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映画「ゴッドファーザー」の本当の美しさをお伝えしたいんです。

ゴッドファーザー(Godfather)とは
カトリックにおいて
洗礼式に立ち会う代父母のことだそうです。
同時に「名付け親」のことでもある。

マフィア映画といば本作を思い浮かべる方も
多いのではないでしょうか?

今回、リクエストを頂きまして、
U-NEXTにて見直してきました。

・・・自分がこれまで
1回しか見てなかったことを悔やんでしまいました。

圧倒的に美しい。

映像が、というのもありますが、
物語の論理構造と
それを伝える画面の使い方が
素晴らしいんです。

冒頭の27分間は
ドン・コルレオーネの娘、
コニーの結婚式の様子が映されます。

この27分間で、
ファミリーの相関関係と
ゴッドファーザーの行動原理、
物語全体のアウトラインを
鮮やかに示している。

ストーリーのほとんどを
凝縮していると言っていいと思います。

さらに、一番最初の長めのカット、
葬儀屋の男がドンに懇願するシーンには
より圧縮した要素が描き出されている。

このカットを詳しく見るだけで、
本作のエッセンスを把握できるので

まずは冒頭のシーン(約7分間)に焦点を当てて
本作の魅力を浮き彫りにしていこうと思います。

凝縮された冒頭ワンカット

映画が始まり
配給ロゴとタイトルが消えたあと
しばらく真っ暗な画面が続き
「アメリカはいい国です」というセリフから幕を開けます。

「この国で財産もできたし、
娘もアメリカ風に育てました。」

©️Paramount Pictures

婚礼服を着た男の一人語りが続きます。
少し長いですが、ほぼそのまま引用します。

「2ヶ月ほど前、娘は恋人と
その男の友達とドライブにいったんですが
ウィスキーを飲ませて、酔わせて
良からぬことをしようとしたんです。
娘は抵抗した。操を守ったんです。
すると男どもは散々に殴った。」

この間、カメラはゆーっくりズームアウトしていっていて
男が語りかけている相手の後頭部の一部が
左からフレームインしてきます。

男は続けます。

「病院にかけつけてみると
鼻は潰れているは、顎は砕けているわで
針金でやっと繋げている状態で
娘は痛さで泣くこともできない。
でも私は泣きました。
娘は私の生き甲斐です。
綺麗な子でした。
それがもう見る影もないんだ。」

ここで男は泣き出す。

それを見て、
手前の人物は右手で合図を送り、

©️Paramount Pictures

部下が飲み物を促す。

©️Paramount Pictures

男はウィスキーを一口すすり、続けます。

「それで、警察に行ったんです。
善良な市民として。
男二人は裁判にかけられ、
執行猶予がついたんです。
その日に奴らは自由の身ですよ。
私をあざ笑っていました。
だから女房に行ったんです。
正義のためにドン・コルレオーネの
ところへ行こうって。」

ここで話を聞いていたのが
ドン・コルレオーネだったことがわかります。

ドンは、
「なぜ初めから私のところへ来なかったのかね?」

男は、
「どうしたらいんでしょう。
なんでも言ってください。
願いを聞いて欲しいんです。」

「どんなことだ?」

男はドンに歩み寄り、耳打ちする。(内容は聞こえない)。

©️Paramount Pictures

ここまで、
冒頭からノーカット、長回し。

初めてカットが変わると

©️Paramount Pictures

ドンの不機嫌そうな顔が映されます。

長めの引用になってしまいましたが、
このカットで本作の重要な要素が多く含まれています。

まずドンの役回り。
警察が叶えてくれなかった願いを
これまで解決してきたということがわかる。

涙する男へ飲み物を促すことで
慈悲があることも示される。

しかもそれが、右手をわずかに動作させることで
「手下を動かし」おこなった、
というのもこの物語の大事な要素。

会話をしている際の距離感にも意味があって
男とドンとの心理的位置付けも、
大事な言葉を伝える耳打ちのときにだけ
グッと近くなっている。

以上の情報を、臨場感をもって
ワンカット、一画面で示す監督の手腕。
脱帽です。

ゴッドファーザー=名付け親



さらに凝縮された情報が続きます。

耳打ちされた後、ドンは

「それはできん。
あんたと知り合って長いが、
相談や頼みごとは今度が初めてだ。
最後に招かれたのはいつだったかな?
ウチの家内がお宅の子の名付け親なのに。
あんたは私の友情を退けた。
それが今になって駆け込んで、正義を、か。
ゴッドファーザーと呼ぶ気もない
敬意
を評したわけでもない。
それで金を払うから人を殺してくれって?」

