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私が使っている「映画の本質の見抜き方」はけっこう便利で楽しいですよ

私は映画の本質に考えを巡らせるのが大好きです。

「本質」なんて
仰々しい言葉を使ってしまいましたが
もう少しゆるく、ここでは
「映画を作った人の一番表したかったこと」
くらいに捉えて頂ければと思います。

それ自体に客観的な答えはありませんし
映画の完成度がそれによって左右される、
とも考えてないのです。

ただ、映画鑑賞する際の
遊び方の一つとして。

個人的に映画さんぽをするときの
一つの楽しい道しるべとして
使っている方法をご紹介できればと思います。


映画の本質の見抜き方


監督が最も表現したいものを
見つけるには、

冒頭、
一番最初のワンカットを熟視することです。

私が師匠と仰ぐ山野博史先生から
教えてもらったことになりますが、
「物事の始まりは何より大事ですよ」と。

小説の1行目、漫画の1コマ目、
音楽の1小節目、講義の一言目。

演劇が始まって最初に起こることや
美術館で最初に目に入るもの、
料理のフルコースの1品目まで、
大事なものは最初に持ってくるものです。

映画においては、
現実から虚構へ足を踏み入れるとき、
そこに何を置くのか。
物語全体がある程度、定義される。

ワンカット目がそのまま、
本質に直結していることもあれば、
その片鱗を仄めかしていることもあります。

冒頭ワンカットをうっすら頭の隅に置きつつ
展開される物語のなかに
ゆるやかな繋がりを見出しいく。

そうしておぼろげに浮かび上がってくる本質を
にやにやしながら愛でる。

私の映画の楽しみ方です。

あなたが映画に関わらず、
何か表現や作品を楽しむときの
ご参考になれれば幸いです。

では具体的にどんな楽しみ方をしているのか?
名作映画で見ていきましょう。

「レオン」の冒頭

黒の背景に
オープニングクレジットが映ったあと、

©️Les Films du Dauphin

主要キャストの名前と一緒に
空撮で海から森、ニューヨークの街へ
舐めるように、まあまあの速度で
滑空しながら映されます。

©️Les Films du Dauphin

タイトルが消えたあとも
しばらくは飛んでいる鳥の視点。
BGMの題目は「A Bird In New York」。

何かが空から舞い降りてきたところから、
映画が始まる。ここまでワンカット。

この後、ニューヨークの街並みを
滑るように移動して、
イタリア料理店に入っていく。

暗がりを抜けると、ミルクの入ったグラス。
サングラスをかけたレオンの顔を
どアップで映すのです。

ここまで見たところで私は
「天にいる何かが主人公に向かって
降りてきた。何かをもたらすためかな?」

みたいに考えました。

そして登場するのが、

©️Les Films du Dauphin

足を宙に浮かせた
マチルダです。

©️Les Films du Dauphin

うつむき気味に視線は下を向いている。

天から降りてきたのは彼女かな。

映画が進むと、高いところから下界を
見下ろしているシーンが多いし
レオンに抱きしめられたときは
また足が宙に浮いているカットを
やや長めに入れてくる。

レオンは彼女と出会って、
なにをもたらされたのか?
殺しを稼業にしている男に
愛を?友情を?慈しみを?

天使っぽいなあ。

それで考えをまとめたのが
↓の記事になりました。

そしてラストでは

レオンの友達を地に埋めて
何かが空に戻っていく。

バックでは
「Shape of My Heart」が流れる。

ニューヨークを向こう岸にして
空撮に移っていくところは
見事にオープニングと対になっている。

天使が地球に降りてきた代わりに
一人の男が天に昇った。

・・・
こんな具合に、
冒頭のワンカットから
全体をふんわり繋げてみて
浮かび上がってくるものを眺めて
楽しんでいるのです。

「グリーンマイル」の冒頭

©️Warner Bros.GAGA

「グリーンマイル」の冒頭では、
鬱蒼とする茂みの中を
大勢の男が各々武器を手に持って
右から左へ歩いていくところから始まります。

©️Warner Bros.GAGA

不穏な効果音が流れ続け
一人の男が手がかりらしきものを見つけて
何かを叫ぶ。

武器を持った男たちは進み続け
徐々に暗転したあと

©️Warner Bros.GAGA

名前が大声で叫ばれて
タイトルが映される。ここまでワンカット。

グリーンマイルは、年老いた主人公が
友人に回想を語るという形式で
物語が進められます。

どうしてわざわざ、
冒頭にこのカットを挟み込んだのか?

やけに暴力的な人たちが
大勢、一つの方向へ向かって進む。
大きな流れのように見える。
ここで何を見つけた?何をした?

