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20240306 隙間の街

 高円寺にある古い文房具屋を出たあと、歩いて中野まで行ってみることにした。中央線の一駅分の距離はどのくらいなのかと思ってルートを検索してみると、徒歩20分という結果が表示された。日はすでに沈んで空もほとんど黒くなっていたが、高円寺駅から頭上に伸びる線路を辿っていくだけで着くことができそうだった。
 歩くことで、高円寺から中野へと街の空気が移り変わっていくのがわかった。電車が線路の上を通り過ぎるときには、音が響き、建物のあいだから線になった光が迸っていた。けれどその高架下は暗く湿っていて、闇が凝縮されている感じがした。高層ビルが見えるようになってきたあたりで、ふいに現れた線路の上の歩道橋を渡ると、いつの間にか頭上にあった線路は自分の足の下に潜ってしまった。もうすぐ中野だった。

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