えんぴつ

 父は字を書かない。口で言うだけでそれ以上の行動はしない。メールもしない。用事がある時は電話をかけてくる。分刻みで残る着信履歴と留守番電話メッセージ。それだけで伝わる嫌な予感。いつも躊躇って、かけ直すのが遅くなる。
 そんな父が字を書くのは、他人にお金を借りるときだ。母にお金を借りるときだってそう。A4用紙に鉛筆書き。先が尖ってない鉛筆のせいか、いつも文字は太い。「YYYYMMDD 私○○は××にお金を△△円借りました」的な文章から始まり、返済期限までを5、6行で書いていた。そうやって借りてきたお金のおかげで私が育ってきたわけだから、それに対しては何も言わない。私は、そういうところでしか父の字を見たことがなかった。
 家の片付けをしていると文房具が出てきた。子供の頃に使っていた鉛筆、消しゴム、ボールペン。インクがない、あるいはゴムがベタベタになったペンは捨てて、残ったペンが10本と鉛筆が4、5本。三菱鉛筆と大洋ホエールズの鉛筆。近年、マークシート形式の試験を受ける機会があり、鉛筆で解答用紙の四角を隅々まで黒く塗りつぶした。持った感じ、小さくなっても使えるところに愛着があり、たまに使っている。
 フーテンの寅さんが鉛筆を売るシーンを見て、祖父が鉛筆を削っていたことを思い出した。荒く削られて、先が太くなった鉛筆。それでも祖父は上手に暦に文字を書いていた。私も肥後守で鉛筆を削ってみようかなと思い、ネットで鉛筆削りを探してみた。いろんな種類があり、目移りしてしまい、今だに購入に至ってない。まずは生活の中で鉛筆を使う頻度をあげることから始めていきたい。


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