「名付け親」というキーワード。
本作のタイトル「ゴッドファーザー」の本来の意味です。

この後も、ドンは自分が「名付け親」であるから
相手を親子同然の繋がりとして扱い、
それを「家族を守る」というモチベーションに転化し
マフィアとしての振る舞いを決めていく。

この後、名付け子である
歌手で俳優のジョニーがやってくるのですが、
落ち目の自分が返り咲くため、
とある戦争映画の主役を取りたいという願いも
ドンは聞き入れ、脅すために馬の首まで切り落とします。

それから
「ゴッドファーザーと呼ぶ気もない」点について。
ドンは、事あるごとに忠誠、敬意、友情
自分に向けられているかを見極めます。

その基準によって、願い事を聞くかどうか、
ファミリーに近づかせるかどうかを判断していく。
マフィアの行動規範そのものですね。

そして最後の
「金を払うから人を殺してくれって?」
の部分は、ドンの「正義」についてが語られています。
本作では、ドンが直接殺しの命令を下したことは
一度もありません。

この場面でも、
「娘さんは殺されたのか?」
「いえ、では痛めつけてください」
というところに落とし込んでいる。

暴力は使うが「思い知らせる」ところで留めさせる。

そこには、ドンの確固たる倫理基準が働いていて
本作で重要な、ファミリーの
「権力の維持」と深く関わってくる。

友人として


「いかほどお出しすれば…」

男は復讐の金額を尋ねる。

ドンは呆れた様子で椅子から立ち上がり、

「私が何をしたからそこまで軽く見られるのだ?
友人として頼まれれば、今日にも
その碌でなしどもを叩きのめしてやれるものを。
あんたのような正直者の敵になるやつは
私にとっても敵だからだ。思い知らせもしよう。」

男は、
「友として。ゴッドファーザー」と言って
ドンの手に口づけをする。

ドンは、
「よろしい。
いずれ、私の方からも頼みごとをするかもしれんからな。」

©️Paramount Pictures

「ありがとうございます」
と言って男は部屋から出ていく。

ドンは手下に、
「この仕事はあいつがいいだろう。
クレメンザ。やりすぎるということはないからな。
人殺しはいかん。あの男がなんと言おうとな。」
と言って、胸元に刺さったバラの匂いを嗅ぐ。

・・・ここまでが冒頭のワンシーンです。

金額の相談を跳ね除けて
「友人」として、娘の復讐をやってあげる。

さきほどお伝えした、ドンの倫理基準も
さらに具体的に示され、
正直者の敵は私にとっても敵。

男が友人として、敬意を表してはじめて
頼まれごとを引き受ける。
やりすぎることのないよう注意をしつつ。

暗い部屋と婚礼パーティ


冒頭のたった7分で、ドンの人間性と
ファミリーの権力維持の要諦を
説明しきったわけですが、
続く20分間で結婚祝いのシーンを通じて
今度はファミリーにまつわる相関関係を
明らかにします。

同時に、この物語の持つ
ある大きな対立構造も浮き彫りになっていく。

さきほど見て頂いた、
暗くて緊張感のある画面とは打って変わり
明るくて楽しい音楽が流れるご機嫌な場面が始まります。

©️Paramount Pictures

ドン一家の記念撮影から。
左から、
トム(相談役)、その妻(重なって見えない)
フレド(次男)、カルロ(コニーの夫)、
コニー(末娘)、カルメラ(ドンの妻)、ドン、
ソニー(長男)、サンドラ(ソニーの妻)。
一画面で家族を収める。

