで傘を開こうとすると、風が傘の身体を押さえつけた。ちょうど開ききったところで今度は反対方向から風が来て、傘の骨はばりばりと音を立てて折れてしまった。思わずひゃあという呻き声を出してしまったが、なんとか自分の上半身とカメラをビニールの膜の中に入れて一歩ずつ歩いて行った。  桜並木の下のアスファルトが雨でべったりと濡れていて、そこに真上から降り注いだ桜の花弁が敷き詰められたかのように張り付いていた

    • 20240403 頭蓋骨、ポストの宇宙

       11時に予約していた美容室に行った。洗面台に重たい頭を預けて初めてヘッドスパをしてもらったら、「こんなに硬いとは」と言われて「何がですか…」と聞くと「指が入っていかない」と、頭皮が凝り固まっているらしかった。頭上には桜が咲いていて、冷たい雨も降っていた。傘を広げ、気持ちよさの余韻を味わいつつ隣の郵便局に入ってゆうパケットポストminiという規格の封筒を20円で購入した。メルカリに出品した、ソフトドリンクを運ぶトラックのミニカーが売れたので彼を封筒に入れて名前も住んでいる場所

      • 20240401 幽霊を待つ人

         頭上に走るモノレールの線路を辿って、立川駅から多摩川まで歩いた。多摩川の上に架かっている巨大な橋をカップルが渡っていて、彼氏氏は鮮やかな緑色のコンバースを履いていた。そのふたりの進む方向に垂直に川に沿って歩き始めたのだが、その道は少し高くなっていて道の両側を見下ろすことができた。右側にはもちろん川があった。左側では、コンクリートの壁に向かって1人でテニスのような、何かスポーツの練習をしている人がいた。それからトタン板でできた即席の建物のようなものもちらほら建っていた。ときど

        • 20240318 紫色の風

           前日の夜から、台風を思い出させる強風が窓を叩き続けていた。朝になっても風の音は鳴り止まなかった。窓の外を見ると台風のときのように天気が悪いわけではなく、むしろ風が雲をすべて吹き飛ばしてしまったのかもしれない晴天が広がっていた。街路樹が大きくしなって乾いた音を立てていた。  外に出ると、見えないけれど風は塊になって身体にぶつかってくる感じがした。たとえば、僕の頭の右上のほうにある風が僕を見つけ、周りの風を集めてきて塊を作り、腰のあたりを狙ってものすごいスピードで攻撃してきたよ

        20240409 桜の鱗

          20240316 レシピ

           大学のライブラリで増村保造の「盲獣」を見たあと(ライブラリは明日からまた閉まってしまう)、ロッカーの荷物を処分されないように引き取って、散歩する犬のようなスピードで自転車を漕いだ。帰りついたあと、あたたかくて眠たくなる午後の気候が夕焼けに変わっていく時間帯に再び家を出た。スーパーに行く。風が涼しくて、ベランダに干した洗濯物がよく乾いてくれそうだと思った。レシピを教えてくれたサイトを開けばそれが買い物リストの代わりになるだろうけれども、買い物リストは手で書かないと可愛くないで

          20240316 レシピ

          20240315 覆い隠す

           教室の整備をする学内のアルバイトで、今日は部屋の床をすべて白いシートで覆い、養生テープで留めるという作業をする日だった。部屋の角から順に、床がまったく見えなくなるまで隙間なくシートを覆いかぶせていった。シートの上にあがるときは足跡がついてしまわないようにビニールの保護袋を靴にかぶせた。部屋は一面真っ白で、人の輪郭が際立ち、目が眩みそうだった。  シートをぶわりと広げているとき、ケミカルな匂いを吸い込んで気づいた。その部屋にあるすべてのものは何かに覆われているのだ。運ばれてき

          20240315 覆い隠す

          20240306 隙間の街

           高円寺にある古い文房具屋を出たあと、歩いて中野まで行ってみることにした。中央線の一駅分の距離はどのくらいなのかと思ってルートを検索してみると、徒歩20分という結果が表示された。日はすでに沈んで空もほとんど黒くなっていたが、高円寺駅から頭上に伸びる線路を辿っていくだけで着くことができそうだった。  歩くことで、高円寺から中野へと街の空気が移り変わっていくのがわかった。電車が線路の上を通り過ぎるときには、音が響き、建物のあいだから線になった光が迸っていた。けれどその高架下は暗く

          20240306 隙間の街

          20240302 春の音

           鹿児島への帰省から戻ってくると、隣のアパートが一面、灰色のシートのようなもので覆われていた。なんだろうと思っていたが、そのシートの裏側ではすでに建物の取り壊しが始まっていた。ある朝、外につながる換気扇を通してショベルカーの駆動する音が聞こえてきたのだ。そのアパートはもはや跡形もなく消え去ってしまって、土が露出し、さらりとした何もない空間に変わった。   自転車を漕ぐと、どこか生臭さに似た春のにおいが鼻に入ってきた。でもきょうは日の光もまばらで、気温も2桁になることがなく風が

