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宇宙開発と日常生活:私たちの生活に隠れた宇宙の恩恵

文部科学省が、ロケット開発行う民間の宇宙開発スタートアップ4社に合計63億円の補助金を出し、開発を競わせている。

'26年春までに2社に絞り、その企業に対し合計最大140億円の支援を行うという。資金提供する企業を絞るのは、限られた予算を4〜5社へ広く浅く充てるよりも、選抜した少ない企業に選択と集中で予算を当てる方が将来的に強い会社を育てることに繋がると考えているためだ。

しかし、日本の宇宙開発にかけるお金はお世辞にも高いとは言えない。

日本は2023年度(2022年の補正予算含む)の宇宙関係予算が総額で6,119億円。うち、民間の宇宙開発企業向けに割り当てられた予算は54億円。総額は前年度より上がってはいる。
では、この予算は多いのか、それとも少ないのか。アメリカと比較してみよう。

アメリカの航空宇宙局NASAでは、有人月面着陸を目的とした「アルテミス計画」というのが進行している。その離発着に使うロケットの開発を民間の宇宙開発企業から選抜されるが、選抜に選ばれた企業には多額の開発資金が送られる。これを通称、「NextSTEP(「次世代宇宙探査技術パートナーシップ」の略称)」と呼ぶ。

これにはいくつかのフェーズが設けられている。
まずフェーズ1では、アメリカ国内11社の宇宙開発企業に対し有人着陸船の研究とそのプロトタイプの開発をしてもらうため、各企業に4,550万ドル(約68億円)ずつ資金提供がなされた。
次にフェーズ2。これはさらに踏み込んだ月面への有人着陸システム(HLS) の開発を促すための段階だ。これには3社を選抜し、進捗状況を評価した上で継続して着陸戦の開発を担う企業をNASAが絞る。選ばれた企業には総額9億6,700万ドル(約1,455億円)の資金が提供される。これには最終的にブルーオリジンとスペースXが選ばれた。

さて、今述べたのはNASAという公的機関が受け持つ複数のミッションの中の一つに欠けている予算。では、アメリカ全体では宇宙開発にいくらの予算をかけているのだろうか?

The Planet Socityが公開している情報によると、 2023年度におけるアメリカの宇宙開発にかけている予算は254億ドル。日本円にして約3兆8100億円ほど。日本との宇宙関係予算と実に6倍以上の差がある。
ところで、繰り返しになるがアメリカのNextSTEPのフェーズ2で提供されている約1,455億円の資金は、あくまでNASAが受け持つ複数のミッションのうちの一つに充てられてたもの。この時点で日本の予算総額の約4分の1を占めている。
日本の宇宙開発予算は多いのか、少ないのか。これは控えめに言っても少ないだろう。

宇宙開発にかける予算が少ないということはすなわち、日本の宇宙開発が進まないことを意味する。ここに実は問題があるということを、皆さん自覚しているだろうか?

宇宙開発に政府が予算を割いている理由は、安全保障上の危機と災害への対応のためだ。
具体的に言うと、まず安全保障上の危機は、例えばロケットで人や物資を宇宙空間へ輸送する際、輸送に使うロケットが海外製だと軍事目的の衛星などが送りづらい。打ち上げられた衛星がロケットを持つ国の安全保障を脅かすようなものなら危険だからだ。
また、ロケットの製造技術そのものも輸入しずらい。これも先ほどと同様で、他国に製造技術のノウハウを渡してしまうと、その技術を元に作ったロケットだけでなくミサイルも製造できることを意味するので、国にとって脅威になるからだ。

災害への対応に関しては、例えば現在の日本の通信網は地上の基地局から電波を飛ばし、複数の中継局を経由しながら電線を通って我々の家庭に電波を届けている。つまり地続きで通信を行なっているのだ。
ところがこれだと、地震や津波が起きて局舎が被害を受ければ、日本各地で電波が使えなくなる。また、局舎を設置できない山間部や僻地に電波を届けられず、遭難や火災にあった時に緊急の連絡ができない。

日本は山に囲まれていてかつ自然災害も多い国。そんな国で陸地だけの通信網を引き続けていたらいざいと言う時に多くの国民が被害に遭う。それを避けるためには通信網を災害の影響を受けない場所に新しく作らなくてはならない。

そこで宇宙に目線が向く。人工衛星を宇宙空間に多数配置する(コンステレーションという)ことで、宇宙空間から電波を発信し、災害時でも安全確実に通信ができる。当然、これは私たちが日々抱えている通信不良の問題の解決にも繋がっている。
付け加えると、通信網を宇宙に敷くことは他の国にその通信網を売るチャンスにでもなる。グローバルなビジネスにも繋がるわけだ。
人命を守るという大義名分だけでなくグローバルにビジネスを展開して儲けるという狙いも含まれている。そのためには自国でロケットを製造し打ち上げられるだけの土壌を今から作っていかなければならない。そして、その実現には民間の力も必要。だから民間のスタートアップにお金を流してロケット開発を進めようとしているのだ。

ただ、内閣府からの資料を見ていると「ビジネス展開のため」という狙いがまだまだ少ない。つまり、宇宙開発が一大産業として成長するポテンシャルにまだ気付いてない印象を受ける。ここがより強調されれば、宇宙開発にお金がより流れるようになるかもしれない。
逆にこのまま宇宙開発の予算が中途半端になってしまうと、日本はITに続き宇宙開発の分野でも遅れをとり、国際的な競争力を得るチャンスを失う。そうなれば円安もさらに進行し、国民の税金負担はさらに上がってしまうかもしれない。何せ売りに出せる製品がないのだから。

今、日本の政府は防衛費増額を国民の税金を上げることによって賄おうとしている。資金確保のために税金を上げることが最適なのかどうかは議論があるものの、防衛費を上げるという点ではやみくもに否定してばかりもいられない。

今まさに隣国のロシアが戦争を仕掛けていて、中国も台湾を制圧しようと準備を進めているからだ。

日本と近いこれらの国々が戦争の雰囲気を醸し出しているこの状況下で、「平和第一」という名目から一切対策も打たずにいると、日本も領土を脅かされる可能性が非常に高い。これでは本末転倒だろう。
身を守るための力を高めるに越したことはないので、日本の政府もこうして防衛と向き合っている。そしてこの防衛費には、宇宙開発に向けた用途も含まれている。
この現状を少しずつでも理解していく必要があると、私は考える。

全ての知に「幸」あれ。


日本の通信の問題について書いた記事もあるので、こちらもぜひ。
【電波争奪戦】日本の周波数割り当て問題点とは?


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