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20240409 桜の鱗

 仕方なく暴風雨の中、透明のビニール傘をさして外に出た。アパートの階段を降りたところで傘を開こうとすると、風が傘の身体を押さえつけた。ちょうど開ききったところで今度は反対方向から風が来て、傘の骨はばりばりと音を立てて折れてしまった。思わずひゃあという呻き声を出してしまったが、なんとか自分の上半身とカメラをビニールの膜の中に入れて一歩ずつ歩いて行った。
 桜並木の下のアスファルトが雨でべったりと濡れていて、そこに真上から降り注いだ桜の花弁が敷き詰められたかのように張り付いていた。雪が降ったあとの光景に似ていたが、雪のような厚みとか質量は感じられず、ただ薄く白い膜で道路が覆われているという感じだった。しゃがんでじっくりと見ると、一枚一枚の花弁が無数に並べられている様子が魚の鱗を思い出させて、グロテスクですらあった(漁協で職業体験をした中学生のときのことも思い出す)。けれど花になって木を覆っているお花見のときの桜とはまったくちがう美しさがあった。優しい春の風に散る情景ともちがう。花弁のひとつひとつが、暴風によって飛び散らされ、凄まじいエネルギーとともに銀河や宇宙を構成し始めるイメージ。

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