このあたりがテーマかな?と
続きを鑑賞していく。

映画の本編である
死刑囚の収容所の話が始まり

「死刑制度」を取り囲む
人びとの考え方があらゆる角度から
描写されていく。

©️Warner Bros.GAGA

中心になってくるのは、
大きくて優しい男、ジョン・コーフィー。

命を蘇らせる能力を持った彼が「死刑」になる。

冒頭の武器を持った男たちが見つけたのは
彼が死んだ子供を抱えて泣き叫ぶところだった。

やけに暴力的な人たちが彼を死刑台に送った。
「正義」をまっとうするために。

その流れは大勢が同意していて
社会制度もそれを支持する。

本当は命を救う優しい男なのに。

暴力的な男たち大勢を冒頭に映して
私たちに強調させたのは
その危うさを知らせるため?

そんな危険な制度に
立ち向かう看守たちのお話?

考えをめぐらせて
文章にまとめてみたのが↓の記事です。

晴れ。さんよりリクエストを頂き、
ずっと前に見た本作を見返した時
冒頭が印象的だったので
それをもとに想像を膨らませてみました。

ラストでは、
その暴力性がいみじくも結実してしまって
単純な感動ではない、
胸をえぐられるような着地でした。

本作のように、物語中盤のシーンを
あえて冒頭に持ってきているパターンがあります。
なぜあえて最初に?
なにを強調したい?と考えを巡らせるのが
すごく楽しいのです。

・・・
あっ。
好きな映画の話になると
つい長々と語ってしまっていました。

以下は早足で、冒頭ワンカットの
楽しみ方をご紹介します。あと2作。

「ゴッド・ファーザー」の冒頭


©️Paramount Pictures

真っ暗な画面の中で男のセリフだけが響く。

ドン・コルレオーネに
娘の復讐をお願いする男の語りで、
本筋とは関係のない
「アメリカはいい国です」が最初。

なぜアメリカを褒めるところから始まる?

ゴッドファーザーであるドンは
イタリアからの移民。

祖国で実現できなかった家族の形を
自由の国へ移ってきたことで
どんな家族を作ろうとしたのか?
その末路は?という物語だと捉えました。

いわゆる普通のマフィア映画なら
こんなセリフが冒頭にくるか?と。

「アメリカはいい国」というのを発端に
マフィアが暴力的に成し遂げたいこととは
なんだったのか?と見続けました。

すると、
アメリカらしさがふんだんに盛り込まれ、
布石、伏線、状況説明が凝縮された
圧倒的な情報量の冒頭27分に感動したのです。

その美しさを記事にまとめました。


「メッセージ」の冒頭


SF映画の大作、「メッセージ」では

©️Sony Pictures Entertainment Inc

暗い部屋の天井を見上げるところから
窓の方へ見下ろしていくのが冒頭ワンカット。

物語が進められながら、
何度も挟み込まれた回想シーンは
実は未来のことだったとわかる。

宇宙人と出会ってから、
時間の概念が変わって
過去と未来が交錯し始めるのが
本作の面白いところでした。

あの「天井」はなんだったんだ?
と物語を見続けていると
ラスト付近に冒頭と全く同じシーンが
現れてきました。

©️Sony Pictures Entertainment Inc

映画自体が円環する構造だったとわかる。

過去、現在、未来という時間軸を
順番に縛られず一気に把握できるようになった
主人公と同じような観点が得られる工夫だった。

すごいと思ったのは、
その円環の締め、
同じ「天井」が差し込まれたのは
最後の最後ではなく、
ラストから数分前という点。

最初と最後が同じ映像で
円環の物語でした!ではない。

円環が閉じられてから、
繰り返しの渦中から一歩踏み出して
主人公が下した運命に対する決断。

あえて完全な円環構造にするのではなく、
その先まで描いた。

冒頭ワンカットを覚えておくことで
物語構造を俯瞰できた上に
なぜラスト直前に円環を閉じたのかがわかる。

そのあたりを出発点に
本作を掘り下げた記事がこちらです。


まとめ

比較的わかりやすい
映画の冒頭ワンカットをご紹介しました。

いかがだったでしょうか?

映画を散歩するみたいに楽しむと掲げて
記事を書いて参りましたが
これは私の大事な「地図」のひとつです。

全く知らない新しい土地を
地図を持たず冒険するみたいに
歩んでいく、というのもひとつの楽しみ。

宇宙人と出会ったときみたいに
未知の価値観に触れてみる楽しみ。

ここに、お宝が眠ってるかもよ?
というわずかな手がかりが記された地図を携えて、
あえてふんわり引き寄せられにいってみる。

そんな楽しみ方のご提案でした。

映画は自由だ。

あなたの大切な映画の冒頭ワンカットには
どんな宝物が潜んでいるのでしょう?


お読み頂き
ありがとうございました。

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