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20240219 移動する空気

 富山・高岡・金沢行きの深夜バスに乗る。出発を待つまでのあいだ、新宿には雨が降っていた。路面が濡れて、たっぷりと量を増した光が風景を満たし取り囲んでいる。夜明けの景色が見られるだろうか、などいろいろな疑問と興奮が湧いてきた。バス全体が振動し始め、照明が消えると、外からの光が時折カーテンの隙間から入ってきた。いちばん後ろの席から見える人々はみんな静かで、通路に放り出された足や手が見えていた。

〈高尾山〉

 高尾山に登ったときのことを思い出してみる。小雨が降り木々のあいだを霧が漂っていた。サンドイッチを入れた紙袋が湿気でかたちを失っていくなか、ぼくたちはいつ山頂が目の前にあらわれるのか、半ば気力を無くしかけそうになりつつも歩いた。
 山頂には雨が降っているにもかかわらずたくさんの家族や友人どうしやカップルがいた。遠くの山々を望むと霧で稜線が見え隠れするのがわかった。空気が動いているのが感じられた。写真を何枚か撮影し、屋根の下のベンチが濡れていないことを確認して、そこでサンドイッチをたべた。

〈休憩〉

 脚の痺れが眠りを妨げていた。青いランプが点灯し、一つ目の休憩地点に到着したことがわかった。寝惚け眼でバスの外に出るとまた小雨が降っているのがわかった。周囲に停車しているおびただしい数のトラックの音、駐車場を照らす奇妙にみどりがかった光のせいで、外は異質な空気をまとっているようにみえた。首に下げた「休憩カード」と車両のナンバーを照らしあわせてバスの中に戻り、暗闇の中にふたたび座って次の出発を待った。

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