写真屋がシャッターを切ろうとしたところで、
ドンが
「マイケルは?
マイケル抜きでは写真は撮れん。
あいつが来るまで待っていよう」

本作で重要な役の
三男マイケル(アル・パチーノ)が
この段階では家族の外におり、
ドンはそれを許さない。

マイケルもこの段階では
カタギであり、裏の家業を手伝う気は無い
というところも、ここでは表されている。

楽しいダンスがしばらく映されたあと、

©️Paramount Pictures

FBIが婚礼出席者の車のナンバーを控えている。
外の人間は何かしらの情報を得ようとする。

軽快なダンスに画面は戻り、
今度は花嫁のコニーが祝儀を受け取るところ。

©️Paramount Pictures

これを見てファミリーの下っ端は
「2〜3万はあるぜ。それもキャッシュだもんな。
ま、よその婚礼じゃまず考えらねーこったよな」

カタギの婚礼との違いを示す。

次に、五大ファミリーの一角、
バルジーニのドンも出席しています。

©️Paramount Pictures

不意に撮られた写真に気づき、
手下にフィルムを奪わせるところ。
カタギに情報が漏れることを許さない。

また楽しげなダンスを移したあと、
画面は門の入り口に戻り
マスコミとFBIが車で待機している画面。

©️Paramount Pictures

長男のソニーが、
「妹の婚礼だぞ!」と怒って
記者のカメラを叩き壊す。
彼も一家の情報を外に漏らすことを許さない。
去り際にチップを2、3枚投げたところが
先ほどのバルジーニと違うところ。

画面は変わって、ドンの部屋へ。

©️Paramount Pictures

娘の恋人が強制送還されそうなので
何とかして欲しいという願いを、
めんどくさそうに受け入れるドン。

仕事を部下に振ったあと、

©️Paramount Pictures

ブラインド越しに他の出席者を確認する。
暗い部屋と明るい屋外の間には
覗ける程度の壁があることを示す。

©️Paramount Pictures

その隙間から、
マイケルと恋人のケイが来たことを確認する。

©️Paramount Pictures

ドンの見ている姿と、
マイケルと恋人のケイが楽しんでいる姿を
3回ほど画面が行き来してから、

©️Paramount Pictures

少しだけ画面は暗くなり、
マイケルとケイとの会話へ。

「あの人はだれ?」
「あの人はね・・・」
という具合に、家族を一人ひとり説明していく。

また歌やダンスを踊る人びとを映したあと、
入り口のほうで歓声が上がる。

ドンは暗い部屋から、
「なんだあの騒ぎは?」

©️Paramount Pictures

先ほどの冒頭7分のシーンでも触れた、
ドンの名付け子である俳優のジョニーが登場。

舞台に上がり、一曲披露する。
ひとしお女性たちの興奮を映したあと、

画面はまたドンの部屋に戻り、

©️Paramount Pictures

「あいつやっぱり来てくれたんだ!
はるばるカリフォルニアから!」

さきほどの客対応と一転して
表情を綻ばせ、ご機嫌のドン。

手下のトムは
「2年ぶりだ。またトラブルでしょう」
ドンは
「いいさ。名付け子だ」

ここでも、名付け親(ゴッドファーザー)であることが
重要な意味を持つことを表しています。

ドンは明るい屋外でジョニーを迎え、
暗い部屋に招き入れる。

©️Paramount Pictures

さきほどの客とは違って
ドンとの距離が心理的に近いことがわがる。

前章でも触れた通り、
落ち目の自分が返り咲くために
映画の主役を取りたいとのこと。
「なんとかしてくれ、ゴッドファーザー。」

©️Paramount Pictures

くよくよするジョニーに喝を入れるドン。

「男だろしっかりしろ!
ハリウッドは男を腑抜けにするところなのか?」

名付け親が転じて「父」になっている。
願い事を聞いてあげることだけが
本当の「父」ではない。

精神的な「父」としての役割も
ドンは確かに背負っているのです。

「家族とは会ってるのか?」
「ええ。」
「きちんと家族の面倒を見てこそ
本当の男だ。」

本当に映画の主役がもらえるのか
不安なジョニーに対して
「なに、断りきれない条件を出す」
と言い残し、パーティーへ戻っていく。

画面は先ほど撮りそびれた家族の集合写真のところ。
またシャッターが降りる瞬間、
マイケルは「ちょっと待って」

©️Paramount Pictures

恋人のケイを写真のフレーム内に引き入れる。

©️Paramount Pictures

やっと撮影できた家族写真には、
ドンの希望通りマイケルが加わり
恋人のケイも直前で引き入れ、
一家の笑顔がそこに収まった。

この後の物語をそのまま象徴してるかのようです。

そして婚礼シーンの最後は

©️Paramount Pictures

大勢の温かい笑顔に見守られ、
ドンと娘のコニーが軽やかにダンスをして締めくくられる。

・・・その舞台に大きな余白を残して。

裏と表は紙一重


以上が冒頭27分の一部始終でございます。

いかに情報が凝縮されているか
おわかり頂けたなら幸いです。

しかもそれを
自然に、説明臭くなく、鮮やかに
観客へ示していく様も。

整理させていただきます。

このシーンで、示された構造は

暗い部屋  ⇔  明るい婚礼パーティ
深刻な男たち  ⇔   楽しく踊る人びと
秘めた空間を守る人  ⇔   情報を取ろうとする外部
多額の祝儀  ⇔   そこまで集まんねー他所
男     ⇔     女、子供
名付け子  ⇔   敬意と友情を持たない人間