          20240302 春の音

          20240227 息

           映画を見終えて、ふたたび強風の吹き荒れる建物の外へ踏み出した。トートバッグから自転車の鍵を取り出したり、パスケースから駐車券を取り出したりするときにほとんど指先の感覚だけで自分の身体が動いていることに気づいた。信号を待つあいだに手袋を片手づつはめると、その感覚は鈍くなり、手袋のぶんだけ増した皮膚の厚みと、そこにこもる熱を感じるようになった。風はなおも吹き荒れているけれど、建物のあいだに入ると一瞬だけ弱まったり、方向が変わったりする。それだけ風に敏感になっている。  帰り着い

          20240219 移動する空気

           富山・高岡・金沢行きの深夜バスに乗る。出発を待つまでのあいだ、新宿には雨が降っていた。路面が濡れて、たっぷりと量を増した光が風景を満たし取り囲んでいる。夜明けの景色が見られるだろうか、などいろいろな疑問と興奮が湧いてきた。バス全体が振動し始め、照明が消えると、外からの光が時折カーテンの隙間から入ってきた。いちばん後ろの席から見える人々はみんな静かで、通路に放り出された足や手が見えていた。 〈高尾山〉  高尾山に登ったときのことを思い出してみる。小雨が降り木々のあいだを霧

          20240219 移動する空気

          20240216 誰かの場所

           写真展のチケットを渡すために、川口さんにあった。東浦和駅でピックアップしてもらい、川口さんが息抜きに散歩するという川縁の道にまず案内してもらった。日はほとんど沈んでいた。歩く方向の右後ろには燃えるようなオレンジ色の空があり、前方では仄かに青く光る空が視界を覆っていた。川が増水したときのために溜池がつくられていて、その向こうに町の明かりが見え、電車の走る音が聞こえた。川口さんの言った通り、この川の上空は飛行機の空路であるようだった。ひっきりなしに飛行機が空を掠めていった。そう

          20240216 誰かの場所

          20240126 誕生日

           誕生日が同じともだちがいる。同じ電車の車両の中に自分と誕生日が同じ人物が居合わせる確率はそこそこ高いらしい、という話を父から聞かされたことがあるのだがぼくは今まで彼にしか会ったことがない。  その彼といつものように会い、新しい気分で鹿児島を歩くことにした。生まれてから昨年までずっと過ごしてきた土地なのに、おもしろいことに、鹿児島がとても新しく感じられた。とても澄んだ空気に包まれた、あたたかくユーモラスな街だった。歩道橋の上からは雪を冠った桜島が見え、見下ろすと車や路面電車が

          20240126 誕生日

          1223,終わりを待つ

           「待つ」という行動をどうやったら説明できるか、という昨夜立ちあがってきた疑問の答えかもしれないことばが、朝起きたとき、ふと浮かんできた。それは「死なないでいること」ということばだった。死なない限り、誰でもいつでも何かを待っている状態にある。ごはんとか、眠りにつく瞬間とか、誰かが帰ってくることとか、死ぬことなど、挙げていくとキリがない。というより、すべてのことは待たれているのかもしれない、と思った。目を覚まして、計画していた通り、Mと朝マックを食べるために部屋を出た。とても寒

          1223,終わりを待つ

          1203-1221,つくった顔とそれを置き去るまでのことについて

           12月16日、1年次の必修授業が終わりを迎えた。モデルを見て粘土でそれを見たままに形作っていく塑像と、それを石膏で型取りし置き換えてからの彫刻の作業が、週6日×3週間続いた。自分の認識が、そのままかたちになって目の前にできあがってくる。顔になったり、かたまりになったり、また顔になったり、そんなことを繰り返していると地層のように次第に分厚くなって、ひとまわり大きくなった。  石膏を型取る作業で予想以上の体力を消耗したのは、石膏が、粘土よりも自分に抵抗している感じがあったから

          1203-1221,つくった顔とそれを置き去るまでのことについて

          1202,見えない顔

           モデルさんを見ながら初めて顔のパーツをつくっていく。自分の手で顔がどんどん変わっていくというのがおもしろい。先生がひとりづつを見て回って、わたしの頭部は「ビデオドローム」みたいに前後に引き延ばされたプロポーションになってしまっている、と言われた。そこから躊躇せずプロポーションを合わせることに集中した。顔の側面からへらで切り込みを入れて、顔面を剥ぎとった。またのっぺらぼうのようなすがたである。  「妻は告白する」に引き続き増村保造の作品「刺青(いれずみ)」を鑑賞。カメラワー

          1202,見えない顔

          1201,渋滞予報

           昨日休んでいた友人が今日は来ていて、久しぶりに風邪をひいたのだがそれによってすごく生きていることを実感した、という話を聞いた。さいきん、ずっと幽体離脱しているような感覚の状態だったという。わたしは、皮膚が崩れていく過程で、彼とは反対に身体が遊離していくような感じを覚えていたので、そのことを話した。話しながら粘土槽のある場所まで歩いて、シャベルでその冷たい塊を持ち上げ、教室にもって帰った。  夜、炊き込みご飯が炊き上がるまでの時間にさつまいもを熱して、スイートポテトをつくっ

          1201,渋滞予報