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近所の蕎麦屋

 近所の蕎麦屋に行った。昔ながらの蕎麦屋。暖簾はかかっていなかったが、戸を引くと店の中には四人席が四つ、奥には座敷スペースがあった。隅にはテレビがあり、お昼のニ…

Takuma
5か月前

周りの変化

 月末の締め作業を済ませて、一息入れる。他の会社さんでは、若手の管理職の方が配下メンバーの勤怠表をまとめている。私もそういった管理作業をしなければならない年次で…

Takuma
5か月前

えんぴつ

 父は字を書かない。口で言うだけでそれ以上の行動はしない。メールもしない。用事がある時は電話をかけてくる。分刻みで残る着信履歴と留守番電話メッセージ。それだけで…

Takuma
5か月前

やさしくなりたい

 働きすぎ、そんなに頑張らなくて良い。周りからそう言われることが多かった私は、周りの役に立たないと意味がない、価値がないと思いながら黙々と仕事をしていた。周りの…

Takuma
3年前
2

社内報

 自社の社内報を破っている。30ページ程度の中綴じ冊子で定期的に家に届く。冊子を開くと、上役のお言葉から社員の子供の写真まで載っている。自分には縁遠い世界の出来事…

Takuma
3年前
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近所の蕎麦屋

 近所の蕎麦屋に行った。昔ながらの蕎麦屋。暖簾はかかっていなかったが、戸を引くと店の中には四人席が四つ、奥には座敷スペースがあった。隅にはテレビがあり、お昼のニュースが流れていた。お客さんは一人。お店の人は店の奥で作業しているようだった。空いている席に座り、献立表と書かれたお品書きに手を伸ばした。漢数字が並んでいる簡素な記載。子供の頃、祖母がよく出前を頼んでいたとんかつ屋のお品書きに似ていた。
 

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周りの変化

 月末の締め作業を済ませて、一息入れる。他の会社さんでは、若手の管理職の方が配下メンバーの勤怠表をまとめている。私もそういった管理作業をしなければならない年次ではあるが、ずっと上司に頼りきりである。いつかその上司もいなくなる時が来る。その際に全ての作業を受け止めることができるのだろうか。
 4月は心がザワザワする。周りの変化によって、自分も変化しなければならない恐怖を感じる。4月だけこの世からいな

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えんぴつ

 父は字を書かない。口で言うだけでそれ以上の行動はしない。メールもしない。用事がある時は電話をかけてくる。分刻みで残る着信履歴と留守番電話メッセージ。それだけで伝わる嫌な予感。いつも躊躇って、かけ直すのが遅くなる。
 そんな父が字を書くのは、他人にお金を借りるときだ。母にお金を借りるときだってそう。A4用紙に鉛筆書き。先が尖ってない鉛筆のせいか、いつも文字は太い。「YYYYMMDD 私○○は××に

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やさしくなりたい

 働きすぎ、そんなに頑張らなくて良い。周りからそう言われることが多かった私は、周りの役に立たないと意味がない、価値がないと思いながら黙々と仕事をしていた。周りの声を聞き入れたのは、精神が病んで休職してからだった。
 歳を重ねるにつれて、融通が効かなくなり、以前のように頑張ることはできなくなった。今は、周りと妥協点を決め、作業を後輩たちに依頼して、平和的に仕事を片付けている。狭い視野で作業に集中して

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社内報

 自社の社内報を破っている。30ページ程度の中綴じ冊子で定期的に家に届く。冊子を開くと、上役のお言葉から社員の子供の写真まで載っている。自分には縁遠い世界の出来事のように感じられる。そして、いつも社内報の処分に困っている。ホッチキスの芯を外して、一枚一枚バラしていく。知らない社員の子供の顔、誰かの嬉しいニュース。ハサミを入れて裁断していく。他の社員はどのように処分しているのだろうか。

 「年次が

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