この区別がそのまま、

マフィア    カタギ

という住み分けになっている。

左と右を画面上で短時間に
いったりきたりすることで
その違いを際立たせると同時に、
裏社会が実は、表社会のすぐ近くにあることも示す。

凄すぎる。

もうこの時点で物語の中心部分は
表しきっていると言ってもいいくらいです。

本作の魅力は、
重厚な映像、鮮烈な暴力描写、
感動的な人間ドラマという部分も大きいですが

長らくお伝えした通り、私は
画面で示す「説明の上手さ」にあると思います。

この後に続くストーリーは、
ドンが銃撃され、息子たちが復讐し、
マフィア間の戦争に突入していくわけですが、

冒頭27分の詳しい説明のおかげで
複雑な相関関係がすっきりされて
物語に深く入り込めるようになっている。

小説でも漫画でも舞台でもなく、
「映画」だからこそ発揮できる手法を
ふんだんに使って、
観客を物語の世界に
どっぷりと引き入れることに成功した。

本作が大ヒットした要因は
そのあたりにあるのではと考えています。

この後のストーリーにつきましては
冒頭27分で示された、
ドンの行動原理と
ファミリーの人間関係と
それに含まれた伏線を
具体化していったものと言っていいくらい
構造がそのままに進んでいきます。

人殺しのシーンの前後に
クリスマスで平和な日常を挟んでいたり、
暴力描写の近くでは子供が遊んでいたり、
団欒な食事の後にすぐ残虐シーンが入ったり。

裏社会  ⇔   表社会

という構造を、上質なエンタメに混ぜ込んで
私たちに届けてくれている。

この構造を頭の片隅に置きながら
本作をご覧になっていただくと、
より深い映像体験になることでしょう。

ですので、
序盤以降のストーリーはあなたご自身で
お楽しみいただくとして
(ってか紙幅が尽きてきたので)
ラストのシーンまですっ飛びます。
ここで示した裏と表の構造が
どのように着地するのか。

閉じられた境目


恋人のケイを引き入れて
家族の集合写真に収まったマイケルは、
父の復讐のため人殺しを実行し、
カタギからマフィアの一員へ
名実ともに加わる。

戦争状態は続き、
長男のソニーが殺されたことをきっかけに
ドンは五大ファミリーを収集し
停戦の交渉へ。

1年ほどの冷却期間をイタリアで過ごした
マイケルはドンの跡取りとして
アメリカに戻ってくる。

ドン・コルレオーネが死んだあと
兄ソニーの復讐のため
ドンの倫理規範を破り、
停戦協定をも破り、
マイケルは殺し屋を使って次々と
敵対組織のボスを殺害していく。

内部の裏切り者も始末し、
妹コニーの夫、カルロまで殺す。

「名付け子」の父にも関わらず。

カルロが殺される間際、

©️Paramount Pictures

首を絞められ暴れてフロントガラスを
突き破ったカルロの左足は
最後の最後に
裏社会から逃げ出したい心象を表している。

この事件を知った
マイケルの妻、ケイは
妹の夫であり
名付け子の父のカルロを
本当に殺したのかと
マイケルに問う。

©️Paramount Pictures

「・・・本当なの?」

「・・・嘘だ」

©️Paramount Pictures

夫は家族を殺していない。

安心したケイは部屋出て、
お酒を注ぎにキッチンへ。

振り返ったケイは

©️Paramount Pictures

あちらとこちらを繋ぐ
小さな出入り口を眺め、

©️Paramount Pictures

その境目が静かに閉じられる瞬間を

©️Paramount Pictures

不安げに見送った。



まとめ

最後までお読み頂きありがとうございました。

今回は、コメントしていただいた
もちもちさんのリクエストにお応えさせて頂きました。

かなり長くなってしまい、すいません><

大好きな映画なので、
いつか記事にしようと思っていたところ、
先延ばしになっていました。

おかげさまで見直してみて、
映画の持つ表現の深みと
監督が表した論理の美しさを
再確認することができました。

この場を借りて感謝申し上げます。
ありがとうございました。

ここまでお読み頂きありがとうございました。 こちらで頂いたお気持ちは、もっと広く深く楽しく、モノ学びができるように、本の購入などに役立たせて頂いております。 あなたへ素敵なご縁が巡るよう願います。