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【オーバーストーリー】「木は生きている」を心のレベルで理解する

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜読む前の自分には戻れなくなる一冊〜

「いい物語は人を少し殺す。人を前とは違ったものに変える」

これは本作に出てくるセリフの一つである。

読み終えた後に、世界観や人生観が変わり、読む前の自分には戻れなくなる物語。
だいたい小説や映画に強く感化されるのは10代や学生時代であるのが一般的だが、僕は、幸いなことに、30代になってもそんな物語にいくつか出会っている。本作もそのひとつになった。

本作は、表面的には「森林破壊への警鐘」がテーマである。しかし、大きくみれば、これは「人と木のつながりの物語」「生命の繋がりの物語」ともとれる。
少なくとも、読み終えた後には"木"という存在が、今までとは違って見えるだろう。


〜人と木の関わりの物語〜

本作は複数の登場人物がいる。
四代にわたり木の写真を撮り続けてきた男。
木同士がコミュニケーションをとっていることを発見する植物学者。
飛行機の墜落から木に命を救われた元軍人。
障害を持ちながらも自らが作ったオンラインゲームを世界的にヒットさせたプログラマ。
感電死から奇跡的に生き返ってから特別な声が聞こえるようになった女子大生。

もとはバラバラだった人々の物語がやがてひとつに繋がっていく。そして、彼らを引き付けたのが"木"たちなのである。

彼らは木をもはやただの木とは認識していない。同じ根から派生した共通の生命だと精神のレベルで意識するようになる。
多くの人は、木を生物として見ることはほとんどないだろう。「森は生きている」という言葉を、心のレベルで認識している人はいないだろう。
しかし、時間のフレームが違うだけで、木も僕らと同じく言葉を持ち、感情を持ち、必要に応じて移動し、音や匂いを感じている、のかもしれない。

登場人物たちは少なくとも木に対してそんな感情を持っている。読み終えてから僕も木を見る目が変わる。
言葉や感情を持つ人間とただそこに生えているだけの木は全然違う、という考え方が間違っているのではないだろうか?と。


〜いい物語は心で理解させてくれる〜

議論がどれだけうまくても、人の心は変えられない。それが可能なのは、よくできた物語だけだ。

これも本文に出てくる一節だ。

この言葉に僕は非常に感銘を受けた。
岡潔さんや小林秀雄さんの著書にもあるように、人が何かを理解するというのは、心のレベルで理解するということだ。
いくら理屈が通っていようが、心で理解しなければ、人は納得できない。
そして、心で何かを理解するにはいい物語が必要なのである。

僕は、この物語がそんな力を持った物語であると自信を持って言える。

木は生きている。
それを心のレベルで認識するのに最適な素晴らしく面白い物語である。

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